就業者収入が増加し続ける香港、長時間労働が深刻に

前回の記事では、香港での人材と高学歴化について、香港政府統計処が発表した「香港的女性及男性主要統計数字 2021年版」のデータを基にお伝えしました。

これからの香港、特に若年層の就業者ではIT化という世界的なトレンドに適切な人材が多数いることが分かりました。

ではそれらの人材を雇用するために、香港では給与金額と勤務時間をどう設定すれば求職者と従業員にとって魅力的なのか、今回は同調査結果を基に、香港就業者の収入と労働時間についてご紹介します。

収入

過去数十年間、香港就業者の月収は増える一方で、コロナ禍で近年は主流である定期昇給が影響を受けることもありますが、今後も増えていく傾向です。

就業者の月収は過去30年間目覚ましい成長が見られ、香港は2020年に一番コロナ禍に影響されていたにもかかわらず、月収中位数の伸びは緩くなっただけで止まることはありませんでした。

1991年の月収中位数は6,000香港ドルに対し、2020年は17,700香港ドルに成長し、その中でも、月収30,000香港ドル以上のグループが1991年の男女合計約58,300人から2020年の975,100人に、一番成長を見せました。

2020年のデータで男性の月収中位数は、前年と同じく20,000香港ドルと変化がありませんが、女性は700香港ドル増の15,000香港ドルで、ここ数年横ばいの男性の賃金に対し伸びており、男女差がなくなってきています。

また、2011年5月~6月のデータによると、香港政府の雇員・《最低賃金条例》(Minimum Wage Ordinance)を免除された「実習学員」、「工作経験学員」と外国人ヘルパーを除き、時給の中位数は女性47.1香港ドル・男性57.5香港ドルでしたが、同データ、2020年5月~6月の数字は女性66.0香港ドル・男性83.0香港ドルに増加しました。

各産業・職務・学歴での収入中位数参考

では、各産業・職務・学歴の人材への給料を決める際に、具体的にどの数字を参考にすればいいでしょうか。

産業別でみると、2020年女性での月収中位数は公務員(31,000香港ドル)が一番高く、2位の金融が30,000香港ドル、3位の教育は26,500香港ドルです。

同データで男性での中位数は金融40,000香港ドル、公務員35,000香港ドルで、教育は33,400香港ドルになります。

中位数が一番低いのは男女同様小売・宿泊・飲食業(女性12,000香港ドル・男性15,700香港ドル)です。

国際標準職業分類(ISCO‐08)で分けると、女性は専門員(Professionals)48,000香港ドル、経理・行政関連(Managers and administrators)が40,400香港ドル、専門員のサポートに当たる準専門員(Associate professionals)が23,800香港ドルです。

一方、男性では専門員が50,000香港ドルで、経理・行政関連が45,000香港ドル、準専門員が23,800香港ドルになっており、準専門員においては女性の方が男性より上回っております。

また、単純作業(Elementary occupations)では女性10,200香港ドル・男性13,000香港ドル、男女同様一番月収が低くなっています。

学歴別から見た月収中位数では、高卒(=昔の制度の中学7年卒)では男性18,000香港ドル、女性15,000香港ドルで;高専卒の場合は男性20,000香港ドル、女性18,000香港ドル;大卒以上では男性35,000香港ドル、女性30,000香港ドルになり、高学歴の就業者の方が高い月収を得られる傾向が分かります。

勤務時間

給料は会社運営に欠かせないものですが、労働時間も当地の雇用において知っておかなければならない重要な項目です。

香港は世界で最も労働時間の長い地域の一つとして知られており、2020年のデータから見ると、勤務時間の長い外国人ヘルパーを除いても、7日間での平均勤務時間は女性40時間、男性44時間です。

実はかなりの就業者、特に男性が12%も、7日間での平均勤務時間が60時間以上で、深刻な長時間労働になっています。

法令で守られていない香港従業員の労働時間

日本と違い、香港では法定の労働時間に関しての法令が制定されていません。

香港政府は2010年に法定の労働時間(Standard Working Hours)への研究を承諾しましたが、後に契約労働時間(Contractual Working Hours)と時間外労働の強制的補償に変更しました。2018年にはそれらの法案を保留にし、法的拘束力のない「11つの産業の労働時間ガイドライン」の設立に再度変更しました。しかし、実は2021年現在、未だにそのガイドラインは発表されておりません。

また、日本の過労死等防止対策推進法のような法律がなく、過労死についての定義もなく、過重労働に関連した病気に罹患した労働者は補償を求めるのが困難になっています。

労働時間に関して法令もガイドラインもない一方、香港の従業員は一般的に「給料は契約で決められた労働時間に対して支給されている」という考え方を持っており、定時出社と定時退社が労働において基本的な目標になっております。なのに現実では、労働時間に法的保障がないので、怒られるやクビになる可能性を恐れ、残業代なしで残業している従業員がほとんどです。

香港職工会連盟(HKCTU)が2019年4月に発表した調査結果によると、香港の労働者でおよそ5人に1人が、昨年平均で週55時間、または1日に11時間働いていました。

警備、飲食、陸上運送、建設や小売部門の労働者の労働時間がもっとも長く、その中でも、特に警備員が最悪で、4人に1人が週72時間以上就業していました。

長時間労働に陥っているのは肉体労働やブルーカラー職種だけでなく、わずかな休憩でほとんど30時間以上オンコール勤務に就いている医師も、週55時間以上、もしくは70時間以上働いている教師も香港には多数います。

結果、仕事中に非労働災害で死亡した人数は毎年約140人弱になっており、バス運転手の過労で致命的な交通事故が起きたり、過酷な労働時間での自殺が起きたりしています。

労働時間への制約が承諾されて11年に経ち、政府側は労資両方の合意に至るのが難しいので未だに法令やガイドラインの制定についてスケジュールがないと発言しました。保障が少なく、長時間労働が社会病になっている香港では、ワーク・ライフ・バランスのできる仕事がとても重宝されております。

福利厚生の充実は、社員の企業へのロイヤリティを高め、企業にとって採用活動や人材定着にもかかわります。香港では関連の法令がありませんが、福利厚生の一環として、適切な労働時間と時間外労働補償を制定した方が企業の利益になるでしょう。

香港政府統計処が発表した完全版の調査結果はこちらのURLまでご参考ください:

https://www.censtatd.gov.hk/en/EIndexbySubject.html?pcode=B1130303&scode=180

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