コロナ政策と経済における問題、香港新政権の発足を機に解決されていくか

在香港日本国総領事館、ジェトロ香港事務所と香港日本人商工会議所の3組織は在香港の日本企業等が直面するビジネス環境を把握するために実施された調査の結果によると、2022年7月に発足した香港の新政権に「域外(特に中国本土・日本)との往来制限の早期撤廃」や「防疫対策の見直し」を期待している企業が7割を占めており、「物流の正常化」「雇用補助金の継続」など経済対策も要望されています。中長期的には、香港の優位性やビジネス環境維持、そして大湾区(GBA)や深センと接する元朗区と北区を中心とした「北部都会区(Northern Metropolis)」など更なる経済開発を望む意見もありました。

今回の記事では、調査で記述された各要望の実現状況についてご紹介します。

経済対策の効果

ヨーロッパのシンクタンクBruegel社の意見では、特に電子決済を普及させた「電子消費券」と給与補助金の「保就業計画(ESS)」が家計消費と就業に対して効果的とのことです。財政長官の陳茂波(Paul Chan Mo-po)氏が2022年10月2日のブログで、8月に配布した第一段階の「電子消費券」について、「その130億香港ドルの消費券は、配布した一ヶ月以内に約7割の金額が消費された。その中で、約6割は小売に、約3割は飲食に、約1割はサービス業に使用された」と述べています。また、「この措置のもう一つの目標は電子決済を普及させること。去年措置を初めて実施して以来、6社の電子決済サービスで合計約800万人の消費者と15万を超えるの店舗が新規登録された。電子決済の普及に伴い、ECでの取引額が急成長、今年は8月までで小売業のEC取引額が合計204.5億香港ドルに達し、前年比は約2割増加し、前々年比は7割超えの成長を見せた。合計売上高でのECの割合も去年の5.4%から現時点の9%に成長した」と、香港で日々重要になっている電子決済とECの状況を伝えました。

ESSについて、労働と福利局元局長の羅致光(Law Chi-kwong)氏は2022年3月に、「2020年6月の失業率は6.2%まで上昇した一方給料補助期間である7月~8月の失業率は6.1%~6.3%の間に維持できるのはESSによる『就業安定』効果だ」とコメントしました。

そして2020年11月から発生したコロナ第4波に伴った失業率の再上昇について、「2021年2月の失業率は7.2%に再上昇したが、コロナの状況が若干緩和された3月には既に失業率は減少しつつあり、4月からはさらに急減して、同年12月には3.9%へと、10ヶ月をかけて3.3%下がった。それに対して2003年SARSが香港を襲った時、同年6月の失業率が8.5%、3.3%下げるのに30ヶ月もかかった。2021年のリバウンドはその3倍だ。原因は色々あるが、ESSが大きな要因だと思う」とESSの効果を強調しました。

域外との往来制限の撤廃、防疫対策の見直しになるか

防疫対策の見直しは明言していませんが、香港政府は9月26日よりのホテル隔離措置を撤廃しました。

香港で一番有名なスポーツ大会の一つである香港セブンズは、今年11月にコロナ発生以来初めて開催され、この緩和措置の検証として期待されています。香港ラグビーフットボール協会(HKRFU)CEOのRobbie McRobbie氏は緩和された措置に残っている制限への懸念を表明しています。「スポンサーである国際企業は大会に対して疑念を持っているため、チケットの前売りは2019年の販売数より30%減少している。入境後3日間の自粛期間は大会会場には立入禁止となるため、海外からの観客にとっても不便で、チケットが完売できるかどうかは現時点では言い切れない。」また、350人の選手、コーチ及びメディカルチームは香港に到着後の3日間、会場とホテルとのみの移動に制限されるかはまだ確定していません。

現時点では、入境措置の緩和による最大の受益者は観光業界の経営者です。Sunflower Travel Serviceの次長はこの措置に対して「観光業界にとって非常に前向きの措置」だと評価しています。「緩和措置が発表された金曜日から、毎日300超えの問い合わせが届いている。主な客はこの3年以来初めて海外旅行を予定する香港居住者だ。」他の業界にとって、今回の緩和措置はいい影響と悪い影響の半分ずつのようです。緩和措置が発表後初めてとなる週末に、飲食グループのBlack Sheep Restaurants社の香港にある約40軒のレストランの売上が減少しました。グループの合同創業者であるSyed Asim Hussain氏によると、香港居住者はみんな香港から海外旅行に出ていることが原因です。「だが、残っている規制は観光客を香港に呼び寄せるのに魅力的ではない。香港政府に苦情を送るつもりだ。」

全体的に、この緩和措置は香港の経済と国際金融ハブの地位を維持するのにとって重要な一歩だと、S&Pグローバル・レーティング(S&P Global Ratings)アジア首席経済学者のLouis Kuijs氏がコメントしています。「国際的連結性において他の都市と競争するのに、入境措置の緩和は香港を公平な競争環境に立たせる事ができる。しかし、個人とビジネスの反応も航空会社の便数調整も時間が経てば叶うだろうが、近年香港から離れた人々やイベントは戻ってこないかもしれない。」

香港の優位性やビジネス環境維持が不安

入境措置は緩和されたのですが、香港の独特の優位性とビジネス環境を構成するもう一つの要因――政治的な状況への評価は未だに分かれています。S&Pグローバル・レーティング(S&P Global Ratings)アジア首席経済学者のLouis Kuijs氏の意見では、中国がゼロコロナ政策を維持するのに香港がそこから一歩抜け出せることは、「一国両制」での「両制」を強化でき、後日粤港澳大湾区(大湾区)の発展で香港の特色を発揮できます。

一方、2022年9月ニューヨーク・タイムズの記事では、今回の措置緩和が中国中央政府の許可を得た上で実施できた事実で、人々が香港の自治権喪失への懸念が強まってしまったとの意見です。「コロナ発生の前でも、香港で数ヶ月間も続いた大規模民主化デモへの参加で多くの市民が逮捕もしくは追い出され、団体や組織が活動中止され、香港での不可逆変化が既に進んでしまっている。」その上、コロナへの対応では前任の香港政府は中国の厳しいゼロコロナ対策を採用したり放棄したり、一貫していない行動を見せたことで、香港居住者の間では恐慌感が生まれ、香港在住の外国人を始め、多くの人は香港から離れることを選択しました。「香港の国際的名声は既に徹底的に破壊されている」と、香港で長い間コーポレート・ガバナンスを勤めていたDavid Webb氏がニューヨーク・タイムズの記事で指摘しました。

全体的に見ると、香港が金融・ビジネス・航空などの面で国際的なハブとしての地位が維持できるかどうかは中国と香港政府の方向性に深く依存しているため予測することが難しいですが、コロナ関連の制限はパンデミックの風土病化に伴い、続々と解除されていくに違いありません。店舗の賃料低下を機に新しく展開しているビジネスも不況でありながら現れ続けており、景気に顕著な回復が見られるまで香港政府が経済対策の実施で企業と民間を支え続ければ、香港の経済も徐々に修復するでしょう。

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