ポストコロナ時代の香港の現状!経済とビジネス環境の修復に向けて

米中対立やコロナの世界的感染拡大、香港国家安全維持法の施行など、香港のビジネス環境が大きく変化しています。特に世界で多くの国が既に「ウィズコロナ」政策へ転換する一方、中国は依然「ゼロコロナ」政策を堅持し、香港は長い間板挟みの状態が続いてきました。

2022年7月に発足した香港の新政権は、3年弱続いてきたホテル隔離の政策を9月下旬より撤廃し、コロナ関連措置のさらなる緩和が期待でき、ビジネス環境と経済が改善されると見込まれています。

在香港日本国総領事館、ジェトロ香港事務所と香港日本人商工会議所の3組織は在香港の日本企業等が直面するビジネス環境を把握するために調査を実施しました。今回の調査は在香港の日本企業を対象に2022年7月に実施され、有効回答数は295社(うち非製造業265社、製造業30社)となります。

今回の記事では、この調査結果による在香港日本企業の22年下半期への展望に基づき、現時点で改善されつつある香港のビジネス環境の現状をお伝えします。

22年上半期悪化傾向の業績、下半期に改善を見込む

22年1~6月の業績が21年7~12月期(前期)と比較して「悪化」または「大幅悪化」と回答した企業の割合は上昇し、35.6%(前期:19.1%)となりました。

業績の変化理由について、特に影響が大きかった要因は「新型コロナウイルス」関連(71.6%)が中国の景気動向(11.5%)や米中対立(2.9%)より遥かに高く、景気回復がパンデミックの状況に深く関わっていることがわかりました。

パンデミック状況の緩和につれ、22年7~12月期の業績見通しに「改善」と回答した企業の割合は前期(18.9%)から14.5ポイント上昇し、33.4%となっています。特に非製造業の情報・通信・メディア・広告(50.0%)、飲食・小売(66.7%)、運輸・倉庫(44.8%)で「改善」の回答割合が20ポイント以上改善と顕著に好転しました。

業績が変化する理由として、「改善見通し」と回答した企業の半分(51.6%)は「香港市場での売上増加」と見込んでいる一方、「悪化見通し」と回答した企業の45.5%は「中国本土への輸出低迷による売上減少」を主な理由としています。

ゼロコロナ政策によるマイナスの影響

未だに中国で実施されているゼロコロナ政策は、ビジネスに大きな打撃をもたらしています。

84.1% の回答企業が「マイナスの影響が生じている」と回答し、自由記述欄での回答のうち、約半数が「往来の制限による事業活動への支障」、「物流の停滞による出荷および仕入れの遅延・コスト増加」と「インバウンド客の減少などによる需要や売上への影響」が各々約2割を占めています。

ヨーロッパのシンクタンクBruegel社によると、香港政府が施行した厳格なソーシャルディスタンス規制が各業界と香港の経済に直接且つ幅広い影響を与え、香港の2022年第1四半期のGDPは前年比4%減少しました。3月のデータではPMIが42に減少し、香港域内も対外貿易も厳しすぎる入境措置により大きく影響を受けました。同期の経済状況について、香港浸会大学ジャーナリズム学系の元アシスタントプロフェッサー、杜耀明(To Yiu Ming)氏は「個人消費(5%減)、設備投資(8%減)と輸出(4.5%減)が特にひどい。3月の小売売上高が13.8%も減少した上、飲食業界の収益は記録上最低となり、景気回復のために社会は一刻も早くこの非常事態から回復しなければならない」と指摘しました。

コロナ規制を依然緩和しない香港に対し、国際航空運送協会(IATA)事務局長のWillie Walsh氏が9月21日に「中国のゼロコロナ政策によって香港は国際ハブ空港としての地位を既に失った」と非難しました。一方、ロイヤル・カリビアン・クルーズが香港での業務をシンガポールへ移転するとの報道を受け、香港観光業議会(TICHK)会長の徐王美倫(Gianna Hsu)氏が「今後2年間香港に泊まるクルーズ客船はなくなるだろう。母港としての地位が危うい」と警告しています。

香港のビジネス環境への評価 

1年前と比較した香港でのビジネスのしやすさについて、23.4%の企業が「悪化した」(21.4%)または「大きく悪化した」(2.0%)と回答し、項目別で見ると、「人材の確保」と「事業コスト」で「悪化した」または「大きく悪化した」と回答した企業がそれぞれ43.5%と35.7%となっています。また、自由記述欄で記入された具体的な「人材の確保」への悪化影響で、「人材の移住に伴う流出」との回答が大半を占めました。

香港の人口・人材流出が深刻に

実際、人材の流出はこの数ヶ月進んでおり、香港政府統計処(C&SD)が2022年第2四半期に発表した「年齢別の労働人口(Labour force by age and sex (excluding foreign domestic helpers))」のデータによると、香港の労働人口は全体で375.02万人、前年同期比で3.49%減少しています。20~49歳の6グループは全部マイナスになっており、特に20~24歳のグループは14.98%減という深刻な状況になっています。ブラックロックなどの大手グローバル投資企業が会員である香港投資基金公会(HKIFA)が最近行った調査の結果で、3割超の企業が区域やグローバルの執行役を一部もしくは全部香港から移転したと発表しました。香港の労働力は過去10年最低レベルになり、「今年末まで香港の経済はリセッションのままになるだろう」と香港の財政長官も警告しています。

コロナ関連を除き、香港の人材流出に影を落としている他の要因

人材流出の問題は、コロナ関連の各規制と影響以外に、愛国教育が推進される子女の教育環境、香港の高コスト構造など複合的な要因があります。

その中で各業界でも注目されているのは2020年6月より実施されている香港国家安全維持法(国安法)です。調査結果では41.1%の回答企業が、国安法について「大いに懸念している」(7.8%)または「懸念している」(33.3%)と回答しました。法への懸念理由の2~4位(情報に制限がかかる恐れがあるから(56.2%)、中国政府の干渉が増えて香港の自治が弱まる恐れがあるから(47.9%)、香港の「法の支配」「司法の独立」が失われる恐れがあるから(47.1%))を見ると、どれも香港が従来享受してきた「自由」の喪失への懸念で、最も懸念されている「人材が流出し、優秀な人材の確保が困難(68.6%)」という結果へと繋がっています。

実際、香港の変わり続ける政治的な雰囲気は人々に影を落としています。政府が去年発表した課程のガイドラインでは、「中国・中国のリーダー・中央政府に対する忠誠」が強調され、社会で「国安法が学校の課程にマイナスの影響を与えてしまうのは時間の問題だ」という声が増えて特に国際学校では人員補充が困難になっています。

また、国安法の適用範囲が幅広く、その不安定さでニューヨーク・タイムズを含めたマスコミ企業やNGOが2020年から続々と東京やソウルなどのアジア都市へ人員を移転しています。

では、様々な課題に今年7月に発足した香港の新政権はどうやって取り組んでいるか、経済の景気回復に繋がるコロナ政策から生み出した問題は解決されていくかについて、次回の記事でご紹介します。

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