【香港施政報告2024】経済活性化と中小企業支援を目指す新政策

香港政府は2024年の施政報告で、新たな経済政策を発表しました。これにより、香港証券取引所の上場手続きの簡素化や、技術革新の促進、中小企業への支援強化が進められ、香港の国際金融センターとしての地位がさらに向上することが期待されています。企業が持続的に成長し、世界市場での競争力を高めるための重要な施策に注目が集まるなか、香港経済の将来と新たなビジネス機会を詳しく見ていきましょう。

国際金融センターとしての強化

香港はアジア有数の金融ハブとしての地位をさらに強化すべく、2024年の施政報告において金融セクターの発展を促進する新たな政策を発表しました。特に、香港証券取引所(HKEX)での上場手続きの簡素化が重視され、これにより海外企業の香港市場参入が一層スムーズになり、資金調達の迅速化が図られます。特に中小企業に対する恩恵が期待されており、金融市場全体の活性化が見込まれています。

加えて、資本流出を抑えるための新たな施策も導入され、国内外の投資家が香港に資金を集める動きが強まると予測されています。例えば、税務優遇措置の対象範囲を拡大し、業界団体と協議の上でファンドや単一家族オフィスに対する税務優遇取引を増やす計画です。また、中東の大型主権基金との連携を強化し、共同で基金を設立し内地や他地域への投資を推進する構想も進めています。これにより、金融業界全体の競争力が向上し、企業にとっては資本コストの削減や効率的な資金運用が可能となります。

新産業の育成と技術革新

香港は技術革新を通じた新産業の育成に注力しており、特に生命・健康技術、人工知能(AI)、ロボット、半導体、スマートデバイス、先端材料、新エネルギー分野への投資を促進するために、100億香港ドル規模の「I&T Industry-Oriented Fund」を創設しました。このファンド設立は、香港が国際的なイノベーションおよびテクノロジーのハブとしての地位を強化する重要な一歩と位置付けられ、特に新興技術分野での競争力向上を目指しています。

また、新技術導入に伴うコストを削減するため、「科技券(TVP)」プログラムが拡充され、1プロジェクトにつき最大60万香港ドルの補助金が提供されます。企業は25%の自己負担で75%の補助金を受け取ることが可能で、デジタル化の推進に向けた力強い支援となります。

中小企業向け支援策の拡充

香港政府は中小企業向け融資担保計画を拡充し、融資時の元本返済猶予期間を12か月に延長しました。この措置により、中小企業は短期的な資金繰りが改善し、経営の安定を図ることが可能となります。

さらに、「BUD専項基金(BUD Fund)」に10億香港ドルを追加注入する計画が発表され、香港企業のブランド発展、アップグレード、転換、特に電子商取引の発展支援が進められます。また、電子商取引プロジェクトを支援する「電商易(E-commerce Easy)」計画の対象地域も中国のみから東南アジア10ヶ国へ拡大され、地域の電子商取引需要に対応し、香港企業の国際市場での競争力強化が目指されています。

各団体の反応

中小企業連盟は、「融資担保計画の拡充で資金繰りが改善し、新規事業投資が容易になる」と評価。経済アナリストも「中小企業への支援強化が地域経済の活性化につながる」と期待する一方、一部の経営者からは「返済猶予だけでは根本的な課題解決にならない」との声も上がっています。

酒税の引き下げ

香港政府は、アルコール度数30%を超える酒類に対する関税を現行の100%から10%に大幅に引き下げると発表しました。この変更は、1本当たりの輸入価格が200香港ドル(約4,000円)を超える部分に適用されます。今回の関税引き下げは、2008年にアルコール度数30%以下の酒類とワインの関税を撤廃した過去の成功を参考に行われており、特に焼酎やウイスキーなどの高級酒類の市場拡大と流通活性化を図る狙いがあります。

各団体の反応
香港レストラン協会の代表は、「アルコール税の引き下げによって、飲食店の利益率が改善し、消費者に提供する価格も抑えられる」と歓迎の意を表明しています。コロナ禍の影響を受けた飲食業界にとって、この措置は新たな経済的支援となることが期待されています。また、観光業関係者も、「観光客の呼び戻しに貢献するだろう」と述べ、特に高級レストランやバーが集中するエリアでは、訪問者数の増加が見込まれます。

一方、健康関連団体からは、「アルコール消費を促進するような政策は公共の健康に悪影響を及ぼす」との批判が上がっています。特に、アルコール依存症や健康被害への懸念が指摘されており、市民団体からも「税金の引き下げよりも、健全な飲酒文化の促進が必要」との声が挙がっています。若年層への悪影響を懸念する意見も多く見られます。

トップタレントパス・スキーム

高度な技術と知識を持つ人材を香港に呼び込むため、トップタレントパス・スキームが拡充されました。主な変更点は、対象大学を新たに13校追加し、合計198校としたこと、ならびに最初のビザの有効期間を2年から3年に延長したことです。これにより、さらに多くの優秀な人材が香港での就労と長期活動を目指しやすくなりました。

各団体の反応
大学関係者は、「優秀な学生や研究者を迎えることで、香港全体の教育水準や研究開発力が向上する」と期待を寄せており、国際競争力の向上につながるとの見解も示されています。また、テクノロジー企業からは、「新たな人材確保がイノベーションの促進に寄与する」と歓迎する声が上がっています。

しかし、一部の地元学生は、「外国人優遇政策によって自分たちの就職機会が減少する可能性がある」と懸念を表明しています。労働組合からも、「高度なスキルを持つ外国人が優遇される一方で、地元労働者に対する配慮が不足している」との批判が出ています。

雇用関連の制度変更

2024年の施政報告では、法定最低賃金(SMW)の見直しプロセスに関する重要な変更が発表されました。これまで2年ごとに行われていたSMWの見直しを、毎年実施する新しいメカニズムに移行することで、経済状況やインフレーションに迅速に対応し、低所得労働者の購買力維持を図ります。

2026年5月1日からは、SMWの年間調整が実施されます。新しい公式では、消費者物価指数(CPI)インフレーションと経済成長を考慮し、SMWの調整率を算出します。具体的には、CPIインフレーションに、実質GDP成長率と過去10年間のトレンド成長率との差に20%を掛け合わせた値を加算することで算出され、労働者が経済成長の恩恵を享受できる仕組みです。

さらに、雇用主が積み立てた年金(MPF)を解雇補償金や長期服務金の支払いに充当する制度も廃止されます。これにより、労働者が解雇時に年金が減少することなく、退職後の生活がより安定することが期待されます。詳細については、弊社の過去記事にもご参考ください。

各団体の反応
市民団体の一部は、「法定最低賃金の見直しによって生活水準の向上が期待できる」と評価しています。また、労働者からも「生活費上昇への対処には最低賃金の引き上げが必要」との声が挙がっています。一般市民からは「生活費上昇と最低賃金引き上げだけでは不十分で、より包括的な政策が求められる」との意見も見られ、今後の政策のさらなる改善を望む声が広がっています。

まとめ

2024年施政報告で掲げられた新政策は、香港をアジア有数の金融とイノベーションの拠点にするための重要な一歩です。これらの政策は、金融市場や技術分野での競争力強化、また中小企業支援を通じた地域経済の活性化を促進します。企業にとって、資金調達の簡素化や税務優遇措置が新たなビジネス機会を創出し、革新的な技術導入も加速させる可能性があります。これにより、香港に拠点を置く企業は、より効率的に資本を活用しつつ、国際競争に対応できる強固な基盤を築けるでしょう。

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参考:
1)The Chief Executive’s 2024 Policy Address. https://www.policyaddress.gov.hk/2024/en/index.html