「推し活」が生み出す新たなビジネスチャンスとその可能性
「推し活」という個人の情熱を起点とする活動は、現在、エンターテイメントや地域振興を超え、多様な業界で新たな価値を生み出しています。今回の記事では、この文化的現象がどのようにビジネスチャンスを拡大させ、企業にとって成長の原動力となり得るのかを解説します。経済活動と消費者行動の新たな可能性を探るうえで、ぜひご一読ください。
「推し活」とは?
「推し活」とは、個人が特定のアーティスト、キャラクター、スポーツチーム、さらには企業ブランドに対して積極的に支援し、その活動を楽しむことを指します。この活動は、ライブやイベントへの参加、関連商品の購入、SNSでの情報共有など多岐にわたります。特に最近では、デジタル技術の発展に伴い、活動内容がさらに多様化し、個々の消費行動が拡大しています。
英語でも「Fandom(ファンダム)」という言葉がありますが、それは特定の作品やテーマに関連するファンコミュニティ全体やそのサブカルチャーを指し、比較的広範な文化的コンセプトとして使われるのに対し、「推し活」はより個人的で情熱的な活動を意味し、日本独自の文化や感情が込められていると言えます。そのため、「fandom」はコミュニティや集団的な面を強調し、「推し活」は個人の行動や感情に焦点を当てている点が大きな違いです。両者ともに「好きなものを応援する」という共通の目的を持ちながら、表現する形や範囲が異なると言えます。
SNSの普及と推し活の成長
SNSの普及は「推し活」において重要な役割を果たしています。ファンはオンラインコミュニティを通じて情報を共有し、互いに「推し」の魅力を伝え合うことで、さらに多くの人々がその活動に参加するようになりました。この動きはエンターテイメント業界にとどまらず、地域活性化や観光産業にも波及しています。
また、推し活は個人のエンターテイメント活動という枠を超え、社会や経済における一つの現象として捉えられるようになりました。特に若者を中心に、推し活はライフスタイルや価値観の一部として定着しています。この現象は、消費者と企業の新しい関係を築く可能性を秘めていると言えます。
日本における推し活市場
日本では、特にエンターテイメント分野での「推し活」が活発です。アイドルやアニメ、ゲーム関連のイベントには、多くのファンが足を運び、関連グッズの販売も盛況を見せています。日本財務省が発表した広報誌「ファイナンス」のコラムによれば、コロナ禍前の2019年のライブエンタメ市場規模は約6,295億円となっており、2025年には6,639億円への拡大が予想されます。この数字は、推し活が日本経済にも大きな影響を及ぼしていることを示しています。
さらに、地方自治体も推し活を地域振興の手段として活用しています。例えば、アニメやゲームの舞台となった地域では、「聖地巡礼」として多くの訪問者を集めるケースが増加しています。埼玉県秩父の「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」や鳥取県境港市の「ゲゲゲの鬼太郎」関連観光地など、キャラクターや作品が地域経済に寄与している例は少なくありません。
また、日本独自の推し活文化として「オタク文化」の存在が挙げられます。この文化は、個人が特定の趣味に対して熱心に取り組む姿勢を象徴しており、関連市場の拡大に寄与しています。推し活を支える産業には、ライブエンターテイメントだけでなく、フィギュアやグッズ製作、さらにコラボカフェの運営など、多岐にわたる分野が含まれます。
世界における推し活の拡大
世界的にも「推し活」は広がりを見せており、特にエンターテイメントやスポーツ、デジタルコミュニティを中心にその影響力が拡大しています。
韓国では、K-POPの成功が推し活の国際的な発展において重要な役割を果たしています。アーティストが国際市場を意識した戦略を展開し、音楽だけでなく関連グッズやファン向けのデジタルサービスの提供が盛んです。また、アメリカではマーベル(MARVEL)など映画やテレビドラマなどが巨大なファンダムを生み出し、キャラクターや作品のグッズ販売、コンサート、コンベンションなどが盛況を見せています。ヨーロッパにおいても、サッカーチームのファン活動が活発で、スタジアムでの観戦だけでなく、オンラインでのライブストリーミングやチーム関連商品の購入が主要な経済活動となっています。
一方、中国ではアイドル文化やオンラインゲームのプレイヤーコミュニティが推し活の中心となっており、そのファン経済は「低年齢層」「高消費」「組織化」「大規模化」といった特徴があります。i-researchが発表した「中国紅人経済商業模式及趨勢研究報告」によると、2020年のファン経済に関連する産業の市場規模は4.1兆人民元(約88.24兆円)を超えています。
このように、推し活は文化的背景や地域特性に応じて多様に進化し、世界中で新たな経済活動を生み出しています。
ビジネスへの影響と可能性
推し活の広がりは、一般企業にとっても新たなビジネスチャンスを提供しています。その中核にあるのは、ファン経済の膨大な規模とその影響力です。エンターテイメント業界に限らず、多岐にわたる業界が推し活を取り入れることで恩恵を受けています。
例えば、ファッション業界では、特定のアーティストやキャラクターを起用したコラボ商品が人気を集めています。ファンは推しキャラクターやアーティストが身に着けているアイテムを購入する傾向が強く、それが売上増加につながっています。同様に、美容業界でも、推し活をきっかけにした新しい商品ラインの開発や広告キャンペーンが成功を収めています。
食品業界においては、推し活との関連性を活かしたプロモーションが注目されています。特定のキャラクターをテーマにした限定パッケージや、アーティストとのコラボメニューが消費者の購買意欲を刺激しています。さらに、地域特産品と推し活を組み合わせた事例も増えており、地元経済への貢献が期待されています。
また、デジタル技術を活用したファンエンゲージメントの取り組みも重要です。企業がファンの声を収集し、データを分析することで、よりターゲットに合った商品やサービスを提供できるようになります。特に、SNSを活用したキャンペーンやオンラインイベントは、地理的な制約を超えてファンとのつながりを深める手段として有効です。
さらに、企業はファンコミュニティを通じてブランドロイヤルティを高めることができます。たとえば、会員プログラムや限定特典を導入することで、ファンの関心を引きつけ、一回限りの購入ではなく、長期的な関係構築を図ることが可能です。このような取り組みは、推し活市場の拡大とともに、ますます重要性を増すでしょう。
今後の展望
「推し活」は今後も進化を続け、さらなる市場拡大が期待されています。デジタル技術の進化に伴い、ファンとブランド、アーティストのつながりはより深まり、地理的な制約を超えた新たなエンゲージメントの形が生まれるでしょう。
企業は、このトレンドを積極的に活用することで、新たなビジネスチャンスを創出できる可能性があります。推し活を通じて形成されるファンコミュニティは、単なる消費者集団を超え、ブランド価値を高める重要な資産となるでしょう。
例えば、アーティストやブランドがファンと協力して商品開発を行う「コ・クリエーション」モデルや、地域イベントと連動したプロモーションなど、新しい可能性が次々と生まれています。推し活を中心にしたマーケティング戦略は、特に若年層やデジタルネイティブ世代に対するアプローチとして効果的です。
まとめ
「推し活」は、個人の情熱を経済活動に変える力を持つ文化現象です。SNSやデジタル技術の発展により、ファンとブランドのつながりはますます深まり、ファンコミュニティは単なる消費者集団を超えた存在となっています。企業にとっては、推し活を活用したマーケティング戦略が新たな収益源を生み出す鍵となり得ます。地域活性化、デジタルエンゲージメント、コ・クリエーションモデルなど、多様なアプローチが可能であり、特に若年層やデジタル世代への影響力が高いことが注目ポイントです。今後も進化するこのトレンドを積極的に活用することで、ビジネスは新たな成長機会を見いだすことができるでしょう。
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参考:
1)推し活の経済効果はどれくらい?市場規模と推し活マーケティングのメリットとは. (2024, October 25). Cross Marketing. https://www.cross-m.co.jp/column/marketing/mkc20241025
2)企業が取り入れる推し活マーケティングとは?事例や成功のポイントを解説. (2023, April 25). Cross Marketing. https://www.cross-m.co.jp/column/marketing/mkc20230425
3)Yukari. (2023, September 4). Japanese Subculture – Oshikatsu. How To Japan. https://howtojapan.net/2023/09/04/japanese-subculture-oshikatsu/
4)『2025年推し活トレンド予想』推し活ブランドOshicocoが発表!. (2024, November 22). PR Times. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000090.000095735.html
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6)[2024]使活動的歷史!最新推薦的營銷市場和未來的過渡預測. センイルJAPAN. https://twn.birthdayadjp.shop/blogs/senil-%E6%94%AF%E6%8C%81%E5%BB%A3%E5%91%8A%E6%9C%89%E7%94%A8%E7%9A%84%E6%96%87%E7%AB%A0/2024-oshikatsu-research?shpxid=9a168f10-eef6-4608-87b0-1de59e594394
7)Namita bohara. (2024, November 4). From Enthusiasts to Partners: The Impact of Fan Culture on Modern Marketing. ET Edge Insights. https://etedge-insights.com/in-focus/opinion/from-enthusiasts-to-partners-the-impact-of-fan-culture-on-modern-marketing/
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9)B.Stage Releases the 2024 Fandom Trends Report, Providing Key Insights For Business Growth In the Age of Fandom Tech. (2024, February 21). B.Stage. https://bstage.in/article/2024-fandom-trend-report-en/
10)楠原 雅人/胡桃澤 佳子. (2022, November). ライブエンタメ市場の現状と今後の展望. 財務省. https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202211/202211j.pdf
11)飯圈經濟:要麼花錢要麼花時間,還有一套網絡術語. (2021, September 8). BBC. https://www.bbc.com/zhongwen/trad/chinese-news-58475660
12)Forecast: Sports Fandom to Generate £13bn a Year for UK by 2034. (2024, September 10). Advanced Television. https://advanced-television.com/2024/09/10/forecast-sports-fandom-to-generate-13bn-a-year-for-uk-by-2034/