2025年関税戦争:企業に迫る新たな試練と戦略転換の好機
国際貿易のルールが、今まさに塗り替えられようとしています。2025年初頭、アメリカが打ち出した関税政策の大幅な転換は、世界のサプライチェーンと企業活動に深刻な影響を及ぼしています。グローバル企業にとって、この変化は脅威であると同時に、新たな競争優位性を構築する機会でもあります。ビジネスリーダーに求められるのは、迅速な対応と戦略的な意思決定です。今回の記事では、2025年におけるアメリカの関税政策強化の背景と時系列的な展開を整理し、それが企業活動やグローバルサプライチェーンに与える影響を分析します。
2025年における関税戦争
2025年初頭、アメリカのドナルド・トランプ大統領は、「アメリカの貿易赤字の縮小」および「国内産業の保護」を主要な政策目標として掲げ、関税政策の全面的な強化を発表しました。2月1日、大統領令が署名され、カナダ、メキシコ、中国などの主要貿易相手国に対する高関税の課税が開始されました。さらに2月13日には、トランプ大統領が通商チームに対し、各国の対米貿易障壁に関する包括的調査を指示し、「対等関税」措置の準備を進めるよう命じました。
主要措置と時系列の展開
- 2月1日
アメリカはカナダおよびメキシコからの輸入品に対し25%の関税を課すことを決定(ただし、カナダの石油およびエネルギー製品に対しては10%)。同時に、中国からの輸入品にも10%の追加関税を課し、既存の関税に上乗せする形となりました。 - 2月13日
トランプ大統領は、各国がアメリカに対して設けている関税・為替政策・貿易収支等を含む貿易障壁について詳細に調査を行い、「対等関税」政策の立案を通達しました。 - 3月4日
アメリカの新関税が正式に発効。これに対抗し、カナダおよびメキシコが報復関税を発表。カナダはアメリカ製品に対し25%の関税を課し、その対象総額は当初の300億カナダドルから1,550億カナダドルにまで拡大。メキシコもまた、関税および非関税障壁の両面から報復措置を取る方針を明示しました。 - 3月6日
アメリカは、一部のUSMCA(米・メキシコ・カナダ協定)に準拠した商品に関し、暫定的な関税免除措置を発表。しかしながら、その適用期間については明示されておりませんでした。 - 4月2日
アメリカは「対等関税の日(Liberation Day)」を宣言し、すべての輸入品に対し一律10%の追加関税を課すと同時に、57ヶ国と地域に対してはより高率の関税を新たに導入しました。中国からの輸入品に対して実効関税率を54%まで引き上げたほか、スリランカ、スイス、台湾、タイなどその他の国々に対しても32%〜44%の関税を課しています。 - 4月3日
鉄鋼、アルミニウム、自動車および自動車部品など多数の製品カテゴリーに対し25%の追加関税を課す措置を発表し、その適用範囲も段階的に拡大されています。 - 4月8日
中国が4月4日に発表した、すべてのアメリカ産輸入品に対する34%の報復関税措置を撤回しなかったことを受け、アメリカは中国からの輸入品に対する関税を104%へ引き上げることを発表しました。 - 4月9日
トランプ大統領は中国製品に対する関税率を145%(従来の20%の懲罰関税を含む)に引き上げる方針を発表しました。同時に、75ヶ国以上からの貿易交渉の要請に対応する形で、アメリカは一部対象国に対する「対等関税」の適用を90日間停止する措置を講じました。ただし、中国は報復措置を公言していたことから、この猶予措置の対象外とされ、引き続き厳しい関税措置の影響を受けています。 - 4月10日
中国は迅速に対抗措置を打ち出し、アメリカ製品に対する関税を125%まで引き上げ、加えてレアアース(希土類)資源の輸出制限を強化しました。これにより、米中双方の関税障壁は歴史的な水準にまで達し、両国間の貿易は事実上の機能停止状態に陥っています。両国間の緊張は冷戦時代を彷彿とさせる対立構造となり、世界市場の不安定化が一段と加速しています。
4月17日時点で、アメリカの中国製品に対する関税率は145%(一部の商品は245%まで達しています)、中国のアメリカ製品に対する関税率は125%で、「現在の関税水準では、アメリカから中国への輸出品はすでに市場での受容可能性を失っている状況であり、アメリカが今後関税を引き続き引き上げても、中国はこれを一切相手にしない」と中国側が示しています。また、5月2日より、中国および香港からの低価格輸入貨物(800米ドル以下)に適用されていた免税措置(de minimis)が撤廃され、国際郵便網以外の手段で送付される中国および香港からの低価格貨物には、貨物価格の30%または1件あたり25米ドルの関税が課されることとなり、6月1日以降はこの金額が50米ドルに引き上げられる予定です。
一方、中国以外の国々との貿易交渉のスケージュールでは、「韓国、イギリス、オーストラリア、インド、日本」の5ヶ国が優先され、台湾、イスラエルとベトナムとは既に交渉が始まっています。
これらの動向は、2025年における国際貿易体制に深刻な影響を及ぼすことが懸念されており、各国政府および国際企業にとっては、自国の経済・産業政策を見直す重要な局面を迎えています。引き続きアメリカの関税政策の動向と、それに伴う各国の対応策を注視する必要があります。
アメリカの経済的影響力
2023年の国別人口ランキングでは、3位のアメリカの人口は約3億4千万人で、人口14億超えのインド(1位)と中国(2位)の4分の1しかいません。
人口と経済は密接な関係があるとよく言われていますが、なぜ世界人口3位のアメリカ一国だけで世界経済全体にこんなに大きく影響するのでしょうか?その理由は以下の点が挙げられます:
- 世界最大級の消費市場
アメリカはGDPにおいても個人消費においても世界最大の規模を有し、多くの国がアメリカ市場への輸出を重要な経済基盤としています。 - グローバル・サプライチェーンの中核
多国籍企業の本拠地・研究開発拠点・販売拠点としての役割が強く、アメリカの政策変更が国際的な生産・物流ネットワークに直結します。 - ドルの基軸通貨性
国際貿易の多くが米ドル建てで行われており、アメリカの金融・通商政策は他国の通貨政策や輸出入価格に即座に波及します。 - 同盟国・FTA圏との連携
北米・欧州・アジアなど主要地域との自由貿易協定(FTA)や安全保障上の関係性を通じて、アメリカの政策が多国間貿易の枠組みに影響を及ぼす構造となっています。

(2022年データ)
出典:https://wits.worldbank.org/
そこで、今回のグローバル的な関税戦争の影響をより深く理解するには、今までのアメリカ貿易傾向を知っておくことが必要です。
アメリカは世界最大の経済大国であり、サービス業、製造業、農業など多様な分野で貿易が活発です。2024年の貿易統計によると、アメリカの貿易赤字は1兆2117億ドル(約185兆円)で過去最大を記録しました(通関ベース)。これは、輸入が堅調な個人消費に支えられ6.0%増の3兆2955億ドルに達した一方、輸出が世界的な景気停滞により1.9%増の2兆838億ドルにとどまったためです。
輸入 | 輸出 | |
傾向 | ・個人消費の強さに支えられ、特に消費財(家電、衣料品、自動車など)の輸入が顕著 ・2023年にはメキシコが中国を抜き、輸入額で首位となった(輸入額:4272億米ドル) ・中国からの輸入は米中対立の影響で20%減少し、全体に占める割合は13.9%(ピーク時の21%から低下) | ・エネルギー(石油・天然ガス)、農産物(大豆、トウモロコシ)、航空機、機械類が主要品目 ・輸出先ではカナダ、メキシコ、EUが上位を占め ・NAFTA圏内での貿易が活発 |
主要貿易品目・金額・割合 (2023年および2024年のデータに基づく) | ・消費財(家電、衣料品、玩具など):約30% →中国からの輸入が大きく、2024年の中国からの輸入額は2954億米ドル(貿易赤字の最大相手国) ・自動車および部品:約15% →メキシコ(首位)、カナダ、日本からの輸入が多い →日本からの輸入額は685億米ドル(7番目) ・原油・石油製品:約10% →カナダや中東からの輸入が主 ・工業用品・機械:約20% →EUや日本からの輸入が顕著 ・医薬品・化学製品:約10% →EUやインドからの輸入が増加 | ・エネルギー(石油・天然ガス):約20% →2023年の輸出額は1478億米ドル(中国向け) ・農産物(大豆、トウモロコシ、小麦):約15% →アジア(特に中国)やEU向け ・航空機・輸送機器:約15% →Boeing社製品など、EUやアジア向け ・機械・電子機器:約25% →半導体やコンピュータ関連製品が含まれる ・化学製品・プラスチック:約10% →グローバルな需要に応じた輸出 |
主要貿易相手国と割合 (2024年のデータに基づく) | メキシコ:15.7%(4272億米ドル、2023年に中国を抜き首位) 中国:13.9%(2954億米ドル、過去最大の貿易赤字相手国) カナダ:約13% 日本:約5%(685億米ドル、7位) EU(ドイツ、フランスなど):約15% | カナダ:約18% メキシコ:約16% 中国:約8%(1478億米ドル) EU:約20% 日本:約5% |
まとめ
2025年の関税戦争は、一過性の貿易摩擦ではなく、国際経済秩序の再編成を示唆する重要なシグナルです。企業は、調達コストや通商リスクの増大に直面する一方で、生産拠点の見直しや地域戦略の再設計により、新たな機会を創出することが可能です。これからのビジネスには、通商政策の変化を前提とした柔軟かつ長期的な視野での経営戦略が不可欠となります。迅速な情報収集と分析、そして全社的なリスクマネジメント体制の構築こそが、変動する国際環境を乗り越える鍵となるでしょう。
次回の記事では、今回の関税戦争を引き起こしたアメリカと未だに貿易交渉の要請がなくて報復関税を何回か返している中国への影響、そしてそれがどのように今後の国際貿易ルールを変えていくことについて考察します。
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参考:
1)トラオ. (2025, April 5). 2025年アメリカの相互関税が世界を揺らす!私たちの暮らしと物価はどうなる?. Note. https://note.com/torao_aicolumn/n/na5b7b740613a
2)2025 United States Trade War with Canada and Mexico. (n.d.). Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/2025_United_States_trade_war_with_Canada_and_Mexico
3)Tariffs in the Second Trump Administration. (n.d.). Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Tariffs_in_the_second_Trump_administration
4)michael j. lowell, philippe heeren, justin angotti, lizbeth rodriguez-johnson, kirsten lowell & courtney e. fisher. (2025, April 16). Trump 2.0 Tariff Tracker. ReedSmith. https://www.tradecomplianceresourcehub.com/2025/04/16/trump-2-0-tariff-tracker/
5)湯淑君. (2025, April 3). 比最糟推演情境還糟!川普「解放日」關稅震驚全球市場. 經濟日報. https://money.udn.com/money/story/5599/8651648?from=edn_editorrelated_story
6)張鎮宏. (2025, April 14). 一個美中不再貿易的全球經濟新局?川普關稅戰迫切的背後邏輯、戰略轉機與中國困境. 報導者. https://www.twreporter.org/a/hello-world-2025-04-14
7)鄭鴻達. (2025, April 17). 台灣不在關稅談判「優先五國」?郭智輝林佳龍:已經談過了!「吃苦當吃補」被砲轟,本人這樣說. Yahoo!新聞. https://tw.news.yahoo.com/%E5%8F%B0%E7%81%A3%E4%B8%8D%E5%9C%A8%E9%97%9C%E7%A8%85%E8%AB%87%E5%88%A4-%E5%84%AA%E5%85%88%E4%BA%94%E5%9C%8B-%E9%83%AD%E6%99%BA%E8%BC%9D%E6%9E%97%E4%BD%B3%E9%BE%8D-%E5%B7%B2%E7%B6%93%E8%AB%87%E9%81%8E%E4%BA%86-%E5%90%83%E8%8B%A6%E7%95%B6%E5%90%83%E8%A3%9C-210002196.html
8)陳鎧妤/呂佳蓉. (2025, April 16). 白宮稱中國面臨高達245%關稅 中國官媒:文字遊戲. CNA. https://www.cna.com.tw/news/acn/202504160184.aspx
9)Fact Sheet: President Donald J. Trump Closes De Minimis Exemptions to Combat China’s Role in America’s Synthetic Opioid Crisis. (2025, April 2). The WHITE HOUSE. https://www.whitehouse.gov/fact-sheets/2025/04/fact-sheet-president-donald-j-trump-closes-de-minimis-exemptions-to-combat-chinas-role-in-americas-synthetic-opioid-crisis/