【シンガポールの電子決済サービスまとめ2025②】飲食小売と特典還元の最良パートナー「GrabPay」と「FavePay」

「シンガポールの電子決済サービスまとめ2025」では3回に渡り、現時点シンガポールにおける主要な電子決済サービスを6つご紹介します。2回目は、ASEANの主要国での地域横断事業展開をサポートする「GrabPay」と販促支援ツールとしての色彩が濃い「FavePay」を取り上げ、シンガポール市場における決済戦略の実態とそのビジネス的示唆を解説します。

シンガポールの決済事情

シンガポールはアジアでも有数のデジタル決済先進国であり、現金に依存しない社会への移行が急速に進んでいます。政府の政策支援と技術革新により、個人・企業両方が非現金決済を日常的に活用し、決済手段のデジタル化が加速しています。

まず、電子決済やデジタルウォレットの普及が著しく、2023年にはPayNow、NETS、PayLah!、GrabPay、Singtel Dashなどの主要アプリのユーザー数が540万人に達しました。国民の約48%が電子ウォレット、47%がQRコード決済を利用しており、31%は外出時に現金を持たずモバイル決済のみで生活しています。また、クレジットカードやデビットカードも広く利用されており、約450万人が主要ユーザーとされています。97%が定期的にカードを利用し、82%がコンビニや小売、交通で非接触型決済(NFC)を選択しています。Visa保有者のうち95%がタッチ決済機能を活用しており、シンガポールは非接触決済の世界的リーダーとなっています。

オンラインでは2024年に電子ウォレットの利用が27%に達し、クレジットカードを上回る主流決済手段となりました。実店舗では、クレジットカード38%、現金26%、デビットカード17%、電子ウォレット11%となっており、ウォレットの伸びが期待されています。

一方、現金の使用は急速に減少しており、2024年の小売決済における現金比率は19%にまで低下。POSで現金を使用する消費者は26%にとどまり、大手チェーンや交通機関、ECでは現金非対応が増加しています。2027年には現金比率が7%まで下がると予測されています。政府はPayNowや共通QRコード「SGQR」の推進を通じてインフラ整備を進めており、国民・企業の約80%がすでにPayNowを導入済みです。こうした取り組みが、非現金社会のさらなる定着を後押ししています。

総じて、シンガポールでは利便性と安全性を兼ね備えた多様な非現金決済手段が主流となり、キャッシュレス社会の国際的モデルとして注目を集めています。

広域決済アプリ「GrabPay」

GrabPayの基本情報

運営:Grab Holdings Inc.
初リリース:2016年1月(GrabPay Credits)
対応OS:iOS、Android
対応言語:英語、マレー語、タガログ語(フィリピン)、タイ語、中国語、韓国語、日本語、ビルマ語、カンボジア語、インドネシア語、ベトナム語
対象:18歳以上、利用対象国の身分証明証・電話番号・銀行口座を持つユーザー
送金形式:P2P送金、QRコード決済、後払い・分割払い
ユーザー数:約1億
対応企業数:600,000を超え
公式サイト:
https://www.grab.com/my/pay/

GrabPayとは何か?スーパーアプリ内ウォレットの全貌
GrabPayは、東南アジア最大級の「スーパーアプリ」であるGrabが展開するモバイルウォレットサービスです。Grab自体は2012年に配車アプリとして誕生しましたが、現在ではフードデリバリー、日用品配送、旅行予約、保険、金融サービスなどを包括的に提供する「生活インフラ」となっています。その中でGrabPayは、アプリ利用者が一元的に決済できる「金融のハブ」として重要な役割を担っています。

GrabPayを利用することで、ユーザーは以下のような形で支払いを行うことが可能です:

  • Grabアプリ上での配車料金、フードデリバリー代金、ショッピング決済
  • 提携店舗でのQRコードによるインストア支払い
  • 電子マネー残高のチャージやP2P送金
  • 公共料金の支払い、プリペイドカードチャージなど日常生活の幅広い決済

特にQRコードによる支払いは、加盟店がアプリ内に自店舗を掲載することによって、Grabの巨大な利用者基盤から直接送客を受ける導線となり、オンラインとオフラインを結ぶ重要な手段になっています。

GrabPayの企業向け導入メリット

  • 東南アジア全域での広範な利用基盤
    Grabはシンガポールを本拠地とし、マレーシア、インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナムなど東南アジア主要国に展開しています。GrabPayはその全地域で利用可能であり、地域横断で事業を展開する企業にとっては、複数の決済手段を個別導入する必要がなくなるメリットがあります。Grabは東南アジアで毎月数千万人規模のアクティブユーザーを抱えており、GrabPayはその日常利用に直結する形で組み込まれています。企業側は、このユーザー母集団へのアクセス権を得られる点が最大の魅力です。
  • GrabRewardsとの連携による顧客ロイヤルティ向上
    GrabPay決済を利用すると、顧客は自動的に「GrabRewards」ポイントを獲得できます。このポイントは配車や飲食、ショッピング時に割引として利用可能であり、加盟店にとっては再来店やリピート購入を促す強力な仕組みになります。例えば、GrabRewardsを利用した特典キャンペーンを打つことで、他店舗との差別化を図ることもできます。顧客は割引や特典を期待してGrabPayを積極的に選ぶ傾向があり、結果的に加盟店舗の利用頻度向上に直結します。
  • 安全性と信頼性を備えた決済基盤
    Grabは金融サービスを提供する上で、暗号化や24時間体制の不正監視を実施しています。これにより、不正取引やフィッシングのリスクが最小限に抑えられ、企業にとっては安心して決済を受け入れられる環境が整っています。さらに、Grabは各国の金融規制機関によるライセンスを取得して運営しており、地域ごとに異なる法的要件を満たしている点も安心材料です。
  • 柔軟な支払いオプション「PayLater」
    GrabPayには、即時支払いに加えて「PayLater」という後払い/分割払いサービスが用意されています。顧客は「翌月一括」あるいは「4回分割・無利息」での支払いを選択できるため、高額商品の購入やサービス利用の心理的ハードルが下がります。企業側は顧客に柔軟性を提供しつつ、実際の売上入金は最短5営業日で確定するため、キャッシュフローに不安を抱える必要がありません。特に家電・旅行・高級飲食といった分野で、PayLaterは売上拡大の大きな推進力となっています。
  • 多様な導入チャネルと容易な統合性
    GrabPayは、対面型店舗・オンラインストアの両方に導入が可能です。
      →オンラインストア:ShopifyやWooCommerceなど主要ECプラットフォームとの統合モジュールを用意。APIによる柔軟なカスタマイズも可能。
      →オフライン店舗:QRコードの提示による即時決済を採用。顧客がアプリを立ち上げ、コードをスキャンするだけで完了するシンプルさが特徴。

導入にあたって留意すべき実務的ポイント

  • 登録・加盟手続きと必要書類
    GrabPayの加盟に際しては、事業者登録や銀行口座情報、事業許可証、税務関連書類、代表者身分証などが必要です。国によっては、承認までに5営業日前後を要するケースが一般的です。導入を検討する場合は、イベントや新規店舗開業などに合わせて余裕をもった申請スケジュールを立てる必要があります。
  • 売上入金サイクルとキャッシュフロー管理
    GrabPayでは、取引額は自動的に指定口座へ送金されます。通常、数営業日以内に処理されるため、現金管理の煩雑さが軽減されます。ただし、国ごとの銀行休日や清算スケジュールによって遅延が発生する可能性もあるため、自社のキャッシュフロー計画に組み込む際は慎重な検討が必要です。
  • セキュリティ運用と従業員教育
    QRコードによる決済は利便性が高い一方で、偽造コードの差し替えやデバイスの不正利用といったリスクも存在します。そのため、従業員に対しては「正規のQRコードの掲示方法」や「不審なアクセスの検知方法」など、基本的なセキュリティ教育が求められます。Grabはセキュリティ基盤を提供していますが、加盟店側も二重のチェック体制を持つことが望ましいです。
  • プロモーション施策との組み合わせ
    GrabPayを単なる決済手段として導入するのではなく、プロモーション戦略に組み込むことが成果を高める鍵となります。例えば、GrabRewardsポイント倍付けキャンペーンを実施したり、PayLater利用時の割引特典を設定するなど、顧客体験を拡張する仕組みを設けると効果的です。
  • コスト構造の理解
    GrabPayの加盟店手数料は国や業態によって異なります。一般的には数%程度ですが、加盟時の条件や契約形態により変動する場合があるため、導入前に必ず確認する必要があります。単なる手数料コストとしてではなく、集客・ロイヤルティ・売上増加の効果と総合的に比較検討することが重要です。

GrabPay導入による効果事例
Grabが公開している事例によれば、PayLaterを組み合わせた場合に売上が前四半期比で120%増加した企業や、Grabアプリ内での露出効果と割引施策の相乗作用で売上が+583%となった中小企業の事例も報告されています。さらに、加盟店がGrabのスーパーアプリに掲載されたことで、従来顧客の継続利用率が28%上昇したケースもあります。

これらはGrabの強力なマーケティング基盤と、柔軟な決済オプションの導入が、企業の集客力・販売力を短期間で大幅に底上げする可能性を示しています。特に競争の激しい都市部市場においては、GrabPay導入が顧客流入の差別化要因となり得ます。

顧客維持型店舗還元決済「FavePay」

FavePayの基本情報

運営:Fave Asia Sdn Bhd
初リリース:2017年8月
対応OS:iOS・Android
対応言語:英語、インドネシア語
対象:で、利用対象国の電話番号、クレジットカード・銀行口座など支払い手段を登録できるマレーシア・シンガポール・インドネシアの居住者
送金形式:QRコード決済、後払い・分割払い
ユーザー数:600万超え
対応企業数:15,000 店舗以上
公式サイト:
https://lp.myfave.com/favepay

FavePayとは?
FavePayは、マレーシア発のキャッシュレス決済サービスであり、特に「飲食」「美容」「フィットネス」「小売」といった生活密着型の店舗で広く利用されています。GrabPayが「スーパーアプリ内の包括的ウォレット」であるのに対し、FavePayは「店舗と顧客のリピート関係を強化するためのプラットフォーム」と位置づけられます。
単なる決済手段にとどまらず、クーポンやキャッシュバックを組み合わせた「販促支援ツール」としての色彩が濃い点が大きな特徴です。

FavePayの仕組みと特徴

  • キャッシュバックを核としたリピート促進
    FavePayの最大の特長は「キャッシュバック」です。顧客が支払いを行うと、一定割合(通常は5〜30%程度)が自動的に「FavePay Credit」としてアプリ内に還元され、次回以降の支払いに利用できます。これにより顧客は「また同じ店に戻れば実質的な割引が受けられる」という動機づけを得られ、加盟店にとってはリピーター獲得が自然に促進されます。
  • 加盟店側の柔軟な設定
    加盟店は、キャッシュバック率を自由に設定できます。例えば新規開業店舗は20%還元で集客力を高め、常連顧客が定着した段階で10%へ引き下げるといった戦略的運用が可能です。さらに、Faveアプリ内での掲載やプロモーションにより、新規顧客へのリーチも期待できます。
  • モバイルQRコードによる簡易決済
    支払いの流れはGrabPayと同様にQRコードをベースにしています。顧客が店舗のQRコードをスキャンし、金額を入力して支払うシンプルな方式です。ハードウェア投資がほとんど不要なため、個人経営の飲食店や美容院でも導入しやすいのが特徴です。
  • 決済以外のマーケティング機能
    FavePayは決済手段に加え、次のような販促支援機能を提供しています:
      →店舗ページ上での割引クーポン販売
      →ターゲティング可能なキャンペーン告知
      →過去利用履歴をもとにした顧客分析

これらを通じて、単なる支払い処理ではなく「顧客を呼び込み、繋ぎ止める」ことに重点を置いた仕組みが整えられています。

企業が導入するメリット

  • 顧客維持コストの最適化
    FavePayのキャッシュバックは「即時割引」とは異なり、次回利用を前提とする仕組みです。そのため、加盟店は利益を削ることなく顧客を繰り返し呼び込めます。これは、広告投資や大規模キャンペーンを展開できない中小規模事業者にとって非常に効果的です。
  • 新規顧客獲得のチャネル
    Faveアプリ内に掲載されることで、近隣の潜在顧客に認知されやすくなります。ユーザーは「キャッシュバックのある店」を積極的に探す傾向があり、自然な流入が期待できます。特に競合が多い都市部においては、Faveアプリ経由の送客は有力な販促チャネルとなります。
  • 初期コストと導入ハードルの低さ
    専用端末や複雑なシステムは不要で、QRコードを印刷して店頭に掲示するだけで始められます。これにより、小規模事業者や新興店舗でも導入しやすいのが強みです。
  • 決済データの活用可能性
    加盟店は、顧客の来店頻度、平均購入額、再訪率といったデータをアプリ上で確認できます。このデータを活用することで、キャッシュバック率の調整やクーポン施策の最適化が可能となり、実務的な改善につながります。

導入時の留意点

  • キャッシュバックのコスト管理
    キャッシュバックは販促効果が高い一方、過度に設定すると利益圧迫につながります。業種・客単価・リピートサイクルを考慮し、持続可能な率を設計する必要があります。
  • 売上入金サイクル
    FavePayの決済代金は通常数営業日以内に加盟店口座へ送金されます。ただし、利用国や銀行の処理状況によって差異があり、現金商売中心の業種ではキャッシュフロー計画に注意が必要です。
  • 他のキャッシュレス手段との併用
    FavePayは万能ではなく、GrabPayやクレジットカードと比べると利用可能エリアや顧客層に偏りがあります。そのため、他決済と併用し、顧客の多様なニーズに応える体制を整えることが望ましいです。
  • プロモーション依存のリスク
    FavePayの効果は「割引や還元」に強く依存するため、過度にキャンペーンに頼ると「割引前提の顧客」を生みかねません。長期的にはサービス品質や商品力と組み合わせることで、健全な顧客基盤を構築する必要があります。

活用事例と実務的インパクト
実際の事例では、FavePay導入により顧客再訪率が大幅に改善した飲食店や、キャッシュバック施策で新規顧客が急増したフィットネスジムが報告されています。これらはFavePayが単なる決済基盤ではなく「マーケティング・ロイヤルティ強化ツール」として機能していることを示しています。特に中小規模事業者にとっては、大規模広告に頼らずに顧客基盤を拡大できる実践的な手段となり得ます。

まとめ

GrabPayとFavePayはいずれも東南アジア市場において企業や店舗が注目すべきキャッシュレス決済手段ですが、その位置付けと活用の方向性には明確な違いが見られます。GrabPayは配車・フードデリバリーなど多面的に展開する「スーパーアプリ」に組み込まれており、既に膨大なユーザー基盤を有している点が最大の強みです。特に、シンガポールをはじめとする主要都市での認知度が高く、観光客や幅広い年齢層に対応できるため、広域な集客や新規顧客獲得を重視する企業に適しています。また、ポイント還元や各種金融サービスとの連動により、単なる決済以上の付加価値を提供できる点も、ブランド力やロイヤルティ形成を狙う事業者には大きな魅力となります。

一方で、FavePayは地域に根差した中小規模の飲食店・小売店に強く支持されているサービスです。導入コストや手数料が比較的低く、さらにキャッシュバックを中心とした仕組みによってリピーターの来店を自然に促進できる点が特徴です。GrabPayほどの認知度や利用領域の広さはないものの、費用対効果を重視する店舗や、常連客との関係性を深めたい事業者には有効な選択肢といえます。

両者を比較すると、GrabPayはスケールの大きな事業展開や多角的な顧客接点を求める場合に有利であり、FavePayは顧客単価の積み上げや再訪率の向上を狙う場合に有効です。さらに、近年は両社の提携も進み、相互のサービスを補完的に活用できる環境が整いつつあります。そのため、どちらか一方を選ぶのではなく、事業の規模や目標に応じて両サービスを戦略的に組み合わせることが、企業にとってより実務的かつ効果的なアプローチとなるでしょう。

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MAYプランニングでは、POS・ERP・会計システムとの統合に関するサポートを行っています。また、決済インフラ導入戦略の策定や決済を活用した顧客ロイヤルティ・販促施策などについてのアドバイスも提供しております。

参考:
1)Going Cashless Is Easy with GrabPay. (n.d.). Grab. https://www.grab.com/my/pay/
2)Flexible Payments to Drive More Checkouts. (n.d.). Grab. https://www.grab.com/my/merchant/checkout-solutions/
3)Grow Your Business with GrabPay. (n.d.). Grab. https://www.grab.com/ph/merchant/pay/
4)Guide to Alternative Payment Methods. (n.d.). BigCommerce. https://support.bigcommerce.com/s/article/GrabPay
5)GrabPay. (n.d.). Adyen. https://docs.adyen.com/pt/payment-methods/grabpay/
6)GrabPay Payment Method in Singapore. (2022, February 11). Oceanpayment. https://www.oceanpayment.com/blog/20494/
7)GrabPay. (n.d.). Pay.Com. https://pay.com/payment-methods/grabpay
8)Scan to Pay with FavePay  Go Cashless, Get Rewarded. (n.d.). FavePAY. https://lp.myfave.com/favepay
9)GrabPay. (n.d.). Adyen. https://www.adyen.com/payment-methods/grabpay
10)GrabPay: Enabling Smoother, Safer Payments in Southeast Asia. (2019, September 18). Adyen. https://www.adyen.com/knowledge-hub/grabpay-enabling-smoother-safer-payments-in-southeast-asia
11)Fave Pilots BNPL Services for Over 6 Million Users in Singapore and Malaysia. (2021, June 28). Fintech News Singapore. https://fintechnews.sg/52193/lending/fave-pilots-bnpl-services-for-over-6-million-users-in-singapore-and-malaysia/
12)Fave l Cashback & Savings. (n.d.). App Store Preview. https://apps.apple.com/sg/app/fave-l-cashback-savings/id1135179082
13)Grab: Taxi Ride, Food Delivery. (n.d.). App Store Preview. https://apps.apple.com/us/app/grab-taxi-ride-food-delivery/id647268330