香港雇用条例のグレーゾーン?Uber Eats香港撤退の賠償不足疑惑からみる曖昧な雇用形態
フードデリバリーサービス「Uber Eats」が昨年末を以って香港でのサービスを停止しました。しかし、それで幕が下りたわけではなく、今年1月24日、工聯会服務業総工会(Service Industry General Union, HKFTU)の自由工作者分会(HKFSU)労働組合が40名以上のUber Eats元牛業員と、Uber Eatsの撤退につき解雇への賠償不足で、労資審裁処(Labour Tribunal)へ訴えを提起しました。
訴えを提起した元従業員の中で、仕事中にケガしたのに半年以上経っても傷病手当金が受け取れていない人もいれば、有給休暇や法定休日をもらっていない人もいますが、すべての賠償不足の原因はただ一つ――「個人事業主」であるかどうかです。
今回の記事では、Uber Eatsの件を踏まえて、香港の《雇用条例》における「従業員」と「個人事業主」についてご紹介します。
香港の《雇用条例》では雇用形態は2種類のみ
《雇用条例》というのは、すべての従業員(個人事業主、公務員や政府が雇用主である従業員、《商船条例》や《徒弟条例》に適用される者などを除く)に適用される法律です。
多くの人は雇用形態を「フルタイム」や「パートタイム」などで分けていますが、雇用主それぞれが「フルタイム」や「パートタイム」への解釈が違ため、《雇用条例》における分け方は以下の2種類のみです:
1.「継続的契約」
従業員が同一の雇用主に4週間(*)以上連続して雇用され、かつ1週間の労働時間が最低18時間以上である場合、その雇用契約は「継続的契約」となります。
*「継続的契約」における「週間」は「土曜日を最終日とする週間」を指しています。つまり「継続的契約」の条件を満たすのに、雇用期間は土曜日を最低4回含めなければなりません。
2.「継続的契約」でない雇用契約
上記の条件に満たしていない雇用契約となります。雇用契約が「継続的契約」か否かは雇用主に挙証責任があり、雇用主は雇用契約が「継続的契約」ではないことを証明する必要があります。
《雇用条例》が適用されるすべての従業員は労働時間の長さに関わらず、賃金の支払いや賃金控除制限、法定休日の付与など条例で規定されている基本的な保障を享受します。
「継続的契約」に基づき雇用される従業員は、休息日、年次有給休暇、傷病手当、解雇補償金や長期服務金など、より多くの法定権利を享受できます。
「従業員」と「個人事業主」の境目がグレーゾーン
気になる「個人事業主」というのは、「雇用される」より「パートナーシップ」という関係で、《雇用条例》での保障は適用されませんが、現在では「雇用関係」と「パートナーシップ」を区別できる特定の要素がありません。
一般的には主に下記の3つの観点から判断します:
1. 支配権
雇用関係の場合、仕事内容や指示、勤務時間などは雇用主によって制定される傾向があります。
2. 生産要素の保有と提供
雇用関係の場合、仕事道具は主に雇用主が提供し、パートナーシップの場合、仕事道具が自前であることが多いです。例えば、ヘアサロンの美容師が個人事業主である場合、自前のハサミで仕事することが多く見られます。
3. 経済面
雇用関係の場合、従業員が経済的損失リスクを負担しなくていいですが、パートナーシップの場合は個人事業主も一部負担する場合があります。
また、税務と強制退職積立金(MPF)に関しては、雇用関係の場合は雇用主が申告しますが、パートナーシップの場合は個人事業主が自分で申告する必要があります。
しかし、それでもはっきり区別できない場合が多く、最終的に判断を下せるのは裁判所のみです。
Uber Eatsの件の場合、HKFSUの王師樂主席によると、今回のバイク配達員は職歴2~5年で、固定した勤務時間と勤務地が制定され、一週間に6~7日毎日9~12時間勤務していました。休む場合は事前Uber Eatsへの申請が必要で、病気休暇でも最低1時間前に申請しなければなりませんでした。「その上、注文の完成率などで配達員に制限がかかるため、Uber Eatsは配達員の仕事の大部分の支配権を持っていると思われ、パートナーシップではなく雇用関係であると考えられる」と王主席がコメントしました。
企業側としての対応方法
雇用関係でのグレーゾーンの争議を避けるために、従業員側は契約にサインする前にきちんと確認しておくべきですが、企業側としてどう対応すればいいでしょうか。
1. 雇用契約かパートナーシップ契約かをはっきり書いておく
相手への口頭説明はもちろん、細かくなりますが、企業側の保証のために相手が「従業員」か「個人事業主」かを契約内容にはっきり書いておくべきです。
しかし、注意すべきなのは、契約内容が全てではなく、もしUber Eatsの件と同じく、実際仕事のスケージュールや内容が企業側に仕切られたり雇用関係になる傾向が見られる場合、例え契約内容に「パートナーシップ」と書いてあっても争議を招いてしまう可能性があります。
2. とりあえず従業員として扱う
一番無難なのは相手を従業員として扱うことですが、労災保険、仕事道具やMPFなどの支出が発生するため、コストのバランスを考慮しておくべきです。
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