【香港の電子決済サービスまとめ2023②】中国系の「Alipay HK」と「WeChat Pay HK」

「香港の電子決済サービスまとめ2023」の2回目は、中国系の電子マネーサービス「Alipay HK」と「WeChat Pay HK」をご紹介します。
両者とも中国発の電子マネーサービスで、中国で膨大なユーザー・対応店舗数を誇り、数年前に香港版をリリースしたものです。香港・中国への行き来が多い方は必見です。

タオバオで知られている「Alipay HK」

AlipayHKの基本情報

運営:Alipay Payment Services (HK) Limited(CKハチソン・ホールディングスとアントグループの合資会社)
初リリース:2017年5月25日
対応OS:iOS、Android
対応言語:英語、中国語(繁体字・簡体字)
対象:認証しない場合は特に制限なし、認証するには香港身分証明証が必要
送金形式:P2P、P2M
ユーザー数:500万人以上(2020 年まで)でアクティブ・ユーザーは270万人以上
対応企業数:10 万以上(2022年6月まで、香港)
公式サイト:
https://www.alipayhk.com/en/shoppers/

Alipayといえば、中国のタオバオでよく知られている決済システムです。
そのAlipayが香港で開始したローカライズされた電子マネーサービスとは、Alipay HKです。

中国・マカオに拡大し、日常生活化していくサービス
2019年、広東省、香港、マカオの大湾区9都市の一部の店舗で、事前に外貨両替しなくても直接買い物するのが可能になりました。同年、中国での全国的な利用が承認され、対応店舗は全国合計数百万ヶ所と大規模です。これにより、中国のアリペイを使用しなくても普通に支払えるようになりましたが、中国のアリペイアカウントと併合や互換性があるわけではないので、両方のアカウントをお持ちの方は要注意です。

交通機関への対応もこの3年間少しずつ追加され、香港・中国の往来がより便利になっています。
2021年、MTR(軽鉄、MTRバスを除く)の運賃払いに利用できるQRコードを導入し、同年にKMBバスの一部路線とFortune Ferryでの運賃払いに利用可能になりました。2023年、QRコードで香港と深センのバス・深セン地下鉄・香港のMTRの運賃払いが可能になりました。

現在Alipay HKは、中国とマカオだけでなく、日本、韓国、シンガポールなど、人気の旅行先でも使えるようになっています。また、一部の店舗と連携した旅行キャンペーンでは特典などが提供されています。

中国に留まらず、東南アジアに拡大していくクロスボーダー送金機能
前回ご紹介したBoC Payと同様、Alipay HKもクロスボーダー送金機能があります。現在の送金先は中国、フィリピン、インドネシアに限られていますが、将来他の国々への拡大も計画しています。

・中国への送金
中国のアリペイを送金先にする場合、着金はリアルタイムで、手数料は無料です。
送金先のデフォルト銀行口座に送金する場合、着金は15分以内で、手数料は25HKDとなります。

・フィリピンへの送金(手数料15HKD)
送金先がGCashの場合、着金はリアルタイムで、手数料は毎月の1回目が無料となります。
受取人がCebuanaまたはPalawanで現金を引き出す場合、送金完了後最短15分後、画面に表示されるコードでげんきんを引き出すことができます。銀行口座への送金の場合、最短1営業日で着金します。

・インドネシアへの送金(手数料15HKD)
送金先は、DANA、Gopay、OVO、ShopeePay、LinkAja、BCA、BNIなど、インドネシアの5つの電子マネーサービスとすべての主要銀行に設定することができます。着金は最短1分で、「送金履歴」で送金の進捗状況を確認できます。

認証状況に制限される機能と限度額
消費券の使用を含む現地店舗決済の基本機能は、必須なのは電話番号のみで、本人認証は必要ありませんが、より多くの機能の利用や利用限度額の増加には、身分証明証などの書類をアップロードして認証しなければなりません。ここでは未認証アカウントと認証済みアカウントの違う点について簡単にご紹介します:

未認証認証済み
必要情報・電話番号         ・電話番号
・香港身分証明証       
・住所
・顔認証
残高上限3,000HKD100,000HKD
送金限度額一日:3,000HKD一日:20,000HKD
店舗にて現金での
チャージ限度額
(50HKD単位)
一日:3,000HKD一日:5,000HKD
受取限度額一年:25,000HKD一年:200,000HKD
チャージ限度額一年:25,000HKD無制限
支出限度額一年:25,000HKD無制限
クロスボーダー支払い限度額一件:3,000HKD一件:50,000HKD
銀行口座への引き出し限度額不可無制限
消費の取引限度額一件:3,000HKD無制限
情報源:Alipay HK アプリ(2023年8月)

気になるタオバオでの支払いですが、現在Alipay HKでは、未認証の場合アプリ内の残高での支払いは不可となっていますが、アカウントにリンクしたクレジットカードでは利用できます。手数料は無料となっているカードもありますが、一般では1.3%~1.5%かかります。

また、Alipay HKは企業・店舗用のビジネス版もありますが、公式サイトでは詳細が記載されておらず、Alipay HKのカスタマサービスに電話連絡する必要があります。

中国最大の通信アプリWeChatの付属機能「WeChat Pay HK」

WeChat Pay HKの基本情報

運営:WeChat International Pte. Ltd.
初リリース:2011年 1月 30日(通信アプリ自体、電子マネーサービスは2016年より)
対応OS:iOS、Android
対応言語:英語、中国語(繁体字・簡体字)
対象:香港の携帯電話番号・香港発行のクレジットカードまたは銀行口座・香港身分証明書を所有しているユーザー
送金形式:P2P、P2M
ユーザー数:500万人以上(2022年4月まで)
対応企業数:15万以上(2022年6月まで、香港)
公式サイト:
https://pay.wechat.com/en/index.shtml

WeChat Payは通信アプリのWeChatに備え付けている電子マネー機能で、その香港版はWeChat Pay HKです。海外版については、以前南アフリカ版のWeChat Walletとマレーシア版のWeChat Pay Malaysiaもありましたが、現在はマレーシア版と香港版のみとなっています。

上記のAlipay HKと同様、WeChat Pay HKでの残高は中国版のWeChat Payアカウントと互換性がなく、資金の移動・直接振替・共有ができません。また、認証システムも同じく、限度額が認証状況に制限されています:

認証の状態未認証      未認証      銀行振込での認証済み銀行振込+顔認証済み
銀行のキャッシュカード/
クレジットカードとのリンク
なしリンク済みなしなし
中国での取引限度額不可25,000HKD100,000HKD200,000HKD
残高上限3,000HKD3,000HKD100,000HKD100,000HKD
情報源:WeChat Pay HK

通信アプリであるメリットを受けて強化される中国での利用
2018年より、WeChat Pay HKでは中国で一部の店舗にて支払うことができるようになり、2023年時点で中国で利用可能の店舗は100万以上となっています。 中国の銀行口座をリンクせずとも、香港の銀行口座またはクレジットカードをリンクすればクロスボーダー消費ができます。決済時、金額は自動的に人民元(RMB)を香港ドル(HKD)に換算するため、WeChat Payの所在地設定を切り替えたり、事前にRMBを換金したりする必要はありません。このようにアプリでの残高での利用は手数料無料ですが、注意が必要なのは残高不足の場合クレジットカードでチャージしたりクロスボーダー送金したりすると、クレジットカードにより手数料を徴収されます。

なにより注目すべきのは、WeChat Pay HKは中国最大の通信アプリWeChatの中にあるため、WeChatにあるミニプログラム(微信小程式)と連携できるのが最大の魅力点です。ミニプログラムとは、WeChatの中で使用できるアプリで、別途のダウンロードやインストールが必要ないのが特徴的です。店舗や飲食店はもちろん、中国政府、企業、メディアやその他の組織または個人の開発者が中国居住者とやり取りする際によく使っているサービスで、2018年時点でユーザー数が4億人を超えている大人気な機能です。

WeChat Pay HKとミニプログラムの連携は、例えばフードデリバリーを注文したい時は、ミニプログラムで注文してWeChat Pay HKで支払い、全部WeChatの1つのアプリ内に完結できます。飲食店の他にも、高速鉄道の切符を購入できる「中国鉄路12306」やタクシーの手配などの交通サービスを提供している「DiDi」など多くのサービスがその連携で利用できます。また、Alipay HKと同様、WeChat Pay HKもQRコードでの運賃払いができます。対応範囲は香港、深センや広州のバスや地下鉄となっています。

店舗の対応客層を広げるビジネス版
中国版WeChat Payの海外対応店舗の申請で、中国の観光客は既存のWeChat Payアカウントを使って海外でも支払うことができます。ユーザーがRMBで支払い、WeChatは対応店舗に直接HKDで決済し、香港の銀行口座に入金します。つまり、WeChat Pay HKと中国版のWeChat Payの対応店舗に同時になれば、最大数の顧客を獲得できます。

まとめ

中国系の電子マネーサービスは他の香港企業や銀行が提供するのと比べて、データプライバシーやセキュリティ上の懸念はありますが、中国での取引が便利だという点が一番の魅力点でしょう。元々中国発の電子マネーサービスであるため、アプリの自動通貨変換を通して、百万ヶ所以上の中国店舗で直接香港ドルを使えるような使い勝手がいいです。

Alipay HKは、中国での取引をサポートしつつも国際的に拡大しているのが魅力です。特にフィリピンやインドネシアへのクロスボーダー送金は独自機能で、香港で多くの利用者を獲得しており、今後はより多くの国での導入が期待されています。

一方、WeChat Pay HKには、中国最大の通信アプリWeChat、特にその中のミニプログラムとの連携が最大のメリットです。中国の日常生活での支払いをより便利にしており、中国居住者向けの機能がとても充実しているため、香港・中国に頻繁に通う必要のあるユーザーには特に魅力的でしょう。

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