【世界が日本ブランドに抱く印象とビジネスチャンス⑦】親日文化とデジタル社会が生むインドネシアの成長市場
ASEAN最大の人口を抱えるインドネシアは、近年ますます日本企業から注目を集める存在となっています。約2億7,000万人の人口規模に加え、中間層の拡大、若年層の豊富さ、そしてデジタル技術の急速な浸透が、消費市場としての魅力を高めています。さらに注目すべきは、日本に対するインドネシア人の高い好感度だ。外務省が2023年に実施した「ASEANにおける対日世論調査」によれば、インドネシア人回答者の59%が日本を「現在重要なパートナー」と答えており、将来的にも日本の役割を期待する声は52%に達しています。評価の背景には、「高い経済力・技術力」「豊かな伝統と文化」「生活水準の高さ」に加え、アニメやファッション、和食といったカルチャー面での影響力も挙げられています。
こうした好意的な視線は、日本ブランドの展開に大きな追い風となり得ます。今回の記事では、インドネシア人の生活習慣や価値観、食文化やデジタル行動を軸に、その特徴がどのようなビジネスチャンスにつながるのかを考察していきます。
インドネシア人の生活習慣と価値観
家族を重視するライフスタイル
インドネシアでは、家族が生活の中心にあります。週末にはショッピングモールや観光地へ家族全員で出かける習慣が一般的で、消費も「家族単位」で行われます。そのため、日本ブランドが進出する際には、ファミリー向けの店舗設計やプロモーションが重要です。例えば、日本食レストランなら大人用と子ども用のメニューを併設するなど、幅広い年齢層に対応できる工夫が求められます。
都市と地方の格差
ジャカルタやスラバヤなどの都市部では所得水準が高く、外食やデジタルサービスの利用が盛んです。一方、地方では依然として伝統的な商習慣が根強く残っています。このため、都市部ではプレミアム志向、地方ではコストパフォーマンス志向といった二層構造を前提に、複数の価格帯を展開する戦略が有効です。
宗教的背景と消費行動
インドネシア人の約9割はムスリムであり、食やファッションにおける「ハラル対応」が安心感につながります。ただし、その重視度は人によって異なります。認証を重視する層もいれば、豚肉不使用であれば問題ないと考える層もいます。日本ブランドにとっては、柔軟な対応力が信頼構築の鍵となります。
デジタル社会と消費行動
スマートフォン中心の生活
インドネシアは「モバイルファースト社会」と呼ばれるほど、スマートフォン利用が浸透しています。情報収集から購買までを一貫してスマホで完結させる人が多く、ECやアプリ経由での商品購入が一般化しています。日本ブランドにとっては、オンライン販売チャネルを前提とした戦略設計が欠かせません。
SNSの影響力
Instagram、TikTok、YouTubeなどのSNSは購買行動に直結しています。インフルエンサーのレビューや動画が認知拡大につながり、特にTikTokの「動画+EC機能」は衝動買いを促しています。日本ブランドが成功するには、広告よりも現地クリエイターとの協業によって「自然な商品体験」を発信することが効果的です。品質や文化的背景といった「日本らしさ」を活かすと共感を得やすくなります。
電子決済の普及
銀行口座を持たない層が多い一方で、GoPayやShopeePayなどの電子ウォレットが急速に広がっています。これにより、従来参入障壁だった決済の問題が緩和され、越境ECやオンライン直販の可能性も拡大しています。
デジタル戦略の方向性
インドネシア市場においては、製品力だけでなく「発見から購入までのデジタル体験設計」が成功の鍵となります。SNS活用、消費者レビューの拡充、動画コンテンツの展開、スムーズな決済導入など、複合的なアプローチが必要です。
食文化と日本食への関心
多民族国家における多様な食文化
インドネシアは17,000を超える島々と300以上の民族から成り立つ多民族国家であり、食文化も非常に多様です。各地域で独自の伝統料理が存在し、辛味や香辛料を多用した料理が一般的です。こうした多様性は、外食産業や食品市場において新しい味やブランドが受け入れられやすい土壌を生み出しています。
辛味・揚げ物・甘味を好む嗜好
インドネシア人は辛味や揚げ物、そして甘味を好む傾向が強く、日常的にフライドチキンや甘い飲料を消費しています。しかし、都市部では健康志向が高まり、サラダや低カロリー食品への関心も拡大しています。
外食産業の発展と日本食の人気
日本食は「ヘルシーでおしゃれ」というイメージを持たれ、若者や中間層を中心に人気を集めています。寿司やラーメンだけでなく、日本式スイーツやベーカリーも受け入れられており、特に抹茶やいちごといった日本由来のフレーバーは高い支持を得ています。
ハラル認証・ノンポーク表示の重要性
イスラム教徒が人口の9割を占める同国では、ハラル認証の有無やノンポーク表示が消費行動に直結します。日本企業が食品市場に進出する際は、この点への配慮が欠かせません。実際、ハラル認証を取得した日本ブランドは現地で競争力を高めることに成功しています。
健康志向とウェルネス市場
生活習慣病リスクの高まり
経済成長と都市化の進展に伴い、糖尿病や高血圧といった生活習慣病のリスクが顕在化しています。これを背景に、政府も健康意識の向上を推進しており、国民の間で健康志向が広がっています。
フィットネス・健康商品ブーム
都市部ではフィットネスジムやヨガスタジオの利用者が増加し、ウォーキングイベントやマラソン大会も人気です。さらに、コールドプレスジュースやオーガニック食品といった「自然志向の健康商品」にも注目が集まっています。
伝統的ジャムーの再評価
伝統的な薬草飲料ジャムーは、現代的なパッケージやカフェスタイルで再解釈され、若い世代に再び受け入れられています。伝統とモダンが融合するこの動きは、現地市場のユニークな特徴と言えます。
訪日医療ツーリズムの潜在需要
インドネシア人は訪日旅行において「医療・健康」を目的にするケースもあり、人間ドックや先進医療を受けたいと考える層が存在します。医療ツーリズムは新たなビジネス領域として、日本企業にとって大きな可能性を秘めています。
ファッションとライフスタイル
所得向上とファッション支出の増加
所得の向上に伴い、インドネシア人のファッション支出は年々増加しています。特に都市部の若年層や働く女性を中心に「見た目への投資」が強まっています。
ヒジャブ・イスラムファッションのトレンド
イスラム人口が多い同国では、ヒジャブが宗教的役割を超えてファッションアイテムとして機能しています。インフルエンサーやSNSがトレンドを後押しし、オンラインを通じた拡散のスピードは非常に速いです。
日本ブランドの定着と競争環境
ユニクロはシンプルかつ高品質な商品で現地市場に定着しましたが、地場ブランドや韓国ファッションとの競争は激しさを増しています。日本企業がさらなる成長を目指すには、ローカライズとSNSを活用した効果的な発信が不可欠です。
ポップカルチャーと日本ブランドへの親近感
アニメ・漫画・アイドルによる文化基盤
インドネシアではアニメや漫画が長年にわたり人気を集めています。特に若年層を中心に、日本のキャラクターやストーリーは親近感を持って受け止められており、関連グッズやイベントも盛況です。さらに、現地アイドルグループJKT48の存在は、日本文化をより身近に感じさせる要素となっています。
日本語教育の普及
日本語学習者数はアジア地域でもトップクラスであり、日本留学や就労を目指す層も少なくありません。日本語教育の広がりは、文化的な親和性を高めるだけでなく、日本ブランドへの理解と信頼を深める基盤となっています。
K-POPとの競合と共存
一方で、K-POPを中心とした韓国文化も強い影響力を持っています。ファッションや音楽分野では韓国ブランドが先行するケースも見られますが、日本のポップカルチャーは「安心感」や「品質の高さ」と結びつきやすく、独自のポジションを維持しています。両者は競合関係であると同時に、消費者に多様な選択肢を与える存在として共存しているのが現状です。
エンターテインメントと商品PRの連動性
アニメキャラクターを活用した食品やファッションのプロモーションは、インドネシア市場でも効果的です。実際に人気アニメとのコラボ商品は、若者を中心に高い販売実績を上げています。日本のポップカルチャーと商品を結びつけることで、ブランドの認知度と親近感を高めることができます。
ビジネスチャンスの考察
日本ブランドの強み
インドネシア消費者の嗜好から見える日本ブランドの強みは、「品質」「信頼」「ヘルシー志向」「デザイン性」です。これらは現地の消費者ニーズと合致しており、日本企業が差別化を図る上での基盤となります。
ハラル認証とローカライズ対応の必要性
市場参入においては、ハラル認証やノンポーク表示といった宗教的配慮が不可欠です。また、サイズ展開や味付けなど、現地嗜好に合わせたローカライズが成功の鍵を握ります。
デジタルマーケティングの重要性
SNSの利用時間が長いインドネシアでは、デジタルマーケティングの効果が非常に大きいです。インフルエンサーとの協業や短尺動画を活用したプロモーションは、現地消費者の購買意欲を直接刺激します。
日本企業が狙える成長分野
- 日本食・飲料:寿司、ラーメン、スイーツなど
- 健康食品・ヘルスケア:サプリメント、オーガニック食品、フィットネス関連商品
- ファッション:特にヒジャブを含むイスラムファッション市場
- エンタメ連動商品:アニメ・キャラクターグッズ、ポップカルチャーコラボ商品
これらの分野は、消費者のライフスタイルの変化や文化的関心と直結しており、日本ブランドが強みを発揮できる領域です。
まとめ
インドネシア人消費者は「家族志向」「スマホ依存」「食と健康への関心」「文化的親日感」という特徴を持っています。こうした要素は、日本企業にとって魅力的な市場環境を形づくっています。
インドネシア市場で成功するためには、現地文化や宗教的背景への理解を深め、ローカライズ戦略を徹底することが重要です。また、デジタルマーケティングやポップカルチャーとの連動を通じて、現地消費者との距離を縮めることが求められます。
人口規模、若年層の多さ、そして親日的な文化基盤を背景に、インドネシア市場は今後も拡大が期待されます。日本企業が柔軟かつ戦略的に対応すれば、中長期的に大きな成長の果実を得られる可能性は非常に高いと言えるでしょう。
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MAYプランニングでは、インドネシアの現地規制対応やブランドローカライズ戦略立案に関するアドバイスを行っています。また、ハラル認証取得やポップカルチャーやエンタメ連動型プロモーション企画などについてのサポートも提供しております。
参考:
1)JNTO 訪日旅行誘致ハンドブック 2025(東南・南アジア7市場編)第1章 インドネシア 外国旅行の動向. JNTO. https://www.jnto.go.jp/statistics/market-info/indonesia/indonesia02.pdf