香港2025年施政報告注目点①:行政手続き改革で法人設立・許認可がよりスムーズに!

2025年9月に発表された香港施政報告は、ガバナンス改革・行政手続き効率化を中心に、香港経済の新しい成長戦略を示しました。会社設立、各種ライセンス取得、ビザ申請といった行政手続きは、日本企業が香港で事業を開始する際に最も初期に直面する課題です。今回の記事では、施政報告のなかで特に「行政手続き改革」に焦点を当て、どのような変化が起きるのか、そして日本企業にどのようなメリットがあるのかを、実務視点から整理します。

行政手続き改革の全体像

施政報告2025年は、香港政府が「効率性・透明性・デジタル化」を軸に行政改革を進める姿勢を明確に打ち出しました。具体的には次のような取り組みが示されています。

  • 許認可・ビザ申請のオンライン化拡大
  • AI・ビッグデータを活用した審査プロセスの迅速化
  • ワンストップ窓口の設置による申請手続きの一本化
  • 説明責任・ガバナンス強化による透明性の向上

従来の香港は、アジアでも比較的迅速な行政手続きが評価されてきましたが、近年は案件増加に伴う審査遅延や複雑化が課題となっていました。今回の改革は、このボトルネックを抜本的に改善する狙いがあります。

日本企業が直面する現状課題

香港に進出する日本企業は、法人登記、ライセンス取得、雇用ビザ申請、税務登録など多岐にわたる手続きを短期間でこなす必要があります。現状では、

  • 申請窓口が複数に分かれており、担当部局が異なる
  • 書類が英語・中国語ベースで、日本企業にとって煩雑
  • 審査基準や必要書類が頻繁に改訂される

といった課題があり、結果として開業時期が後ろ倒しになるケースも見られます。行政手続き改革が進めば、これらの課題を解消しやすくなります。

改革による具体的メリット

今回の施政報告で示された措置が実現すると、企業側には次のようなメリットが見込まれます。

許認可・ビザ審査の時間短縮
AIやデータ分析の導入により、従来よりも早く結果が出る可能性があります。特に外資系企業向けの優先審査枠の導入が議論されており、スピード感ある事業立ち上げが可能になります。

必要書類の電子化・一元化
複数部局に提出していた書類が一括申請できるようになれば、翻訳・認証作業の負担が減少します。電子証明書やオンライン決済の普及も見込まれます。

担当窓口の明確化
ワンストップ窓口の整備によって、問い合わせや追加書類のやり取りが一本化され、担当部局探しに時間を取られることが減ります。

制度改正と実務の注意点

香港では近年、行政手続きの効率化と透明性向上を目的として、制度や運用の見直しが進んでいます。日本企業が現地進出や人材配置を検討する際、これらの改正内容を事前に把握しておくことが、計画通りのスケジュールやコストでの実施に直結します。

ビザ申請手続きのオンライン限定化
2025年1月17日以降、香港入境事務処(IMMD)は「General Employment Policy」「Admission Scheme for Mainland Talents and Professionals」など6種のスキームについて、申請・滞在延長をオンラインのみで受け付けるようになりました。従来の郵送や窓口、投函箱による提出は不可となり、書類の翻訳・認証や添付資料もオンラインフォーマットに合わせて準備する必要があります。

ビザ申請料の改定
2025年3月から申請・処理手数料が見直され、180日以下の滞在ビザなど複数のカテゴリーで料金が上がっています。駐在員派遣や専門人材の招聘を予定している企業は、最新の手数料表に基づき、予算や社内承認プロセスを早めに調整しておくことが重要です。

電子ライセンス・モバイル申請アプリの活用
警察当局が提供する「HKP e-Licence」アプリでは、警備業許可や臨時酒類許可など各種ライセンス・許可の申請・支払い・電子証明書発行がスマートフォンで可能となり、更新期限のリマインダー機能も利用できます。対面的手続きや書面手続きが不要となるケースが増えており、申請管理の負担軽減に直結します。

運転免許制度の電子化
運輸署はFull Driving Licenceのオンライン予約・事前書類提出体制を強化し、2025年には電子運転免許証(eDL)の導入を開始しました。これによりスマートフォン上で免許証を提示できるようになり、物理カード携帯の必要が減ります。物流や営業など車両運用が必要なビジネスにとっては、従業員の免許取得・更新手続きが大幅に簡素化されます。

オンライン申請後の補足資料提出や進捗管理
ImmDやGovHKのポータルでは、申請後に不足書類をアップロードしたり、ステータスを随時確認できる仕組みが整備されています。これを活用し、想定される書類を事前にチェックリスト化することで、不備による遅延を防ぎやすくなります。

これらの制度改正は、手続き時間やコストを削減できる一方、最新情報の把握と準備不足が大きなリスクにもなります。定期的に公式サイトや通知を確認し、自社の手続きフローに反映させることが円滑な進出・運営の鍵となります。

他政策との相乗効果

行政手続き改革は単独の施策ではなく、北部都會区開発や産業クラスター形成、グリーンファイナンス拡充などと連動しています。例えば:

  • 北部都會区ではバイオ・AI・グリーンテックの新産業が集積予定。行政手続きが簡素化されることで新規参入が容易に。
  • ESG・グリーン投資市場の拡大により、認可取得・補助金申請もオンライン化され、投資家・企業双方にとって透明性が高まる。

日本企業が取るべき具体的アクション

最新制度の把握と内部プロセスの整備
進出計画の初期段階で、申請要件やスケジュールを洗い出し、社内準備を前倒しすることが重要です。

専門家の活用
法務・会計・人事ビザなど複数領域が絡むため、ワンストップで支援できる専門家・コンサルティング会社を活用するとリスクを減らせます。

GBA全体を見据えた拠点設計
行政手続き改革により、香港単独でなく大湾区全体のビジネス展開が容易になる可能性があります。深センや広州との連携も視野に入れましょう

まとめ

2025年施政報告に盛り込まれた行政手続き改革は、香港で事業を行う企業にとって大きな追い風となり得ます。会社設立やライセンス取得、ビザ申請などのプロセスがオンライン化・迅速化されることで、初期の時間・コストを抑えつつスムーズに進出できる可能性が高まっています。

ただし、制度が頻繁に更新されるということは、企業が常に最新情報を把握し、内部プロセスを見直す必要があることも意味します。オンライン申請のみに切り替わるスキームや手数料改定、電子ライセンス導入など、実務に直結する変更は短期間で実施されることが多く、対応を誤ると遅延や追加コストの発生につながるリスクもあります。

こうした改革を単なる「ニュース」としてではなく、自社の進出計画や事業戦略に活かすことで、香港市場での立ち上げスピードや競争力強化に繋がります。行政手続き改革を好機と捉え、早めに準備を進めることが今後の成功へのカギとなるでしょう。

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参考:
1)The Chief Executive’s 2025 Policy Address. (n.d.). The Hong Kong Special Administrative Region of the People’s Republic of China. https://www.policyaddress.gov.hk/2025/en/
2)Hong Kong: Visa Application Fees Increase in March 2025. (2025, March 25). CORPORATE IMMIGRATION PARTNERS. https://corporateimmigrationpartners.com/hong-kong-visa-application-fees-increase-in-march-2025/
3)‘HKP e-Licence’ Mobile Application. (n.d.). Hong Kong Police Force. https://www.police.gov.hk/ppp_en/11_useful_info/licences/e_lic_mob.html
4)Electronic Driving Licence Launched. (2025, September 15). News.Gov.Hk. https://www.news.gov.hk/eng/2025/09/20250915/20250915_142824_616.html
5)Driving Licences & Tests E-Licensing Portal – One-Stop Service for Licence / Permit Applications and Enquiries. (n.d.). GovHK. https://www.gov.hk/en/residents/transport/drivinglicense/oselp.htm
6)Driving Licence Applications Refined. (2025, August 13). News.Gov.Hk. https://www.news.gov.hk/eng/2025/08/20250813/20250813_152035_832.html