香港2025年施政報告注目点③:ESG投資拡大、香港で実現するサステナブルな資金戦略

世界的にESG(環境・社会・ガバナンス)投資が加速する中、金融ハブとしての香港が再び注目を集めています。政府主導のグリーンボンド発行や、国際的なサステナビリティ基準に準拠した新たな資金調達制度が次々と整備され、日本企業にとっても香港が「持続可能な資金戦略を実現できる場」として再評価されています。

今回の記事では、香港のグリーン投資市場の現状と拡大トレンド、そして日本企業が今後どのように資金調達・投資戦略を設計すべきかについて詳しく解説します。

香港が「グリーン&サステナブル金融」のハブへ再評価される背景

香港は長年にわたりアジアの国際金融センターとしての地位を築いてきましたが、最近では「グリーンファイナンス」および「サステナブル金融(ESG)」という観点から、改めて資金調達・投資拠点としてその価値が高まっています。

例えば、Hong Kong Monetary Authority(HKMA)によると、香港は近年アジア域内で発行されたグリーン&サステナブル債券の3分の1以上を仲介しており、2022年には発行額約805億米ドルに到達しています。政府自身も「Government Sustainable Bond Programme(GSBP)」を通じて複数通貨・デジタル形式のグリーン債を発行し、金融市場におけるグリーン資金の活性化を先導しています。

また、HKMAが主導する「Green and Sustainable Finance Grant Scheme(GSF Grant Scheme)」では、グリーン・サステナブル債・ローンの発行支援のため、補助金スキームを2027年まで延長し、さらに「トランジションファイナンス(移行期を対象とする金融)」の対象にまで拡大することが2024年5月に発表されました。

つまり、香港は制度・政策・資金の三つの側面から「グリーン・サステナブル金融ハブ」としてのポジション強化を図っており、これは日本企業の資金調達・投資戦略を考える上でも無視できない環境変化です。

ESG/グリーン投資市場拡大の実態

グリーン債・サステナブル債の発行拡大
2024年時点で、香港のグリーン・サステナブル債の発行額は既に80億米ドル超とされ、地域合計の約45%を占めるとの発表もあります。また、政府自身が2024年7月に250億香港ドル相当のグリーン債をHKD・RMB・USD・EUR等複数通貨で発行したという報道もあります。

これらの債券はいずれも「低炭素・再生可能エネルギー・グリーン建物・水処理」などの資金用途に振り向けられており、金融市場が環境変革を資金面から支える体制へ移行していることを示しています。

ESGファンド・資産運用商品
金融サービス・サステナビリティの分野では、2024年9月時点でESGファンドが231本、運用資産総額175 0億米ドルを超えているというデータがあります。また、香港証券先物委員会(SFC)認可のファンド構造(open-ended fund company(OFC)、Limited Partnership Fund(LPF)等)の整備により、多様な運用手法が可能となっており、資産運用業界全体がESG商品へシフトしつつあります

グリーン・フィンテックおよびデジタル金融の融合
香港政府は「グリーンファイナンス × フィンテック」という切り口にも重きを置いており、2024年6月には「Green & Sustainable Fintech Proof-of-Concept Funding Support Scheme」という助成金制度(最大15万香港ドル/件)を開始しました。対象は ESG・カーボン取引・ESGデータ分析・脱炭素モデルなど5分野に及びます。さらに、香港は世界初の「複数通貨デジタルグリーン債」を2024年2月に発行しており、グリーン金融のデジタル化・実証実験の先端に立っています。

こうした制度・商品拡充の流れは、投資家・企業が「環境・社会・ガバナンス」価値を追いながら資金を動かす潮流を香港に向けて引き付ける役割を担っています。

日本企業の資金調達・投資戦略の選択肢

資金調達チャネルとしての香港活用
日本企業がアジア市場で新規事業やグリーン投資を行う際、香港での債券発行(グリーン債・サステナブル債)やローン調達という選択肢があります。上述の通り、香港では制度的な後押しがあり、補助金制度(GSF Grant Scheme)やグリーン債市場の流動性確保が進んでいます。これにより、発行コスト・利率・発行スキームの選択肢が増えており、比較的アジア全域の投資家を対象に資金を集めやすくなっています。さらに、複数通貨・デジタル債券といった先進的発行体形式も選択肢に入るため、調達通貨や決済方式を柔軟に設計できる点が魅力です。

加えて、香港を拠点に資金を運用・再配分することで、アジア市場(特に中国・GBA地域)への投資を促進しやすくなります。「香港を資金ハブ」として、日本本社・アジア子会社・深センなどの製造拠点を結ぶクロスボーダー資金戦略を構築することが考えられます。

投資対象としての香港拠点メリット

  • ESG運用が不可逆の潮流となる中、香港でのESGファンド・グリーン債市場の拡大を活用し、自社のグリーン戦略を資金面でも支えることが可能です。
  • 研究開発・技術投資・カーボン削減プロジェクトという観点で、香港内外のグリーン投資案件を探す際、香港拠点が「発信地・資金地・投資パートナー探しの場」として機能しやすいです。
  • 日本企業が海外でグリーン事業を立ち上げる際、「香港法人を設置 → 債券発行・ローン調達 → 中国・アジアで事業展開」という流れを設計すれば、資金効率・金融ネットワーク・規制透明性を同時に活かせます。

実務上の留意点

  • グリーン債発行のための「外部レビュー」「適格プロジェクト定義」「報告義務」など、発行要件が厳格化しています。香港の「Taxonomy for Sustainable Finance」を含めた新たな制度フレームワークを理解する必要があります。
  • 投資・調達案件が「グリーン」「移行期(トランジション)」「サステナブル」のどれに分類されるかで、扱い・コスト・対象投資家が異なります。HKMAが補助対象を拡大した「移行ファイナンス」のような制度を活用できるかどうかを検討する価値があります。
  • 金利・為替・通貨設計(例えばRMB債務・USD債務・HKD債務)や、決済・清算ルート(Bond Connect・Green Fintechプラットフォーム)など、クロスボーダー金融構造の理解が不可欠です。
  • 日本本社・香港子会社・アジア拠点(GBA等)を結ぶキャピタルフローを設計する際、税務・為替・規制環境・リスク管理を早期に整理しておくことが成功の鍵です。

まとめ

香港におけるグリーン・サステナブル金融の拡大は、資金調達・投資戦略を再考する日本企業にとって見逃せない転換点です。制度整備・市場拡大・技術融合という三つの潮流が交差する中、香港は「金融ハブ+グリーン投資拠点」として革新的な選択肢を提供しています。

同時に、制度・スキームの急速な変化やクロスボーダー金融の複雑化といったリスクも存在します。ポイントは、「香港で何を調達・投資するか」「通貨・決済・法制度をどう設計するか」「アジア展開をどう繋げるか」を早期に整理し、戦略的に動くことです。

次なる成長ステージを見据えるなら、香港を拠点にグリーン資金・ESG運用・アジア連携を図る構えを、今から構築する価値があります。

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参考:
1)The Chief Executive’s 2025 Policy Address. (n.d.). The Hong Kong Special Administrative Region of the People’s Republic of China. https://www.policyaddress.gov.hk/2025/en/
2)HKMA Announces Details on Extending the Green and Sustainable Finance Grant Scheme and Expanding Subsidy Scope to Cover Transition Finance Instruments. (2024, May 3). Hong Kong Monetary Authority. https://www.hkma.gov.hk/eng/news-and-media/press-releases/2024/05/20240503-9/
3)HKMA Extends Green and Sustainable Finance Grant Scheme to 2027. (2024, May 6). East & Partners. https://eastandpartners.com/news/hkma-extends-green-and-sustainable-finance-grant-scheme-to-2027/
4)Opening Address by Permanent Secretary for Financial Services and the Treasury (Financial Services) at 2024 China Europe International Business School Innovation Forum (English Only). (2024, May 30). The Government of the Hong Kong Special Administrative Region Press Releases. https://www.info.gov.hk/gia/general/202405/30/P2024053000455.htm
5)Consolidating Hong Kong’s Status as an International Financial Centre. (2025, January). Legislative Council. https://www.legco.gov.hk/yr2025/english/panels/policy-pulse/pp2025-03-consolidating-hong-kongs-status-as-an-international-financial-centre-e.pdf
6)SFST’s Speech at Unlocking Capital for Sustainability 2025 – Hong Kong Forum (English Only). (2025, March 27). The Government of the Hong Kong Special Administrative Region Press Releases. https://www.info.gov.hk/gia/general/202503/27/P2025032700267.htm
7)HKSAR Government Launches HK$25 Billion Green Bond Offering. (2024, July 19). ESG News. https://esgnews.com/hksar-government-launches-hk25-billion-green-bond-offering/
8)Eddie yue. (2024, February 26). Hong Kong Green Week – Finance Stream. Hong Kong Monetary Authority. https://www.hkma.gov.hk/eng/news-and-media/insight/2024/02/20240226/
9)Secretary for financial services & the treasury christopher hui. (2024, June 28). Scheme Boosts Green Fintech in HK. News.Gov.Hk. https://www.news.gov.hk/eng/2024/06/20240628/20240628_153810_154.html
10)MARKETS & REGULATION. (n.d.). Green and Sustainable Finance Cross-Agency Steering Group. https://www.sustainablefinance.org.hk/en/markets-regulation
11)Hong Kong Expands $31B Green Bond Program to Fund Climate Projects. (2025, October 1). ESG News. https://esgnews.com/hong-kong-expands-31b-green-bond-program-to-fund-climate-projects/
12)Green Bond Framework. (n.d.). Government Bonds. https://www.hkgb.gov.hk/en/greenbond/greenbondframework.html