香港2025年施政報告注目点④:教育改革・ビザ制度改革・GBA連携で変わる雇用環境

施政報告2025年では、香港の中長期的な競争力を左右する要素として、「人材」がこれまで以上に重視されています。人口構造の変化や国際競争の激化を背景に、単なる雇用対策ではなく、教育、移民政策、産業戦略を横断した包括的な人材政策が打ち出されています。

今回の記事では、施政報告2025年で示された人材戦略・教育改革の要点を整理し、日本企業が香港および大湾区(GBA)でどのような人材戦略を取るべきかを解説します。

施政報告2025が示した人材戦略の全体像

2025年の施政報告では、香港の国際競争力を支える「教育・科技・人材の一体化発展」が独立の一章として掲げられました。政策文書の表題でも、この分野が戦略的基盤であることが明確に位置づけられています。

「教育、科技、人才一體化發展は新時代の戦略的支柱であり、香港が豊富な人材資源と知識基盤、科学技術革新能力を構築し、競争力を強化する基盤となる。」

香港施政報告2025

つまり2025年の政策は、単なる教育改革だけでなく、「教育+人材育成+産業成長+GBA・国際市場戦略」という長期的な戦略軸を持った構造改革となっています。

ビザ制度改革と多様な人材誘致策の進展

香港は長年「国際人材の宝庫」として評価されていますが、ビザ制度の柔軟化が近年の重要な方向性です。施政報告2025でも、指定技術専門家の誘致拡充や産学間流動の推進について明記されています。

また、外務・実務情報として以下のような制度変更も報道されています:

  • 短期活動ビザ免除の拡大(STVスキーム)
    従来は限定された分野やケースしか対象でなかった短期入境活動が、より多くの分野でビザ免除対象になり、企業が専門人材を招へいする際の時間とコスト負担が軽減されています。
  • 学位不要就労ビザ制度
    8つの特定技術職に関して、学位を持たない域外人材に対しても就労ビザ申請の道が開かれています。こうした変更は、実務上の人材不足課題に対応するための実効的な措置として評価されています。

これらの動きは、従来は「高学歴・専門資格必須」という条件が強かった香港の労働市場を変えるインパクトがあります。日本企業にとっては、ポジションや職種ごとに多様な採用チャネルが設計できるようになり、それが戦略の幅を広げています。

STEM教育強化と国際高度人材育成

施政報告では、香港が5つの世界大学ランキング上位校を有する教育基盤を活かし、教育の国際化・多様化を進めることが強調されています。

主な教育改革のポイントとして、下記の3つが述べられています:

  • 国際教育ハブの構築
    北部大學城(Northern Metropolis University Town)の建設を加速し、留学香港ブランドの推進を通じて世界中から学生・教員を呼び込みます。
  • 海外教員と学生の誘致
    海外からの教員・学生の受け入れ条件を改善し、学生・研究者の結集を促進し、香港の人材プールの多様化を強化します。
  • デジタル・STEM教育の強化
    小学校~大学におけるデジタル教育とSTEM分野の強化が明文化され、次世代の人材基盤形成が見据えられています。

これらの教育改革は、「単に若手を育てる」というだけでなく、現地で高度人材を蓄積する基盤作りであり、将来的な産業競争力につながるインフラとして位置づけられます。

人材戦略の「質的拡張」と業界連携促進

施政報告では、人材育成と産業界との連携についても触れられています。具体的には、産学・研究連動による人材交流促進計画が掲げられています:

企業と大学・研究機関との交流を強化し、産学の協力体制を充実させる。産業界のニーズに応じて人材育成カリキュラムを共同で策定し、即戦力人材の育成を進める。

香港施政報告2025

この方針は、日本企業にとって大きな意味を持ちます。単純な人材採用だけでなく、企業主導で育成計画に関与する機会を得られる可能性が高まるからです。教育機関側が産業界のニーズを理解し、コース設計やカリキュラム設定に反映させることができれば、企業の即戦力要件を満たす教育成果が期待できます。

GBAを見据えた人材モビリティ強化

施政報告そのものは香港単独の政策フレームですが、近年では「大湾区(GBA)との連携」が強く強調され、人材政策でも重要視されています。政策内では香港が国際教育・人材の結集拠点となることが強調され、その延長線上でGBAとしての人材フローの強化という効果を狙っていると見られています。

このような連携性は、日本企業が採用戦略を考える上でも視野を広げるきっかけとなります。香港を中核としながら、深セン・広州・東莞などでの人材獲得・配置・連携を設計することで、複数地域を跨ぐチームが実現可能となります。

日本企業に求められる新しい人材戦略

これら政策動向を踏まえ、日本企業が香港で人材戦略を立てる際には、次のような点を考慮する必要があります:

  • 多様な人材源泉の確保
    ビザ制度の柔軟化により、日本企業は日本人駐在員だけでなく、第三国人材や中国人材も採用対象に含める戦略で、国際チームの構築が容易になります。
  • 現地の教育資源との連携
    大学・職業教育機関とパートナーシップを結び、インターンシップ・リスキリング・受託研修を共同設計することで、企業が欲しいスキルを持つ人材を育成段階から関与できます。
  • GBAに跨る人材配置モデルの設計
    香港を統括・企画とする拠点にし、深センなどを実務開発・生産の拠点とする「クロスボーダー型配置」は、組織体制の柔軟化につながります。これを明確にするために、人材獲得・評価・報酬・越境労務管理の制度設計が不可欠です。

まとめ

施政報告2025年で示された人材戦略・教育改革は、香港が今後も国際ビジネス拠点としての地位を維持・強化していくための基盤づくりと位置づけられます。ビザ制度の柔軟化や高度人材の誘致、STEM教育とリスキリングの強化、そして大湾区(GBA)を見据えた人材モビリティの拡大は、いずれも短期的な雇用対策ではなく、中長期の産業競争力を支える構造改革と言えるでしょう。日本企業にとっては、香港を単なる「進出先」として捉えるのではなく、人材の集積・育成・越境活用を前提とした戦略拠点として再評価する必要があります。

一方で、こうした制度改革は自動的に企業の競争力を高めてくれるものではありません。現地採用と駐在員の役割分担、越境人材の法務・労務・税務対応、教育制度や育成支援の実務的な活用など、企業側の主体的な設計と準備が不可欠です。施政報告で示された方向性を正しく理解し、自社の事業フェーズやGBA戦略に即した人材戦略へ落とし込むことが、香港市場で持続的に成長するための重要な鍵となるでしょう。

お気軽にお問い合わせください

MAYプランニングでは、香港における国際人材・第三国人材を含むグローバル採用戦略に関するアドバイスを行っています。また、ビザ制度・就労制度改革を踏まえた採用スキームや大学・教育機関との産学連携モデル構築、研修・育成プログラムの導入などについてのサポートも提供しております。

参考:
1)The Chief Executive’s 2025 Policy Address. (n.d.). The Hong Kong Special Administrative Region of the People’s Republic of China. https://www.policyaddress.gov.hk/2025/en/
2)Immigration Facilitation Scheme for Visitors Participating in Short-Term Activities in Designated Sectors. (n.d.). Immigration Department. https://www.immd.gov.hk/eng/services/visas/stv.html
3)黄莃倫. (2025, November 11). 短期活動ビザの免除を17分野に拡大、域外人材誘致を強化. JETRO. https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/11/456412c6c575904f.html
4)黄莃倫. (2025, June 11). 学位持たない域外人材向けに、新たなビザ制度導入. JETRO. https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/06/bb0cc1b8d6eb5b0e.html