再生繊維ビジネスの次なる成長地図:ASEAN・香港・台湾に見る投資機会と事業戦略
循環型経済(Circular Economy)への移行は、資源制約や環境規制の強化を背景に世界的な潮流となっています。特に衣料品や繊維のリサイクルは、廃棄物削減やCO₂排出抑制に寄与する重要な取り組みであり、ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する企業にとっては新たな事業機会となっています。世界のリサイクル繊維市場は2024年時点で約61億米ドル規模であり、2033年には約84億米ドルへの成長が見込まれています(CAGR約3.6%)。リサイクル繊維は、繊維・自動車・建設など複数の産業で需要が高まっています。
今回の記事では、ASEAN地域・香港・台湾の市場環境・動向を整理しつつ、日本企業が実際に進出・投資を検討する際のポイントや留意点を詳述します。
アジア太平洋のリサイクル繊維市場の実状と特徴
アジア太平洋全体では、リサイクル繊維市場は成長が続いています。IMARCの市場調査では、2024年の市場規模は約18.2億米ドルと推定され、2033年には約22.8億米ドルに拡大する見込みです(CAGR約2.4%)。これは、繊維廃棄物の再利用や自動化技術の導入が進んでいるためです。
Grand View Researchの調査では、アジア太平洋市場は2024年の売上が約10.6億米ドル、2033年には約16.0億米ドルに成長すると予測され、特にポリエステル素材のリサイクルが最も伸びるとされています。
ASEAN諸国は地理的な生産拠点としての強みを持っており、繊維・衣料品の製造基盤が確立しています。このため、使用済み繊維を回収し、再資源化するローカル・サプライチェーンの構築が進めば、原料供給と市場アクセスの両面で有利です。
ASEAN市場の特性とチャンス
- 大量の繊維製品生産と消費が背景にあり、アパレル製造や輸出が活発な国(ベトナム・インドネシア・タイなど)では、産業廃棄物やポストコンシューマー(消費後)の回収ループを構築する機会があります。
- 消費者意識の高まりと持続可能性ニーズから、ファッション・小売分野でのリサイクル製品の市場性が徐々に強まっています。
- ただし、消費者参加型の回収システムが十分に整備されていないことや、バリューチェーン全体での統合モデリングがまだ途上である点が課題です。
日本企業がASEAN市場で成功する鍵は、単なるリサイクル処理技術ではなく、現地の回収・分別・加工・販売までを一貫して設計したビジネスモデルを確立することです。また、eコマースやD2C(Direct-to-Consumer)モデルを活用すれば、回収リンクと市場を直結させることができます。
香港におけるリサイクル繊維の現状と展望
香港は経済活動が活発な一方で、テキスタイル廃棄物が焼却・埋立てられている割合が高く、リサイクルインフラは十分ではありません。レポートによれば、香港では1日平均400トン以上の衣料品が埋立処分されており、循環型システムの構築が急務です。
一方で、Hong Kong Research Institute of Textiles and Apparel(HKRITA) などの研究機関は、衣料品の分別・再利用・再生を目的とした先進技術の開発と実装を進めています。例えば、分別・AIソーティングや「Garment-to-Garment(G2G)」のリサイクル技術があり、大型機械設備で混合繊維の分離処理を行うことも可能になっています。
香港市場はまだ成熟していませんが、この技術開発と政府の支援政策は、将来的な産業化に向けた基盤となる可能性があります。また、リサイクル素材を生産する技術革新は、単なる廃棄物処理ではなく企業のESG戦略を推進させるツールとなり得ます。
香港市場の投資判断ポイント
- 現時点では回収インフラ整備と消費者参加が鍵であり、これらは資本を集める上での最大のボトルネックです。
- しかし、技術革新と共同研究(HKRITA等)を活用したB2Bモデルでは、ブランドや小売企業向けの高付加価値素材供給が可能です。
- 香港は国際金融・貿易拠点でもあり、地域統括センターやサステナビリティのショーケース拠点としての位置づけも考えられます。
台湾におけるリサイクル繊維産業の技術的優位と市場機会
台湾は環境教育とリサイクル文化が根づいた国であり、ごみ回収率が高い社会インフラが整っています。近年は繊維研究機関と企業が連携し、廃繊維から再生ポリエステル原料を生産する技術を開発する動きが進んでいます。
例えば、台湾の繊維研究機関は繊維廃棄物を高純度の再生ポリエステルに変える技術を開発し、従来のリサイクルと比較して炭素排出量を60%以上削減できるプロセスを実用化しています。
また、Mobility Foresightsの市場調査では、台湾のリサイクル繊維市場は2025年の約63億米ドルから2031年に約128億米ドルへと急成長するとの予測もあります(CAGR約12.7%)。これは、規制強化やEPR(拡大生産者責任)導入、サステナビリティ意識の高まりが背景にあります。
台湾市場の投資機会と留意点
- 台湾は機能性繊維の世界的プレゼンスを持ち、その延長線上で循環素材への転換が進んでいます。
- 先進技術と高品質素材の供給は、日本企業の製品デザイン・ブランド価値向上に直結しやすい特徴です。
- ただし、一般消費者向けリサイクル素材需要はまだ成熟途上であり、高付加価値用途(スポーツ・産業用途など)を中心に需要を開拓する必要があります。
ASEAN・香港・台湾を比較した日本企業の進出戦略視点
| 地域 | 市場成熟度 | 主な強み | 投資・参入モデル |
|---|---|---|---|
| ASEAN | 中 | 生産基盤・供給チェーン | 工場設立、原料回収ネットワーク |
| 香港 | 初期段階 | 技術・研究拠点 | ESG連携・革新技術実証 |
| 台湾 | 技術先進 | 再生繊維技術・高品質素材 | 共同開発・素材供給 |
ASEANは大規模な生産と回収ネットワーク構築が可能であり、日本企業が現地法人や合弁会社を通じて回収から原料化・素材供給までを一気通貫で構築するモデルが有望です。一方、香港はまだ市場規模が小さいため技術開発拠点やESG事業支援の位置づけが適切です。台湾は高付加価値素材の供給や共同開発にフォーカスする戦略が有効です。
日本企業が成功するための実践的示唆
回収・分別ソリューションの現地化
回収ネットワークはASEAN各国の消費構造に合わせて設計する必要があります。例えば、都市部のリサイクルステーションやオンラインプラットフォームと連動した回収ループの構築が鍵です。
技術投資と現地パートナーシップ
香港ではHKRITA等の研究機関と共同で技術実証を行い、台湾ではTTRI等の機関と再生技術の共同開発を進めることで事業優位性を確立できます。
ブランド価値の統合戦略
日本企業は「高品質・デザイン価値・環境配慮」をブランドポジションとして統合し、リサイクル素材の商品化を単なる素材供給から価値訴求商品へと発展させるべきです。
ESG・規制対応の先取り
国際的なEPR規制や環境基準(CEマーク、GRS等)に対応したリサイクル原料の認証取得は、グローバル展開の際の競争力強化につながります。
まとめ
アジア太平洋、とりわけASEAN・香港・台湾のリサイクル繊維市場は、それぞれの成熟度と機能が異なるものの、日本企業にとって新たな事業機会を内包しています。ASEANは実需と量産性で参入メリットが大きく、香港は技術革新やESGプロジェクトの実証拠点として、台湾は高付加価値素材技術の共同開発拠点として位置づけが可能です。
単純な回収・再利用だけではなく、回収から素材生成・商品化までを一貫した事業モデルとして設計することが、これらの市場で成功するための鍵です。各地域の特性を活かした進出戦略は、日本企業の持続可能な成長と国際競争力強化につながるでしょう。
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MAYプランニングでは、再生・リサイクル繊維分野における海外市場調査および投資可能性、規制・制度動向(EPR等)を踏まえた中長期事業戦略に関するアドバイスを行っています。また、ASEAN・香港・台湾における事業展開モデル(設立・提携・投資)の策定、現地パートナー・技術企業の選定およびアライアンスなどについてのサポートも提供しております。
参考:
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2)Asia Pacific Textile Recycling Market Size & Outlook. (n.d.). GRAND VIEW HORIZON. https://www.grandviewresearch.com/horizon/outlook/textile-recycling-market/asia-pacific
3)Asia Pacific Textile Recycling Market. (n.d.). Market Data Forecast. https://www.marketdataforecast.com/market-reports/asia-pacific-textile-recycling-market
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5)Hannah lane. (2025, July 22). Turning Waste into Worth: A New Report on Circular Fashion Opportunities for Hong Kong. ADMCF. https://www.admcf.org/redress-hk-report/
6)Inside Hong Kong’s Fashion Recycling Revolution with HKRITA. (2025, November 6). ANTHORA. https://www.anthoracollection.com/blogs/sustainabilityjournal/inside-hong-kongs-fashion-recycling-revolution-with-hkrita
7)HKRITA’s Textile Upcycling Technologies Put into Practice. (n.d.). Innovation and Technology Commission. https://www.itc.gov.hk/enewsletter/180901/en/HKRITA_textile_upcycling_technologies_put_into_practice.html
8)17,480 Suitcases a Day: Hong Kong’s Clothing Waste Crisis Exposes Gaps in Circular Infrastructure. (2025, June 18). Texfash. https://texfash.com/update/17480-suitcases-a-day-hong-kong-s-clothing-waste-crisis-exposes-gaps-in-circular-infrastructure
9)The Future of Sustainable Fabric Recycling: HKRT Builds a Sustainable Textile Circular System with International Standards. (n.d.). HKRT. https://hongkongrecycle.com/en/hong-kong-fabric-recycling-service/
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12)Transforming Textile Waste: Taiwan’s Innovative Approach to Fabric Recycling. (n.d.). FANTERCO. https://fanterco.com/transforming-textile-waste-taiwans-innovative-approach-to-fabric-recycling/
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