【2022施政報告】最新人材誘致措置、シンガポールと比較
2022年10月19日、香港行政長官のJohn Lee Ka-chiu氏は初めての「施政報告(policy address)」を発表しました。今回の報告で企業・人材誘致の措置は比較的多く、過去2年間での約14万人の人材流出への対策だとされています。
今回の記事では、2022施政報告の内容と労働福利局(LWB)局長のChris Sun Yuk-han氏の記者会見内容に基づき、現在の香港とシンガポールでの人材誘致措置を比較してご紹介します。
1. 「高度人材パス計画(Top Talent Pass Scheme)」を新たに設立
シンガポールが最近設立した「Overseas Networks and Expertise Pass(略称ONE Pass)」に応じて、香港政府も類似の「高度人材パス計画(Top Talent Pass Scheme)」、略称「高才通」を新らしく設立しました。対象は年収250万香港ドル(約4,700万円)以上の人材、及び世界大学ランキングでトップ100校を卒業した人材となります。収入面でも学歴面でも香港の「高才通」はシンガポールのONE Passより条件が厳しく、ビザの有効期限もONE Passより短いため、香港への入境におけるコロナ規制が維持されたままだとこの新措置での人材誘致は難しいとの意見もあります。
しかし、香港政府側は新措置の効果に対して楽観的で、2023年~2025年の人材誘致目標人数を毎年約3.5万名、コロナの影響が大きかった2020年~2021年の毎年約2万名より1.5倍高く設定しました。
「世界大学トップ100校」対象は合計165校
「高才通」の対象者は下記の3種類となります:
A. 過去1年間の年収が250万香港ドル(約4,700万円)以上の者、学歴は問わず、人数上限なし;或いは
B. 「世界大学トップ100校」の卒業生で過去5年間に3年間以上の職歴を持っている者、卒業年度は問わず、人数上限なし;或いは
C. Bの職歴条件に満たしていない「世界大学トップ100校」の卒業生、人数上限毎年1万名
注意すべきなのは、条件である「世界大学トップ100校」の対象範囲は4つの世界大学ランキングに基づいて設定され、合計165校が含まれています。また、学系や学科の制限はありません。
ビザ有効期限は「2+3+3年」、最初の2年間は就職不必要
香港政府の情報によると、「高才通」は今年12月から実施予定で、初回のビザ有効期限は2年間、3年ごとの更新を最大2回、合計8年間滞在可能です。また、配偶者と未成年子女の家族滞在ビザも申請できます。「高才通」は申請時の在職が不必要で、香港での滞在期間内も就職が要求されていません。しかし、就職はビザ更新の条件となっています。「職種に制限がないため、極端にいうとマクドナルドでの仕事でも不可能ではない。」という見解です。
シンガポールのONE Passとの比較と学者の意見
一方、シンガポールが来年より実施する予定のONE Passでは、過去1年間の月収が3万シンガポールドル以上(年収約3,700円)が条件となり、香港の「高才通」より僅かに緩い条件となっています。その上学歴にも制限がなく、初回の滞在期間は5年間で、追加5年間の更新が可能で合計10年間滞在可能となっています。香港政府は申請者の就職状況を継続的に観察することを計画しているため毎回の更新期間が短くなっているとのことです。「本計画はシンガポールと直接比較するために設立したものではない。両者の状況は違う。」
香港大学経済と経営学学院の経済学教授Heiwai Tang氏によると、年収250万香港ドル以上の人は経験豊富な人材が多く、「高才通」は香港への人材誘致に役立ちますが、滞在期間をより長くした方が魅力的だという意見です。
2. 人材の入境優遇措置を最適化
現在一番利用されている2つの入境優遇措置、中国以外の外国人向けの「一般就業政策(GEP)」と中国人向けの「中国人材入境計画(ASMTP)」については対象者以外はほぼ同じとなっています。今回の最適化ではGEPやASMTPの対象者をより区別しやすくするために、適用条件について下記の2点を変更する予定です:
A. 「人材リスト」の導入:「優秀人材入境計画(QMAS)」に適用されている「人材リスト」をGEPとASMTPに導入する。「人材リスト」にある職種の人材を雇用する場合、これまでは条件であった「香港での採用難を証明すること」が不要になり、GEPとASMTPのビザを直接申請できる
現在の「人材リスト」では13種類の職種があり、詳細は以下URL参照: https://www.talentlist.gov.hk/en/
香港での人材不足の最新状況を反映できるよう、「人材リスト」は2023年第1四半期までに更新予定
B. 雇用する職の年収が200万香港ドル以上である場合、これまでは条件であった「香港での採用難を証明すること」が不要になり、GEPとASMTPのビザを直接申請できる
「優秀人材入境計画(QMAS)」は現在は毎年4,000人という人数上限を設けていますが、香港政府は今後2年間、QMASの人数上限を一時停止します。
また、「非香港人卒業生に対する滞在・入境管理制度(IANG)」の最適化について、下記の2点を変更する予定です:
A. 現在の措置では、非香港人卒業生は香港の大学を卒業後、就職活動のために1年間滞在することが可能となっていますが、今後は2年間へと延長する。
B. IANGの適用範囲を香港の大学のGBA分校へと拡大する。現時点適用対象に追加される予定なのは香港浸会大学(HKBU)の北京師範大学・香港浸会大学連合国際学院(UIC)、香港中文大学(CUHK)の香港中文大学(深セン)(CUHK-SZ)と香港科技大学(HKUST)の香港科技大学(広州)(HKUST(GZ))の3校となる。
最後に、「科学技術人材入境計画(TechTAS)」の最適化のため、2点の改善を予定:
A. 現在条件となっている「香港従業員の追加雇用」を撤廃する
B. 企業からの申請にあたってITCが許可する定数の有効期限を1年間から2年間へと延長し、対象となるテクノロジーの範囲もより多くの新興テクノロジーを含めるように拡大する
現在の規定によりTechTASでビザを申請するには、企業は1~3名の非香港人テクノロジー人材を雇用する場合、香港人フルタイム従業員を最低1名と香港人実習生を最低2名雇用しなければなりません。2020年を除き、2018~2021年TechTAS経由でビザを獲得したテクノロジー人材の人数は僅か2桁でした。香港政府の情報源によると、業界はこの規定に対して「求人が困難でハードルが高すぎる」という意見を持っており、この規定の撤廃は業界の意見に応じた改善策とのことで、「香港の労働市場にあまり影響はないだろう」とコメントしています。
諸改善策に対する企業側の意見
香港にも支社を設けているアメリカのIT企業Barracuda Networks社のAPAC営業部長のJames Forbes-May氏の意見では、「海外人材が香港で就業して定住する難易度が緩められるのは人材誘致に一定の効果がある」と肯定すると同時に、テレワークが普及しているため、香港に定住するのはIT業界の人材にとって唯一の選択ではないと指摘しました。
今回は2022施政報告の人材誘致政策の目玉となっている「高才通」と現在の入境優遇措置の最適化を中心にご紹介しました。
次回のブログでは、「人材サービス窓口(Talents Service Unit)」の設立と人材に長く滞在してもらうように発案した政策についてご紹介する予定です。
]]>