【シンガポールM&Aの基礎③】M&Aの方法は2つ:「株式取得」と「新株発行」

「シンガポールM&Aの基礎」第3回目では、株式に関わるM&A方法を2つご紹介します。

シンガポールにおけるM&Aは、日本とは異なる特殊な方法やプロセスを伴います。この記事では、シンガポールにおける株式に関わる主なM&Aの方法ーー「株式取得」と「新株発行」について解説します。これらの方法を理解することで、企業はM&Aの状況をより効果的に把握し、戦略目標に沿った意思決定を行うことができます。

シンガポールM&Aの基礎シリーズの過去記事はこちら

M&A手法その1:株式取得

株式取得は、シンガポールの上場企業と非上場企業両方にとって、一般的なM&A手法です。
この方法のポイントについて見てみましょう:

1、 株式売買契約(SPA)
株式取得においては、まず株式売買契約(SPA)を締結するのが一般的です。
この契約は、購入価格、支払い条件、当事者の表明保証など、株式譲渡の条件を概説するものです。

2、 株式譲渡証書
非公開会社の場合、売り手は通常、定款により株式譲渡証書を対象会社に提出することが義務付けられています。
この証書はSPAとは別に作成され、株式譲渡を効果的に行うための正式な文書となります。

3、 株主名簿への記載
株式譲渡は、会計企業規制庁(ACRA)が管理する株主名簿に買い手の名前が記載されることで効力を生じます。
対象会社は株式譲渡の通知を受け取り、その後、電子記録を更新するためにACRAに譲渡を通知しなければなりません。

4、 株式売渡請求
株主が株式譲渡に反対する場合、買収者は株式売渡請求することができます。
この仕組みにより、一定の条件を満たせば、買収者は反対株主から強制的に株式を取得することができます。
通常、自己株式や買収開始時に買収者が保有していた株式を除き、対象会社の株式の90%以上の保有者の承認が必要です。

M&A手法その2:新株発行

シンガポールにおけるもう一つのM&A手法は、会社が株式を追加的に発行して割り当てる「新株発行」です。

原則として、新株の発行には株主総会の普通決議による承認が必要です。
決議は、特定の新株発行について個別に行われる場合と、発行されるすべての新株について包括的に行われる場合があります。
承認は決議後最初に開催される定期株主総会の終了時まで有効となります。

企業はACRAやその他の関連当局が定める新株発行に関する規制要件を遵守することにより、透明性とコーポレート・ガバナンス基準の遵守が確保されます。

シンガポールにおけるM&Aの特徴

シンガポールにおけるM&Aには、日本における習慣とは異なる独特の点があります:

1、 株券
株券は、会社が個人を株主として認めたことを証明するものであり、シンガポールでは、非上場会社を含むすべての会社で株券の発行が義務付けられています。
M&Aの際、売り手の株券はターゲット企業が回収して破棄し、ACRAへの株主名簿移転申請後30日以内に買い手に新しい株券が発行されます。

2、 株主名簿の電子化
電子国家を目指すシンガポールでは、ACRAが管理する電子株主名簿を導入しました。
株式譲渡は、電子株主名簿に記載された名義が移転された時点で有効となるため、株式譲渡の完了時に紙でやり取りする必要がなくなります

まとめ

シンガポールにおけるM&A取引では、株式取得や新株発行など様々な方法で行われます。
株式取得は、既存株主から買い手への株式譲渡を伴うもので、株式売買契約によって促進され、株主名簿に記載されることで正式に成立します。
一方、新株発行は株主総会での承認が必要であり、その後の年次総会まで有効となります。
各方法の注意点を把握し、規制要件を遵守することで、企業は戦略目標に沿ったM&A取引を成功させることができます。
さらに、株券発行の義務化や電子株主名簿の利用など、シンガポールM&Aの特徴も、合理的かつ効率的なプロセスに貢献しています。

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