ASEANの経済成長と投資潜在力を探る【2024年版】
ASEAN地域ではテクノロジー、インフラ、グリーンエネルギーの分野等において多くの成長の可能性を秘めています。特にタイ、シンガポール、ベトナム、インドネシアは投資家の注目を集めています。
今回の記事では、ASEANの近年の経済見通し、そして政策によるサポートを受けている分野をご紹介します。ASEANの勢いをどのように活用できるか、次の大きな投資機会お求めの方はぜひ今回の情報を抑えておきましょう。
近年の経済見通し
ASEAN地域の国々は各自の経済成長を遂げており、全体としては前向きな傾向が見られます。ここでは日本企業の進出先として人気の4ヶ国、タイ・シンガポール・ベトナム・インドネシアについて見ていきましょう:
タイ
タイでは製造業が不振に陥っており、製造業購買担当者指数(PMI)が11月の47.6から12月には45.1に低下しています。
タイの総GDPも2023年第3四半期に弱さを示し、前年同期比1.5%の成長に減速しました(第2四半期の前年同期比は1.8%)。タイ銀行による金融政策の引き締めが経済成長に影響した要因だと思われています。
国際観光がタイのGDPを大きく占めているため、2022年にタイ経済の回復速度を制約した主な要因は、タイの国際観光再開が遅かったことと見られています。2023年になると、タイの国際観光客数は2800万人に達し、2022年の1150万人と比べて大幅に成長しました。2024年には、タイ政府が中国およびインドからの観光客に対するビザ査証免除の入国を認める決定により、観光セクターのさらなる回復が期待されています。注1
シンガポール
シンガポールの2023年第4四半期のGDP成長率は、シンガポールの通商産業省(MTI)の速報値によると前年同期比2.8%に改善しました(第3四半期の前年同期比は1.0%)。2023年通年では、GDP成長率は1.2%で、コロナ後に強力な回復を示した2022年の3.6%と比較して大幅に減少しています。
S&P Global社のシンガポール製造業購買担当者指数(PMI)は、11月の55.8から12月には55.7にわずかに低下しましたが、シンガポールの民間経済が10ヶ月連続で成長していることを示し、引き続き強力なビジネス環境を示しています。注1
ベトナム
ベトナムの2023年のGDP成長率は5.1%と推定されており、アメリカ、ヨーロッパ、中国などの主要輸出市場での需要の弱さが経済成長の勢いに影響を与えました。しかし、2023年第4四半期には経済成長のペースが改善し、前年同期比6.7%に上昇しました(第3四半期の前年同期比は5.5%)。この改善は、輸出の徐々に回復したことによるものだと見られています。
S&P Global社のベトナム製造業購買担当者指数(PMI)は、11月の47.3から12月には48.9に改善しましたが、依然として50.0の変化なしの指標をやや下回っています。12月には、新しい輸出注文が2023年の初期に見られた著しい弱さから安定化に近づきました。注1
インドネシア
インドネシアの2023年のGDP成長率は約5%と推定されており、2024年も同様の経済成長ペースが予想されています。経済成長の要因は主に民間消費(総GDPの約53%)で、2023年第3四半期には前年比5.1%の成長を遂げました。2024年の見通しでは、民間消費と固定投資の引き続き堅調な成長が予想されています。
S&P Global社のインドネシア製造業購買担当者指数(PMI)は、11月の51.7から12月には52.2に上昇し、製造業の状況が改善し続け、9月以来の最速の改善率を示し、製造業の成長期間は28ヶ月に延びました。注1
オーストラリアとASEANのパートナーシップ
オーストラリアは、経済、文化、教育、環境など様々な分野でASEANとの投資関係を強化しています。 2024年3月4日~6日に開催されたASEANとオーストラリアの特別首脳会議(ASEAN-Australia Special Summit)注4では、下記の戦略に合意しました注3:
・東南アジア投資融資基金(Southeast Asia Investment Financing Facility):
オーストラリアの民間投資を支援するために、20億オーストラリアドルを拠出
・インフラ分野でのパートナーシップ:
ASEANでのインフラ開発と質の高いインフラへの資金調達を支援するために、1億4000万オーストラリアドルを提供
・移民政策での支援:
ビジネスビザの延長と、ビザが10年間有効の「Frequent Traveller stream」の新設
・投資支援策:
ジャカルタ、シンガポール、ホーチミン市に、投資に支援する「Investment Deal Teams」を設立
・テクノロジー分野におけるランディングパッド:
ジャカルタとホーチミン市にビジネス拡大支援のための「ランディングパッド(Landing Pads)」措置を実施
・オーストラリアASEANビジネス交流(SEABX)プログラム:
オーストラリアとASEAN間のビジネス機会とリテラシーを促進
・海事協力:
地理空間マッピング、サンゴ礁保護、海洋ガバナンスなどを含む海洋でのパートナーシップを拡大するために6400万オーストラリアドルを拠出
・気候とクリーンエネルギー:
メコン・オーストラリア・パートナーシップ、エネルギー協力パッケージ、気候知識共有プログラムに資金を追加
投資のための戦略的セクター
・サプライチェーン移転によるテクノロジーセクターの成長
2024年のASEANテクノロジー輸出には前向きな展望があります。中国とアメリカの緊張によるグローバルなサプライチェーンの変化や貿易再編成から、ASEANのテクノロジーサプライチェーンが大きな利益を得る可能性が高いと考えられます。この変化はまだ初期段階ですが、中国から他国へのサプライチェーン移転のトレンドが今後3〜5年で加速すると予想され、ASEANが主要な受益者となる見通しです。シンガポール、マレーシア、タイ、ベトナムの半導体、電子機器、装置セクターが特に恩恵を受けられ、外国直接投資の増加から利益を得ると思われます。注2
・各国のインフラ開発強化トレンド
インドネシアやフィリピンなどの新興国における長期的な成長の実現にとって、インフラ投資と、業務効率の向上を目指した「ボトルネック除去(Debottlenecking、improving efficiency by finding areas that inhibit workflows)」が重要な一環となっています。ASEAN各国の政府が国内インフラ、特に交通、水、エネルギーシステムへの投資を優先し、関連産業に成長のチャンスを提供しています。例えば、近年インドネシアの金属鉱石加工における付加価値製造への強化は、特に電気自動車に関する国内輸出の持続的な成長を促進し、国内の交通エコシステムの発展に寄与しています。注2
・持続可能な開発への推進でグリーンエネルギーセクターに注目
もう一つの焦点は持続可能な開発への推進で、ASEANにおけるエネルギー市場の緊張状態とエネルギー安全保障への懸念が高まる中では急務となっています。シンガポールとマレーシアは、代替・再生可能なエネルギー源への移行に注力しており、特に、シンガポールは2050年までに「ネットゼロエミッション」を達成することを目指しており、再生可能エネルギー容量の拡大やグリーンエネルギーの輸入を含むエネルギー移行計画が発表されています。シンガポールの企業はこのチャンスを活かし、グリーンエネルギー発電への移行や風力発電のエンジニアリングソリューションの提供に焦点を当てています。
デジタル経済
2016年頃に始めた第4次産業革命、急速なデジタルトランスフォーメーションや複雑な地政学的状況など様々な課題に直面している中、ASEANは世界で最も急成長している地域の一つで、2023年には実質GDP成長率が4.6%、2024年には4.8%に達すると予想されています。世界各国同様ますますオンライン化する人口に支えられているASEANでは、デジタル技術による消費、サービス、政府とのやり取りにおける変革が活気あるデジタル経済を育成しています。しかし、社会経済的格差や規制の違いが課題となっています。
現在では、ASEANデジタルマスタープラン2025(ASEAN Digital Masterplan 2025、ADM2025)、バンダル・スリ・ブガワンロードマップ(Bandar Seri Begawan Roadmap、BSBR)やASEANデジタル経済フレームワーク協定(Digital Economy Framework Agreement、ASEAN DEFA)などの政策があり、デジタル経済の発展を目標に、デジタルトレード、電子商取引、サイバーセキュリティなどに焦点を当てています。これらの政策は、ASEAN各国間の信頼を築き、経済発展、雇用創出、投資機会を促進し、小規模企業のエンパワーメント、デジタルスキルの向上、競争力とレジリエンスの向上を支援します。注5一方、世界経済フォーラム(WEF)と韓・ASEAN協力基金(ASEAN-Korea Cooperation Fund、AKCF)は、キャパシティビルディング、リポジトリ、調査、対話を通じてASEANのデジタル経済を支援し、他地域の成功したデジタル政策を取り入れています。タイとシンガポールが中心とするクロスボーダー決済システムの改善注6など、様々な政策で発展しているデジタル経済は、ASEANのグローバル競争力を強化していきます。
まとめ
2024年における投資家へのASEANの魅力は、その経済的レジリエンスとさまざまなセクターにわたる戦略的成長に基づいています。テクノロジーの進歩を受け入れ、インフラを強化し、持続可能性にコミットすることで、この地域は堅実なリターンを約束するだけでなく、世界経済の安定にも貢献します。国際的な協力とデジタルトランスフォーメーションが勢いを増す中、ASEANは将来を見据えた投資の灯台として、即時的な機会と長期的な可能性を兼ね備えています。この多様で戦略的に統合された地域は、新興の市場に参入したいと考えるグローバルな投資家を引きつけるのに適しています。
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参考:
注1)Rajiv Biswas「ASEAN economic outlook in 2024」, S&P Global, https://www.spglobal.com/marketintelligence/en/mi/research-analysis/asean-economic-outlook-in-2024-Jan24.html
注2)Asian Equity Team「ASEAN equity outlook 2024」, Nikko Asset Management, https://emea.nikkoam.com/articles/2023/asean-equity-outlook-2024
注3)Ayman Falak Medina「The ASEAN-Australia Special Summit 2024: An Overview」, ASEAN Briefing, https://www.aseanbriefing.com/news/the-asean-australia-special-summit-2024-an-overview/
注4)Ayman Falak Medina「The ASEAN-Australia Special Summit 2024: An Overview」, ASEAN Briefing, https://www.aseanbriefing.com/news/the-asean-australia-special-summit-2024-an-overview/
注5)Joo-Ok Lee「How ASEAN is building trust in its digital economy」, World Economic Forum, https://www.weforum.org/agenda/2024/01/asean-building-trust-digital-economy/#:~:text=URL%3A%20https%3A%2F%2Fwww.weforum.org%2Fagenda%2F2024%2F01%2Fasean
注6)清水聡「ASEAN諸国における金融デジタル化の進展状況 ―クロスボーダー決済、CBDC、暗号資産を中心にー」, 日本総研, https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=107251