「大退職時代」におけるアジア系技術人材の引き付け方

2021年以降、多くの企業は「大退職時代(The Great Resignation)」の課題に直面しています。

「大退職時代(The Great Resignation)」とは

2021年に観察された、事業系労働者や肉体労働者など様々な分野の従業員が大量に職を離れるという広範な現象のことです。特に30~45歳の中堅社員でこの傾向が顕著であり、前年比20%以上の大幅な増加となっていました。
退職者急増の背景には、コロナの大流行による職場環境の大きな変化や労働者の嗜好・価値観の変化があると言われています。

※詳細はこちらの記事をご参照ください。

このようなダイナミックな状況の中、アジアの技術職市場における成功するための秘訣は何でしょうか。

この記事では、この地域の優秀な人材を引付け、動機づける要因について掘り下げてご紹介します。安定性やワークライフバランスから、無限の成長機会や経済的な安定性まで、彼らの意思決定を支える重要な要因を解き明かします。

「大退職」から「大後悔へ」、 離職の影響と満足度の追求

パンデミックをきっかけに「大退職時代」が到来しましたが、ポスト・コロナ以降はどうなっているのでしょうか?
アメリカのCNBC社の報道によると、パンデミック時の「大退職時代」は「大後悔時代」に変わり、退職したり仕事を辞めたりした個人が後悔を感じているとのことです。

出典:https://www.cnbc.com/2023/02/02/80percent-of-workers-who-quit-in-great-resignation-regret-it-new-survey.html

・「大退職時代」に仕事を辞めた社会人の過半数が後悔していることが調査で明らかになりました。

・2022年、12月に仕事を辞めた人は過去最高の410万人で、1年間の累計は5000万人を超えました。

・この期間での退職は、メンタルヘルス、ワークライフバランス、職場の人間関係、再就職の可能性に悪影響を及ぼしています。

・その中でも、Z世代が最も後悔しており、89%が退職の決断を後悔し、メンタルヘルスの低下を経験しています。

・若い従業員が退職する際に魅力的だった仕事の特典、福利厚生、企業文化は、新しい仕事での満足度を維持するのに十分ではありません。

「大退職時代」を受け、元従業員の再雇用に前向きな雇用主がいる一方で、忠誠心を疑問視し、報酬やインセンティブに懸念を示す雇用主もいます。

一方、技術分野でのレイオフにもかかわらず、インドネシア、タイ、香港、マレーシア、フィリピン、シンガポールでは、技術系人材が積極的に採用されています。
特に、アジアの技術系人材の81%は、年に数回仕事の打診を受けており、非常に需要の高い人材プールとなっています。

このような優秀な人材に対して、企業はどのようにアプローチすれば、ロイヤリティに対する懸念を払拭し、効果的に人材を獲得・維持できるのでしょうか。これらの人材は、企業に何を求めているのでしょうか。

アジアの技術系人材の就職活動における傾向

JobStreet by SEEK、Boston Consulting GroupとThe Networkは、香港と東南アジアの約6,000人の技術系人材を対象とした調査結果「What tech jobseekers wish employers knew: Unlocking the future of Recruitment(技術業界の求職者が雇用主に知っておいてほしいこと:採用の未来を切り開く)」を、アジアで技術系人材を引きつけるヒントを明らかにし、2023年5月に公開しました。

理想のキャリアパスーーワークライフバランスのとれた安定した仕事

出典:https://www.jobstreet.com.my/en/cms/employer/wp-content/themes/jobstreet-employer/assets/pdf/FOR-Tech-MY-FA-02052023-compressed.pdf

・アジアの技術系人材の大多数(68%)は、家族や友人、趣味の時間を確保できる健全なワークライフバランスを維持できる安定した仕事を優先していることがわかります。ね。この傾向は、技術系人材(64%)、全産業の専門人材(69%)ともに、世界平均と同様です。

・全世界の技術系(39%)、全産業の技術系(41%)と比較して、アジアの技術系の44%がキャリアアップや優良企業でのリーダー的役割に高い関心を示しており、アジアの技術系は組織内での成長・発展に熱心であることが分かります。

・アジアの技術系の約34%が、興味深い製品、話題、技術に関する魅力的で革新的なプロジェクトに携わる機会を大切にしています。これは、技術系人材の世界平均(39%)より若干低いものの、全産業の専門人材(27%)よりは高い数値です。

・ アジアの技術系人材の一部(17%)は、仕事を経済的自立や生計を立てるための手段と考え、キャリアアップや自己実現よりも経済的安定を重視し、全産業の技術系人材や専門職の世界平均(各14%)よりも金銭感覚に優れています。

仕事探しでの決め手ーー金銭面とワークライフバランスが最も重視される

出典:https://www.jobstreet.com.my/en/cms/employer/wp-content/themes/jobstreet-employer/assets/pdf/FOR-Tech-MY-FA-02052023-compressed.pdf

・アジアの技術系人材の24%が、金銭的報酬(給与、ボーナス)を求職活動の決め手としており、技術系人材の世界平均(23%)、全産業平均(21%)とほぼ同程度の高さである。

ワークライフバランスを求職活動の決め手とするアジアの技術系人材の割合は19%で、技術系人材および全産業の世界平均とほぼ同じである。

・就職先を評価する際に3番目に優先される点は、雇用の安定性有給休暇の日数で、それぞれアジアの技術系人材の15%が選択し、いずれも技術系人材と全産業の世界平均をわずかに上回っています。

・比較的大きな違いは、勤務地やスケジュールに関する柔軟性である。この要因について、アジアの技術系人材の14%が重要視しており、グローバルの技術系人材の割合(17%)より若干低いものの、全産業と同様である。

・また、アジアの技術系人材(12%)は、グローバル技術系人材やその他のグローバル人材(各10%)よりも、家族支援策を優先している。

理想的な働き方ーー柔軟性が求められる

出典:https://www.jobstreet.com.my/en/cms/employer/wp-content/themes/jobstreet-employer/assets/pdf/FOR-Tech-MY-FA-02052023-compressed.pdf

勤務地:
アジアの技術系人材の大多数(64%)は、オフィスワークとリモートワークを組み合わせたハイブリッドワークモデル(数日間はオフィスで過ごし、数日間は自宅で仕事をする)を好み、グローバル技術系人材(63%)と同じで、その他のグローバル人材(54%)の好みを上回っています。

労働時間:
アジアの技術系人材の大多数(76%)は、週5日のフルタイム勤務を希望しています。これは、世界の技術系人材(73%)および世界の全業界の傾向(75%)と一致するが、アジアの技術系人材の割合より若干高いです。

まとめ:競争の激しいアジアの雇用市場で成功するために

「大退職時代」から「大後悔時代」への移行は、雇用主が労働者のニーズと願望を理解し、対処することの重要性を強調しています。

雇用の安定性ワークライフバランスは依然として重要な要因ですが、採用・定着戦略を策定する際には、労働者には明確な好みや関心があります。

企業は、アジアの技術系人材がキャリアアップリーダーとしての役割を強く望んでいることを認識し、組織内で成長・発展する機会革新的な技術やプロジェクトを提供することで、従業員の充実感やモチベーションを維持できます。
さらに、経済的な保障と競争力のある報酬パッケージを提供することで、不安を解消し、優秀な人材を引きつけることができます。
また、アジアの技術系人材の好みに合わせて、ハイブリッド勤務など柔軟な勤務形態を導入し、プライベートと仕事の両立を効果的に実現していくことも重要です。

これらの要因を理解し、それに応じてアプローチを変えることで、企業は魅力的な雇用主としてのアイデンティティを確立し、競争の激しいアジアの雇用市場で注目を浴びている技術系人材の獲得と維持に成功することができます。