【香港施政報告2023まとめ①】「8つのセンター」の実現

2023年の施政方針演説では、昨年好評を博した施策を振り返り、今後拡大すべき分野を明確にしました。今年も結果を重視するアプローチが引き続き採用され、香港政府のガバナンス強化、景気回復の促進、住宅供給、労働力不足や少子高齢化などの問題に取り組む政策が発表されました。

今回の記事より、2023年施政報告の注目すべき政策について3回に分けてご紹介します。今回では、香港でのビジネスや進出に深く関わる香港の発展方向についてお伝えします。「8つのセンター」になること目指す香港が実施する措置や戦略をぜひ抑えておきましょう。

ポストコロナ時期に入り、香港の現状

今回の施政報告演説の理念として、「一国二制度」の枠組みを維持し、景気回復のさらなる促進や長期的な経済活力を向上させ、居住者の福利を強化することが強調されています。香港は、世界経済のダイナミクスの変化や金利調整の影響など、さまざまな困難に直面しています。

それでも、上半期のGDPは前年同期比2.2%増となり、失業率は2.8%までと低下しています。観光と小売業界では、1日平均の観光客数は2018年の70%近くに戻っており、小売売上高の総額は7月と8月に前年同月比15%以上の伸びを示し、2018年水準の約85%まで回復しています。このような観光業復活や景気復活など、香港は潜在的な機会を活用しながら課題に正面から立ち向かい、地域の継続的な成長と居住者生活の質の向上を確保し、繁栄で活気あるグローバル都市としての地位を確固たることを目指しています。

今後の発展方向として、香港政府は中国の「第14次5カ年計画」に沿って、下記の「8つのセンター」としての発展戦略を強化し、経済成長の促進と競争力の強化を目標にしています。

国際イノベーション・テクノロジーセンター(International Innovation and Technology Centre)

香港政府は「新産業発展タスクフォース(New Industrialisation Development Office)」を設立し、「新産業化」を促進します。さらに、第3世代半導体技術の研究を含むマイクロエレクトロニクスの研究開発育成にも力を入れ、AIの研究開発を支援するためにAIスーパーコンピューティングセンターを設立します。大学の研究成果商品化への助成金金額を倍増し、クロスボーダーの新興企業とのインキュベーション提携を促進します。大湾区(GBA)を先行地区として、中国から香港への安全なクロスボーダーデータ転送を促進し、クロスボーダー金融・医療サービスのコンプライアンスを簡素化することに取り組みます。

香港での商用5Gサービスの人口カバー率はすでに90%以上、中核的ビジネス地区では99%近くに達しています。政府は、農村部や遠隔地におけるモバイル・ネットワーク・インフラの拡張を促進し、モバイル・ネットワーク事業者により多くの周波数帯を割り当てて、5Gネットワークの速度とカバレッジを向上させます。

東西国際文化交流センター(East-meets-West Centre for International Cultural Exchange)

香港の文化・クリエイティブ産業を積極的に推進するために、映画振興基金(Film Development Fund)とCreateSmart Initiative計画へ43億HKDの資金投入、文化・クリエイティブ産業発展タスクフォースの設立、世界中の香港経済貿易代表部を通じた芸術・文化振興の取り組み強化などの措置を実施し、香港のクリエイティブ・セクターの国内外での存在感を高めます。また、地元の大規模な舞台芸術制作を支援するために、最大1000万HKDの補助金と500万HKDのマッチングファンドを提供する「重点的舞台芸術項目計画(Signature Performing Arts Programme Scheme)」を実施し、海外での活動に参加する香港アーティストや芸術グループを支援するための資金を5,000万HKDから7,000万HKDに40%増やす予定です。

国際貿易センター(International Trade Centre)

中国とのビジネス協力の強化や専門サービスのビジネスチャンスの開拓を含む世界的な経済・貿易ネットワークの拡大を狙い、中国の「一帯一路構想(B&R)」に沿ってASEAN、中近東やアフリカなどの市場との地域協力を強化するために、各地にビジネス・貿易代表部を設置し、トルコ、ペルーやサウジアラビアなどの国との投資協定の交渉や締結を引き続き進めていきます。

近代的物流の強化に関して、香港政府は、スマート、グリーン、持続可能、国際化されたロジスティクスに重点を置いた行動計画を今年発表する予定です。また、香港の北西にある洪水橋(Hung Shui Kiu)と廈村(Ha Tsuen)の新発展地区でのロジスティクス・クラスター開発を促進し、大湾区全体の相互接続を強化します。コンベンション・展示会産業をさらに振興するために、AsiaWorld-ExpoやHKCECの新施設増設など、香港のMICE施設の面積を40%増の22万平米に拡大します。

中小企業(SME)発展への支援では様々な措置を講じています。香港商務経済発展局(CEDB)は、電子商取引ビジネスの発展を促進するため、各部局に跨った電子商取引発展タスクフォースを設立しています。同タスクフォースは、香港ブランドの認知度を高め、本土市場を拡大するため、Eコマース・プラットフォーム上で香港ショッピング・フェスティバルを開催する予定です。香港出口信用保険局(HKECIC)の偶発債務引受能力が向上し、輸出企業がより安心に海外からの注文を受けられるように、偶発債務の法定限度額を550億HKDから800億HKDに引き上げます。

中小企業の資金繰りの状況を考慮し、香港政府は「中小企業融資担保計画」における返済方法を、一定期間中毎月の返済額を元本の10%、20%、50%から選択できる柔軟な返済方法を引き続き提供します。さらに、中小企業支援戦略の重要な一環であるデータ活用について、香港金融管理局(HKMA)のCommercial Data Interchangeは香港政府のConsented Data Exchange Gatewayに接続され、金融機関や中小企業に融資審査目的の幅広いビジネスデータへのアクセスを可能にします。

国際金融センター(International Financial Centre)

株式市場流動性のさらなる強化について、株式譲渡にかかる印紙税を現在の0.13%から0.1%に引き下げる立法手続きは2023年11月末までに完了する予定で、香港証券取引所(HKEX)と金融規制当局の協力による株式取引スプレッドの見直しは2024年の第2四半期中に具体的な措置を発表する予定です。また、HKEXは固定料金の企業向けデータ・パッケージを導入し、リアルタイム・データ・サービスの料金体系を見直し、新しい料金設定は今年中実施する予定となります。成長企業市場(GEM)では、メインボードへの移行プロセスの簡素化や、研究開発型企業向けの新たな上場方法の導入などの改革は、2024年第1四半期に実施される予定です。さらに、海外発行体の上場支援、自社株買い戻しの促進、悪天候時の取引継続、市場振興の強化など株式市場の競争力強化対策について、HKEXは証券先物事務監察委員会と協力して検討します。

一方、国内外の投資家との繋がりを強化し、中国の金融市場との相互アクセスを深める政策もいくつか提案されました。

オフショア人民元(RMB)ビジネスの発展において、香港政府は引き続き、人民元カウンターをストックコネクトのサウスバウンド取引に組み込む方向で取り組んでいき、人民元投資商品の幅を拡大し、オフショア人民元センターとしての地位を促進する方向です。大湾区内での金融協力の深化について、前海エリアでの金融改革とイノベーションを活用し、香港の投資事業有限責任組合(LPS)が前海エリアの適格海外投資事業有限責任組合(QFLP)の資格取得で中国のプライベート・エクイティ(PE)投資に参加することなど、前海エリアでの香港金融機関の業務拡大を目指します。2024年前半に設立予定の深セン・香港金融協力委員会は、相互の市場アクセスの強化、フィンテックの協力やグリーンファイナンスの取り組みなどに焦点を当てます。

Fintech Proof-of-Concept Subsidy Schemeの成功に基づき、2024年前半には、グリーン・フィンテックのソリューション開発を奨励し、商業化前のグリーン・フィンテック・イニシアチブに初期段階の資金援助を提供する補助金制度を導入し、香港をグリーン・フィンテック・ハブとして地位を強化します。

地域知的財産取引センター(Regional Intellectual Property Trading Centre)

知的財産を保護する法律は今年5月に改正し、2024年には話題のAI技術に関する条文への意見を公募する予定です。また、研究開発を奨励するために、産業財産権から得られる利益に対する税率を16.5%から5%に引き下げる税制優遇措置を導入する法改正案は2024年前半に立法会に提出される予定となります。香港貿易発展局(HKTDC)は香港のオリジナル作品のグローバル市場進出を支援するために、FLIMART、Hong Kong International Licensing Show、ブックフェアなどのイベントや、Asia IP Exchangeプラットフォームを強化し、ビジネス・マッチングの促進、より多くの市場情報や専門的なサポート・サービスを提供します。

国際海運センター(International Shipping Centre)

効率的な通関手続きと国際的な接続性の強みを活用し、船舶登録におけるトップの地位を強化するために、運輸物流局(TLB)はハイエンドの海事サービス、持続可能性、デジタル化、グローバル・コラボレーションに焦点を当てた海事・港湾開発の行動計画を今年中発表します。当局は、海事法や船舶金融など価値の高い海事サービスの発展に向けて業界を支援し、海事サービスに対する税制上の優遇措置を継続する方向です。また、バルト海国際海事評議会(BIMCO)の世界標準海事契約における4つの指定仲裁地のひとつである香港の役割を活用し、国際海事組織との協力を強化します。

国際航空ハブ(International Aviation Hub)

香港国際空港の競争力強化の政策では、第3滑走路、スカイシティ、南貨物地区のハイエンド物流センター、スマート空港などのプロジェクトがあり、旅客と貨物の輸送サービスの強化に重点を置いています。空港当局が東莞に設立した「香港国際空港ロジスティクス・パーク」は貨物輸送を簡素化し、2025年中には年間最大100万トンの貨物に対応できるようになります。一方、スカイシティと港珠澳大橋(HZMB)の香港口岸人工島を結ぶ自律型旅客輸送システムの導入や珠海空港との提携による「珠海-香港」旅客サービスも計画しています。2024年より導入する「Smartlane」システムにより、乗客は液体物や電子機器などを機内持ち込み手荷物から取り出すことが不要になり、手続きが簡素化されます。

アジア太平洋地域における国際的な法律および紛争解決ハブ(Centre for International Legal and Dispute Resolution Services in the Asia-Pacific Region)

香港法律および紛争解決サービスを大湾区全体に拡大するために、中国企業が契約の締結に香港の法律と仲裁の利用を促進します。また、中国との異なる法制度から生じる問題に対処し、クロスボーダー司法サービ ス、企業倒産支援、紛争解決に関する取り決めを強化する取り組みについて、中国最高人民法院と協力して常時的な司法・法律研究などを2024年中に開始します。調停制度では、調停専門家の認定と規定に関する制度や政府との契約に標準の調停条項の追加などの強化措置があります。

まとめ

パンデミックという世界的な課題にもかかわらず、香港はGDP成長率と失業率の低下という経済の回復力を示しています。経済発展を推進するために、2023年の香港施政報告では、イノベーションとテクノロジーの育成、文化・クリエイティブ産業の後押し、グローバルな貿易ネットワークの拡大、中小企業の支援、金融サービスの強化、知的財産取引の強化、物流・海運の改善など、数多くの戦略と措置が提案されています。これらの施策により、香港はより魅力的で多面的なビジネスハブになり、海外企業にとってさまざまなビジネスチャンスをもたらします。

次回の記事では、今回の施政報告で挙げられた競争力強化と人材誘致の戦略や特定業界への支援策についてご紹介する予定です。