【香港施政報告2023まとめ②】ビジネスの強化、観光・グリーンエネルギーへの支援

2023年の施政方針演説では、昨年好評を博した施策を振り返り、今後拡大すべき分野を明らかにしました。今年も結果重視のアプローチが引き続き採用され、香港政府のガバナンス強化、景気回復の促進、住宅供給、労働力不足や少子高齢化などの問題に取り組む政策が発表されました。

施政報告まとめの2回目では、近年政策の目玉で香港の新たな成長エンジンになることを目指す「Northern Metropolis」、企業・人材誘致措置と一部業界への支援策についてお伝えします。移住やビジネスの進出を考慮する際にお役に立てればと思います。

「Northern Metropolis」香港北端にある成長エンジン

現在の北区(North District)と一部の元朗区(Yuen Long District)を含む「Northern Metropolis」エリアは、香港の新たな成長エンジンとなる準備が整っており、全面的な開発が完了した際には約50万戸の住宅と50万人の雇用が創出されると予想されています。

産業とインフラ主導を戦略の中心とし、西から東へ順番に下記の4つの主要ゾーンに分かれています:
ハイエンドプロフェッショナルサービス・ロジスティクスのハブとする洪水橋(Hung Shui Kiu)エリア
イノベーション・テクノロジー・ゾーンとする新田科技城(San Tin Technopole)
・唯一香港の南北を貫通するMTR東鉄線(East Rail Line)を利用できる口岸商工業ゾーン
・北東エリアの豊かな自然資源を観光に利用するレクリエーション・観光・自然保護エリア

その他、「北都大学教育城」(Northern Metropolis University Town)、政府オフィスビル、文化・芸術施設の設立など、さまざまな産業や重要な取り組みに焦点を当てています。香港政府はまた、香港境外の家庭の教育ニーズに応じてNorthern Metropolisでの国際学校設立を計画しています。

競争力の強化と人材誘致

去年施策し始めた人材・企業誘致の努力が実を結んでいます。人材誘致の政策では現時点で応募人数約16万人で10万人以上が承認され、9月までには約6万人の人材が香港に到着しました。戦略的企業を誘致するタスクフォースのOASES(the Office for Attracting Strategic Enterprises)は200社以上の戦略的企業を誘致し、約30社が香港での事業設立または拡大を計画しており、約300億HKDの新規投資と推定1万人の雇用機会に相当します。香港での海外企業の設立と拡大をサポートするInvestHKは、300社以上の中国および海外企業の設立または事業拡大を支援し、前年比25%以上の伸びを示しました。

香港の国際競争力を強化するために、今回の施政報告では香港に本社や企業部門を設立する外部企業を招いて世界市場につなげる「本社経済(Headquarters Economy)」の発展を提案しています。また、海外企業の再定住制度を導入し、来年前半に立法会に法案を提出するよていです。一方、人材の誘致と維持を促進する取り組みでは、Hong Kong Talent Engage(HKTE)の物理的なオフィスを設置する他、高度人材通行証計画(Top Talent Pass Scheme)の対象となる大学リストに中国および海外の一流教育機関8校を追加する予定です。就業ビザに関する政策の緩和は、ベトナム人・ラオス人・ネパール人の人材が対象となり、香港の労働力不足への対策の一つになります。

経済成長と国際投資を促進するために、今回の施政報告では法治主義に基づいた専門的で倫理的なビジネス環境に対する香港のコミットメントを強化し、下記の2つの専門アカデミーの新設立を提案しています:
香港国際法律人材育成アカデミー(Hong Kong International Legal Talents Training Academy)
 設立予定日はまだ未定ですが、実践的なトレーニング、セミナー、国際交流プログラムを提供し、国際法・コモンロー・大陸法・国内法制度に精通した人材を育成します。
香港国際汚職防止アカデミー(Hong Kong International Academy Against Corruption)
 廉政公署(ICAC)が2024年に設立する予定で、香港・中国・海外の汚職防止専門家に専門的なトレーニングを提供します。

観光関連産業の活性化

観光は香港経済において重要な役割を担っており、香港政府は「Night Vibes Hong Kong」など観光関連産業の活性化を狙う取り組みをすでに始まっています。最近流行りの「Deep Tour」ブームに対し、香港の豊かで多文化的な景観や穴場的な見どころを中心に、中国の歴史、グリーン・エコロジー、伝統文化、ポップカルチャーなどのテーマ別ツアーの導入を推奨します。

クルーズ観光経済の発展についての行動計画は2024年前半に発表され、海外市場におけるクルーズ観光需要の創出、クルーズ商品の開発、啓德郵輪碼頭(Kai Tak Cruise Terminal)周辺のインフラ強化など様々なクルーズ船誘致策を講じています。

スマートシティの重要な要素であるスマートツーリズムに関しては、文化スポーツ観光局(CSTB)は部局跨ったタスクフォースを設立し、ARなどの技術を活用した観光客体験の向上、観光スポットで多言語のバーチャルガイド、インバウンドグループツアーの管理強化などの分野で、スマート技術を活用することに焦点を当てます。

交通業界における新エネルギー利用の促進

香港政府は、地船と外航船にグリーンメタノール燃料を提供するバンカリング施設を建設する可能性を模索しており、その行動計画は2024年中に発表される予定です。外航船向けの液化天然ガス(LNG)バンカリングに関する技術的研究と設置も進行中とのことです。航空分野では、空港当局は世界的なトレンドに合わせるため、持続可能な航空燃料(SAF)を香港で補給することを促進する行動計画を策定しています。

一方、陸上交通の分野で、電気ミニバス、電気大型貨物車、水素ダブルデッキバスなどを含み、電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCV)などの新エネルギー自動車の導入を引き続き推奨します。車椅子対応の電気タクシーの購入を支援するために、タクシー業界には5,000万HKDの補助金を提供します。現時点の計画では、2027年末までに約700台の電気バスと約3,000台の電気タクシーを導入することを目標としています。

現在実施されている電気自動車の登録税優遇措置は効果的で、今年上半期に登録された新車の60%以上が電気自動車でした。充電インフラを改善・拡大するために、ガソリンスタンドの土地賃貸条件を電気自動車充電スポットへの移行を奨励するように改定するなどの措置が今後予定されており、2027年半ばまでに公共・民間駐車場に充電インフラを約20万台設置することを目指しています。

農業・漁業・飲食品関連業界への支援

環境生態局(EEB)は業界と協力し、2023年年末までに「農業・漁業における持続可能な発展設計図」を発表する予定です。その中では農業・漁業の現代化を目指す政策が多数で、例えば「耕作・収穫から販売まですべて現地完結」のコンセプトに基づいて、適切なウェットマーケットの屋上に近年注目度が高くなっている水耕栽培と現地販売屋台を導入する計画などがあります。日本では数年前「都市農業振興基本計画」が閣議決定されて近年は都市農業に関する施策が展開されていますが、今回の香港施政報告でも馬鞍山西沙路花園(Ma On Shan Sai Sha Road Garden)で試験的な都市農業プロジェクトを開始することが挙げられました。

飲食業への支援として、食品環境衛生局(FEHD)は2024年年第1四半期より、食品営業許可プロセスを簡素化する予定です。一例として、「審査に先立ち許認可する」専門認証制度を一般飲食店への適用拡大、複数の販売制限のかかる食品を1つの許可にまとめる「総合許可証」の導入、飲食業や食品製造業など飲食品に関わる許認可等の申請手続きの全体的なデジタル化などがあります。

まとめ

香港の北区と元朗区の一部にある「Northern Metropolis」は重要な成長エンジンになる予定で、開発完了時には約50万戸の住宅と雇用が計画されており、専門サービス、テクノロジー、工業、観光の4つの主要ゾーンに焦点を当てています。また、香港に本社を置く海外企業を誘致し、人材誘致イニシアチブを強化することで、経済成長と国際投資を促進することも期待されています。テーマ別のツアーの導入とクルーズ観光の強化策での観光業を活性化させる政策、グリーン燃料バンカリングの開発や電気自動車や水素自動車導入のサポートでの強力な新エネルギー推進策、そして農業・漁業・食品製造業などの近代化と許認可プロセスの簡素化を通じて各業界への支援策は今回の施政報告で提案されています。

これらの政策は香港の多様化や持続可能性を引き続き強化し、香港市場への参入を検討している企業や海外企業にとって、成長と投資のために様々な注目すべきチャンスがあります。

次回の記事では、主に人口減少対策や移住に関わる教育・医療などの政策についてご紹介する予定です。雇用政策についての情報も記載しておりますので、香港進出企業にとっても有用な内容となっています。ご期待ください。