【香港施政報告2023まとめ③】少子化対策、高齢化社会の生活需要のビジネスチャンスを掴む

2023年の施政方針演説では、昨年の施策の振り返り、および今後拡大すべき分野を明確化しました。今年も結果重視のアプローチが引き続き採用され、香港政府のガバナンス強化、景気回復の促進、住宅供給、労働力不足や少子高齢化などの問題に取り組む政策が発表されました。

今回の記事では、2023年施政報告の子育て、再就職する従業員への支援策や高齢化がもたらすビジネスチャンスの活用などについてご紹介します。香港への進出・移住に関わる注目すべき政策をぜひ抑えておきましょう。

子育てへの支援

香港の出生率の持続的な低下が懸念されています。2022年、香港人夫婦の平均出生率は過去最低の0.9まで低下しました。それに加えて、香港では高齢化が進んでおり、65歳以上の高齢者の割合は20%から、今後10年間で3分の1近くまで増加すると予想されています。この少子化問題への対策として、香港政府は一連の施策を実施する予定です:

  • 出産手当金
    父親もしくは母親、または両方が香港永久居民であり、出生日が2023年10月25日~2026年10月24日の新生児一人につき2万HKDの出産手当金を申請できます。申請の締切は出産後6ヶ月となります。
  • 税控除の上限引き上げ
    2024/25年の課税年度より、2023年10月25日以降生まれた最初の子供と同居する納税者の場合、その子供が18歳になるまで「Tax Deduction of Home Loan Interest」または「Tax Deduction for Domestic Rent」の控除上限が10万HKDから12万HKDに引き上げます
  • 公営住宅等の優先手配
    香港住宅委員会は、2023年10月25日以降生まれた新生児のいる世帯に対してSubsidised Sale Flats(SSF)を優先に選択できる制度を導入します。対象の世帯はその子供が3歳になるまで、SSFの申請に当選した場合は優先選択権が与えられます。Home Ownership Scheme(HOS)またはGreen Form Subsidised Home Ownership Scheme(GSH)の申請において、物件合計数の10%を対象世帯の優先選択に確保します。また、公営住宅において、対象世帯は来年4月から公営住宅の入居待ち期間が1年短縮されます。
  • 生殖補助医療への支援
    2024-25年から2028-29年までの今後5年間で、委員管理局(HA)は生殖補助医療、特に体外受精(IVF-BT)の公共サービス枠を年間1,100個から1,800個へと60%以上増やします。さらに、生殖補助医療に関する費用に対する税額控除が設立され、2024/25年から毎年10万HKDを上限として控除できます。
  • 共働き家庭への支援
    来年4月より、Working Family Allowance Schemeにおける世帯手当と児童手当は15%増額されます。来年からの3年間で、政府が補助するAided Standalone Child Care Centreを10カ所増設し、約900人分の託児サービスを提供できるとの予想です。保育所利用の保護者向けの手当も、来年4月より金額上限を毎月600ドルから1,000ドルに増額します。就学前児童を対象とした放課後預かりサービスは香港の全地区に拡大され、サービス提供場所が16カ所から28カ所へと大幅に増加されます。さらに、「Neighbourhood Support Child Care Project」を参加する保育者への奨励金が来年4月より大幅に増額されるほか、来年第4四半期よりサービス申込枠数が2,000個へと倍増され、約20,000人の児童が利用できるとの予想です。

シルバー経済のチャンスを掴む

最新技術で高齢者と介護者の生活の質を向上させるために、香港政府は2024-25年度に「Innovation and Technology Fund for Application in Elderly and Rehabilitation Care(I&T Fund)」(高齢者・リハビリ患者介護に応用するIT技術の基金)に10億HKDを追加し、適用対象となる老人ホーム・リハビリ施設が医療・介護用超低床ベッドや徘徊防止システムなどの技術製品を取得することをサポートします。また、I&T Fundの適用範囲を拡大し、一般家庭で使用可能な高齢者向け技術製品を含める予定です。高齢者・障害者そしてその介護者に貸し出すために、適用対象となる老人ホーム・リハビリ施設は家庭用の技術製品の購入を申請することができます。

高齢者の中に、介護が必要な者はもちろんいますが、その大半は健康で元気です。高齢消費者の増加につれ、医療・健康管理、文化・娯楽、日常生活へのサポートなど、高齢者向けの商品やサービスが数多く登場しています。それは生活の質を高めるのみでなく、関連産業の発展や商業活動ももたらしています。商務経済発展局(CEDB)は「シルバー経済諮問タスクフォース」を設立し、「シルバー経済」発展の可能性を把握し、専門家を集めて綿密な調査や提案する予定です。香港貿易発展局(HKTDC)はまた、より多くの展示会に「シルバー経済」の要素を取り入れ、関連商品・サービスのプロモーションを強化していきます。

労働市場と従業員への支援

近年の人手不足は香港の経済回復のペースを緩めています。経済回復を加速させるために、香港政府は人材と労働力輸入の短期間強化を導入しました。 一方、地元の人材にも労働生産性を高める訓練や支援を提供する予定です。

訓練の強化と再雇用の促進
香港社会にいる潜在労働力を有効的に利用するために、従業員再訓練手当の月額を5,800HKDから8,000HKDへと約4割引き上げる法改正は来年完了する予定です。従業員再訓練局(ERB)は香港の経済発展や人材育成のニーズを基づき、市民全体の継続的教育やスキルアップを促進するため、サービスの範囲、訓練戦略や運営形態などを見直し、来年の第3四半期に改善案を提出します。

政府は、40歳以上で3ヶ月以上連続で有償労働の職に就いていない香港市民を対象に、「Re-employment Allowance Pilot Scheme」を3年間試行する予定です。6ヶ月間連続の有償労働を完成した場合は最大1万HKD、12ヶ月間連続の有償労働を完成した場合はさらに1万HKDの手当が支給され、労働市場へ再就職するインセンティブを高め、約6,000人が恩恵を受けられると予想されています。

法定最低賃金見直しの強化
香港政府は最低賃金委員会(MWC)が提出した「法定最低賃金見直しの強化方針」についての提案を検討し、6ヶ月以内に具体的な改善方針を決定する予定です。

「継続的雇用契約(continuous contract of employment)」の要件改正
労働顧問委員会(LAB)は、通称「418」の「継続的雇用契約」要件の改正方法について議論しています。この要件では、労働者が法定の福利厚生を全て受けるためには、同一の雇用者に「連続的に4週間以上で週18時間以上」雇用されることを必要としています。LABはこの要件について、要求する労働時間を4週間単位に変更することに原則合意しましたが、その合計労働時間の基準についてはまだ議論中とのことです。LABが合意に達した後、香港政府は早急に雇用条例を改正する予定です。

「愛国」をさらに強調

今回の施政報告演説は、香港が選挙制度の改革と国家安全保障を守る必要性を再強調し、この要素を香港の長期的な繁栄と安定にとって基本的なものとしています。その一つの政策として、今回の施政報告では「基本法第23条の立法を2024年までに完了させる」ことを明記されています。

基本法第23条とは

基本法第23条は、国家への反逆、国家の分裂、反乱の扇動、中央政府の転覆、国家機密の不正な取得を禁止し、外国の政治組織が香港で政治活動を行ったり香港の政治団体が外国の政治団体と関係を持ったりすることを禁止するための法制定を求める条文であり、香港市民の様々な自由が幅広く制限されるおそれがあると懸念されているため、返還後未だに正式的に立法されていません。2003年には一度立法会で立法手続きが進められましたが、同年7月1日、当時としては最大の50万人デモという反発が起き、当時では廃案に追い込まれました。

香港居住者の中国への認識をより深めるように、愛国教育を小学校の国民教育科目に組み入れ、抗日戦争をテーマにした博物館や中国の発展と業績を紹介する博物館の整備を計画し、中国文化促進事務所を新たに設立して中国文化フェスティバルを立ち上げることに力を注いでいます。また、改革された地区機関にあたるケアチームと区議会には熱心な愛国者を参加させることで、「愛国者による香港統治」の枠組みを強化し、中国との一体感を強めます。

AIとオープンな政府データを取り入れ、政府サービスを高度にデジタル化し、効率的で便利なサービスを可能にすることで、デジタル経済発展を促進するのみでなく、中国のデジタル変革の推進とも一致しています。その他、「Digital Bay Area」の開発における広東省政府との協力は、国境を越えた公共サービスを促進ことで、中国との一体感と技術発展の共有を促します。

まとめ

香港政府は、少子高齢化への取り組みで、香港永久居民に対する新生児1人につきHKD20,000の出産手当金、税額控除限度額の引き上げ、新生児を持つ家族に対する公営住宅などの優先手配などの措置を提案しています。また、共働き家庭には手当と育児支援が増額されます。進出を計画している企業にとって、高齢化は「シルバー・エコノミー」の機会をもたらし、高齢者向け産業の更なる成長が見込まれています。労働市場での人材不足に対処するために、香港政府は地元の人材強化と海外からの労働力輸入を並行して取り込んでいます。

一方、香港政府は例年より愛国主義を強調し、中国の目標と一致させています。企業にとっては、デジタル化を受け入れ、デジタル・ベイエリア開発における広東省政府との協力は、国境を越えたサービスと技術的成長の展望を提供します。香港への移住を考えている方にとって、今後進化する家族支援政策、高齢者ケアや新興デジタル分野での潜在的な機会に焦点を当てるべきです。

お気軽にお問い合わせください

MAYプランニングでは、香港への進出における法人設立や雇用に関するサポートを行っています。また、移住のためのビザとその書類作成、香港のシルバー経済の市場参入などについてのアドバイスも提供しております。