【個人所得税制度】控除項目と控除額がどのように違う?香港vsシンガポールで徹底比較

アジアの国際的金融ハブである香港とシンガポールは、それぞれ独自の特徴を持つ税制や控除システムがあります。両国にはどのような違いがあるのでしょうか?税制の面でより優位な国は?

今回の記事では、香港とシンガポールの個人所得税課税対象についてご紹介した前回の記事に続いて、その税金控除システムの違いを解明し、移住・進出の検討に役立つ情報をご紹介します。
※比較結果を先に知りたい方はこちらから

香港

所得控除項目一覧(2024年1月23日時点、参考:IRD「Salaries Tax/Personal Assessment Allowances, Deductions and Tax Rate Table」

香港の税制では、納税者は毎年度に基本控除額が与えられ、その他のいくつか種類の免除を申告・申請できます。近年では、任意医療保険制度での保険料や居住中の住宅家賃控除などの控除項目を追加されており、控除額も政策により変更することがあるので、毎年要チェックの情報です。

人的所得控除項目控除額(HK$)
基礎控除 
 未婚者132,000
 既婚者(下記の条件にすべて満たす納税者のみ)
 ①年度内に配偶者と同居、または配偶者と別居だが配偶者を扶養もしくは経済的に支援したことあり
 ②配偶者に課税所得が発生していない、または 配偶者とともに合算申告を選択した場合
264,000
扶養子女控除 – 第1子から第9子まで(1人につき)
※18歳未満の者、または18~24歳で教育機関にて全日制課程を受けている者、または18歳以上だが心身障害で就労できない者のみ
 
 誕生年度260,000
 翌年度以降130,000
扶養父母・祖父母控除(1人につき)(下記の条件にすべて満たす対象者のみ)
①香港に通常居住している
②最低連続6ヶ月間納税者と同居で生活費を全額負担する必要がない、または納税者かその配偶者がその親/祖父母の扶養に年間HK$12,000以上を提供する
 
 60歳以上、または政府の身体障害者手当を申請する資格を持つ者50,000
 55歳~59歳25,000
扶養父母・祖父母追加控除(一括)*
※上記の条件の上に、年度全期間、納税者と同居で生活費を全額負担する必要がない条件に満たす
 60歳以上、または政府の身体障害者手当を申請する資格を持つ者50,000
 55歳~59歳25,000
扶養兄弟姉妹控除(1人につき)
※18歳未満の者、または18~24歳で教育機関にて全日制課程を受けている者、または18歳以上だが心身障害で就労できない者のみ
37,500
寡婦(夫)控除(下記の条件にすべて満たす者のみ)
①年度内に結婚することがなかった
②年度内に1名以上分の扶養子女控除が与えられる
132,000
障害者手当
※政府の身体障害者手当を受けている者のみ
75,000
扶養障害者控除(1人につき)
※政府の身体障害者手当を受けている配偶者/子女/納税者かその配偶者がその親/祖父母/兄弟姉妹がいる者のみ
75,000
*介護老人福祉施設控除か扶養父母・祖父母控除を選択可能
その他の控除項目控除限度額(HK$)
業務上必要な自己学習費用控除(指定された課程のみ)100,000
介護老人福祉施設控除(納税者かその配偶者の親/祖父母1人につき)(下記の条件にすべて満たす対象者のみ)*
①60歳以上、または政府の身体障害者手当を申請する資格を持つ
②福祉施設が香港境内にあり且つ香港法律による許可を持ち、その費用は納税者かその配偶者が年度内に支払った
100,000
納税者が居住中の住宅(及び同不動産内にある駐車スペース)の借入金利息控除100,000(控除期間上限:20年)
納税者が居住中の住宅(及び賃貸契約に含まれた駐車スペース)家賃控除
※適用条件付き
100,000
MPF/政府認可の退職金計画に対する積立金18,000
Insurance Authority認可年金の保険料、及びMPF任意上乗せ積立金60,000
任意医療保険制度での保険料(受益者1人につき)
※受益者は納税者自身、その配偶者と指定した家族のみ認める
8,000
慈善寄付金課税所得の35%まで
*介護老人福祉施設控除か扶養父母・祖父母控除を選択可能

税金還付
香港では近年、個人所得税の税金還付が毎年行っています。税金還付の上限額は毎年違いますが、2018/2019年度よりは毎年税金金額100%の還付を行っています。

シンガポール

シンガポール個人所得税税制での控除項目には最近いくつかの変更があり、今後も実施が予定されています。2023年度予算案の内容を例として、働くママ向けの控除詳細変更、外国人家事ヘルパー控除の撤廃や祖父母介護者控除の強化などがあります。

所得控除項目一覧(2024年2月9日時点、参考:IRAS「Tax reliefs and rebates」

家庭関連項目

人的所得控除項目控除額(S$)
労働所得控除
※前年度に雇用、年金または貿易・ビジネス・職業の源泉から課税対象となる所得があった場合
前年度末日に55歳未満:1,000
前年度末日に55~59歳:6,000
前年度末日に60以上:8,000
※心身障害者の場合はより高い控除額になる
配偶者控除
※同じ控除対象者に、扶養父母控除または心身障害の扶養父母・兄弟姉妹控除の申請は認めない
 納税者と同居または納税者の支援を受けている、且つ年収がS$4,000以下の場合2,000
 心身障害者で、納税者と同居または納税者の支援を受けている場合5,500
扶養子女控除(1人につき)(下記の条件にすべて満たす対象者のみ)
①配偶者・元配偶者の間に生まれた、または継子もしくは法律上の養子
②16歳未満、または年度内に教育機関にて全日制課程を受けている
 ①と②の条件に満たし、年収がS$4,000以下の場合4,000
 ①と②の条件に満たし、心身障害である場合7,500
働くママの子女控除(1人に付き)(下記の条件にすべて満たす女性納税者のみ)
①既婚・離婚・寡婦の母親(未婚者は認めない
②前年度に雇用、年金または貿易・ビジネス・職業の源泉から課税対象となる所得がある
③前年度に扶養子女控除の条件に満たしたシンガポール居住者の子女を持つ
第1子:所得の15%
第2子:所得の20%
第3子以降:所得の25%
※合計最大100%
扶養父母控除(納税者またはその配偶者の両親、祖父母または曽祖父母1人に付き)(下記の条件にすべて満たす対象者のみ)#
①シンガポールに永久居住している(対象が外国人の場合はシンガポールに8ヶ月以上居住)
②対象者が55歳以上で年収がS$4,000以下
 ①と②の条件に満たし、納税者と同居する場合9,000
 ①と②の条件に満たし、納税者と非同居だが納税者が対象者の扶養に年間S$2,000以上を提供する場合5,500
心身障害の扶養父母控除(納税者またはその配偶者の両親、祖父母または曽祖父母1人に付き)(下記の条件にすべて満たす対象者のみ)#
①シンガポールに永久居住している(対象が外国人の場合はシンガポールに8ヶ月以上居住)
②対象者が心身障害者
 ①と②の条件に満たし、納税者と同居する場合14,000
 ①と②の条件に満たし、納税者と非同居だが納税者が対象者の扶養に年間S$2,000以上を提供する場合10,000
祖父母介護者控除(1人分のみ)(下記の条件にすべて満たす女性納税者のみ)
①納税者が既婚・離婚・寡婦の働くママ(未婚者は認めない
②納税者またはその配偶者か元配偶者の両親または祖父母(以下「対象者」という)が下記の条件にすべて満たす:
 ・前年度にシンガポールに居住(対象が外国人の場合はシンガポールに8ヶ月以上居住)
 ・前年度に12歳以下、または心身障害者で未婚のシンガポール居住者子女を介護
 ・前年度に雇用、年金または貿易・ビジネス・職業の源泉からの所得がS$4,000以下
※同じ控除対象者に、他の納税者からの同申請は認めない
3,000
心身障害の扶養兄弟姉妹控除(納税者かその配偶者の兄弟姉妹1人に付き)(下記の条件のどちらかに満たす対象者のみ)
①納税者と同居する;または
②納税者と非同居だが納税者が対象者の扶養に年間S$2,000以上を提供する
5,500
外国人家事ヘルパー控除(ヘルパー1人分のみ)(下記の条件にすべて満たす女性納税者のみ)
①前年度に納税者かその配偶者が外国人家事ヘルパーを雇用
②前年度に、既婚で配偶者と同居もしくは配偶者がシンガポールの税務上居住者ではない、または配偶者と非同居・離婚・寡婦で扶養子女控除適用の子女が同居
前年度に支払った賃金x2
#:扶養父母控除と心身障害の扶養父母控除の控除額は対象者2人分まで。同じ控除対象に、配偶者控除または心身障害の扶養兄弟姉妹控除の申請は認めない。

保険料・積立金・学習費用関連項目

控除項目控除額(S$)
生命保険控除(下記の条件にすべて満たす納税者のみ)#
①従業員としてのCPF義務積立金、Medisave義務積立金と個人事業主としてのCPF任意上乗せ積立金が合計S$5,000未満
②自分の生命保険料を支払った(既婚男性の場合は妻の生命保険料を支払った場合も適用)
③保険会社がシンガポールに支社がある
下記のいずれか低い方で:
・CPF積立金とS$5,000の差額;または、
・納税者かその配偶者の生命保険金額もしくは支払った保険料の7%まで
受講料控除(前年度で、下記の条件のいずれかに満たす課程のみ)*
①ACRAが承認した学術的・専門的・職業的資格取得のための学習コース、セミナー、会議
②現在の就職、取引、ビジネスや職業に関連する学習コース、セミナー、会議
③3年前の1月1日~2年前の12月31日に受講し、前年度の就職、取引、ビジネスや職業に関連する学習コース、セミナー、会議
支払ったコンピューター課程の適性検査料、試験料、入学登録料、授業料の実費で、毎年最大5,500
補足退職スキーム(SRS)控除(下記の場合を除き
・拠出した年の12月31日時点でSRS口座が停止している場合;または、
・同年度に、支払った金額が拠出額と同じくなった場合
支払った金額
CPF Retirement Sum Topping-Up Schemeでの上乗せ積立金控除
※特別口座(55歳未満の受領者)、退職口座(55歳以上の受領者)、MediSave口座に適用
 受領者が納税者自身上乗せ金額が合計S$8,000未満の場合:上乗せた金額
上乗せ金額が合計S$8,000以上の場合:8,000
 受領者が下記の親族:
 ①納税者またはその配偶者の両親または祖父母
 ②心身障害の配偶者または兄弟姉妹
 ③2年度前に年収がS$4,000以下の配偶者または兄弟姉妹
上乗せ金額が合計S$8,000未満の場合:上乗せた金額
上乗せ金額が合計S$8,000以上の場合:8,000
#:傷害保険、入院保険、健康保険(MediShield、Integrated Shield Plansなど)、障害保険(ElderShield、CareShield Lifeなど)、生命保険の特約(全身・永久障害特約、重大疾病特約、保険料免除特約など)、重大疾病保険、養老保険は適用対象外
*:レクリエーション、レジャー、趣味、一般的な知識や技能が目的とした学習コース、セミナー、会議が適用対象外(例:写真、語学、スポーツ、ソーシャルメディアスキル、基本的なウェブサイト構築、Microsoft Officeなど)
*:納税者が休暇アルバイトとインターンシップ以外就職したことのない場合、または貿易、専門職、職業に従事したことのない場合、Polytechnicと大学の課程は適用対象外

その他、賃貸支出控除、慈善寄付金控除、在宅勤務支出控除、従業員と個人事業主が対象のCPF控除、納税者・その配偶者・父母を対象とした兵役控除などの控除項目もあります。すべての控除項目での合計控除額は最大S$80,000となります。

税金還付
シンガポール政府は政策に合わせて、税金還付を設けています。2024年2月9日時点で、現在適用中または過去適用したのは「親税金還付」と「個人税金還付」の2種類です。

・親税金還付(Parenthood Tax Rebate)
 親である既婚、離婚、または寡夫・寡婦は、子供(法律上の養子を含む)1人1回限りに最高S$20,000までの税金還付を請求できます。親税金還付額は下記の通り:

子供の順番親税金還付額(S$)
第1子5,000
第2子10,000
第3子以降20,000

・個人の税金還付は毎年必ずしもあるものではなく、近年では2017年度と2019年度しか行っていませんでした。

両国の比較

両者を比較すると、下記の項目が異なることがわかります。移住・事業展開の際にぜひご参考ください:

基礎控除、労働所得控除
香港:基本的にHK$132,000(約252万円)、既婚者は配偶者の課税所得がないまたは 配偶者とともに合算申告の場合のみが倍のHK$264,000(約504万円)になる
シンガポール:年齢と心身健康状況によって異なる。心身障害者でない場合、最低はS$1,000(約11万円)で最高がS$8,000(約88万円)

子女控除
香港:控除対象者は第9子までという上限がある一方、条件に満たせば、控除額が全員同じく「誕生年にHK$260,000(約497万円)、その後毎年HK$130,000(約248万円)」
シンガポール:控除対象者の人数上限がないが、控除額は子供の年収と心身健康状況によって異なる。現在はS$4,000(約44万円)かS$7,500(約83万円)の2種類

扶養父母、祖父母控除(1人に付き)
香港:同居期間の条件を満たせば、控除額が最大HK$100,000(約191万円)に倍増。一人の控除対象者には一人の納税者の控除申請しか認めないが、特に控除対象者の人数制限はない
シンガポール:一人の納税者につき控除対象者最大二人分という控除人数制限があり、控除額は控除対象者の心身健康状況と納税者と同居か否かによって異なる。最低はS$5,500(約61万円)で最高はS$14,000(約155万円)

心身障害者控除(1人に付き)
香港:心身障害者控除は別項目として合計控除額に追加しており、控除額は統一にHK$75,000(約143万円)
シンガポール:心身障害者の場合の追加控除は各控除項目に付いており、別項目になってない。追加した控除額も項目によって異なり、関連項目の資料で確かめなければならない

個人税金還付
香港:近年では毎年行っている
シンガポール:2017年度と2019年度のみ行っている

香港/シンガポール特有の控除項目
香港:介護老人福祉施設控除、寡婦(夫)向けの追加控除、納税者が居住中の住宅(及び同不動産内にある駐車スペース)の借入金利息及び家賃控除
シンガポール:祖父母介護者控除、外国人家事ヘルパー控除、生命保険控除、働くママの子女控除

まとめ

個人所得税の控除システムからみて、制度のシンプルさと税金の負担を最小限に抑えることを重視する個人や家族にとっては香港の方が魅力的かもしれません。明確な控除条件と比較的均一な控除額は、居住者の税務計画プロセスを簡略化できます。一方、育児、介護、または障害に関連する特定のニーズを持つ人々にとっては、シンガポールの方が柔軟性のある税金控除システムを提供しています。

各国はそれぞれの政策に合わせて毎年の予算案で課税対象や税金控除の項目や詳細を見直しており、移住・進出を決める際には税金に関する最新情報を再確認しておくべきです。税務の専門家と相談し、ご自分の状況と財政的目標に基づいて最適な移住先・進出先を決めていくことをおすすめします。

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