【個人所得税制度】課税対象が違う?それぞれのメリットは?香港vsシンガポールで徹底比較

アジアへの移住またはビジネス展開を検討する際に、香港とシンガポールの税制を理解することは重要です。

今回の記事はでは、この2つの金融ハブの課税対象項目をご紹介し、その違いを分析します。それぞれの戦略的な税制利点を求める方はその違いをぜひ抑えておきましょう。

香港

香港における個人所得税

税務条例に基づき課税される直接税には、給与税、利益税、賃貸収入税の3種類があります。香港における「個人所得税」は課税の一種類ではなく、税額軽減適用対象のための制度です。一般的に、「個人所得税」が適用されるのは、事業主や株主、賃貸物件の所有者などです。事業収入や賃貸収入のない納税者は、給与所得税だけを計算すれば大丈夫です。

香港の個人所得税で、重要度が特に高くて項目が細かいのは給与税です。名称からして、給与税は給与のみが課税されると思われがちですが、実は手当や年金、顧客からもらったチップまで課税対象です。ここでは香港における給与税の詳細について見ていきましょう:

給与税における課税対象項目(参考:GovHK「Chargeable and Non-chargeable Income」

・給与、賃金、役員報酬
注意すべくのは、申告金額は強制積立基金制度(MPF)または他の認可された退職金制度への拠出金を控除する前の総額となります。

・コミッション、ボーナス、休暇手当、契約終了時の謝礼、解雇予告手当
雇用主が従業員に支払った項目のほとんどは、①雇用前・雇用期間中・退職後に関係なく、②金額が雇用条件同様かそれを超えたかに関係なく、個人所得税の課税対象となります。「所得」の定義に入らない項目は、労災の賠償金を含む極僅か数項目です。

・手当、特別手当、フリンジ・ベネフィット(現金手当、教育手当、休暇旅行手当などを含む)

・雇われている個人として受け取ったチップ(レストランで客が個別のウェイターに支払うもの、ツアーガイドに支払うものなどを含む)

・雇用主が代わりに支払った給与税

・雇用主が提供した居住地の賃貸価値(rental value)
通常、賃貸価値は支出および経費(教育手当を除き)を控除した後の雇用主からの収入の10%で計算されます。

・株式報酬(Stock Awards)、ストックオプション
役職や雇用されていることから得られたすべての株式報奨とストックオプションの行使、譲渡、解除によって得られた利益を申告しなければなりません。

・バックペイ、契約満了に対する謝礼金、繰延報酬、滞納した給与

・解雇手当(勤務最終月の給与、解雇予告手当などを含む)、退職手当(MPFから拠出されたもしくは拠出されたとみなされた拠出金、または退職金制度からの給付金を含む)

・年金

給与得税における非課税対象項目

・解雇補償金(Severance Payments)と長期服務金(Long Service Payments)
ただし、雇用条例(Employment Ordinance)の規定金額を超える金額は課税対象となります。

・陪審員手当

シンガポール

個人所得税における課税対象項目(参考:IRAS「What is taxable, what is not」

シンガポールにおける個人所得税の課税対象項目は大きく4種類に分けられています:

給与収入

・給与、ボーナス、役員報酬、コミッション
 ※役員報酬:シンガポールで行われる取締役会に出席する費用のみが課税対象

・その他雇用に関連する利益
項目によって扱いが違うため、ここでは例として一部のみを挙げます:
 課税対象:出産休暇手当金、雇用主支給の車、納税者の子供が学生寮に入寮する場合の補助金、CPF任意上乗せ積立金、現金の長期服務金・定年退職金
 非課税対象:会社イベントでの食事やギフト、海外出張の旅行保険料、労災補償、発生した業務経費の日当払い戻し、残業した場合の自宅と会社の間のタクシー移動

・海外からの所得
主に下記の5種類に分かれています:
 ①シンガポールを拠点とするパートナーシップを通じて受け取る所得
 ②シンガポールでの雇用に関連する海外所得(例:シンガポール企業の地域営業マネージャー)
 ③シンガポールで経営する貿易/ビジネスに関連する海外取引
 ④外国の雇用主によるシンガポールでの雇用
 ⑤シンガポール政府のための海外雇用。

・認可の年金・準備基金から受け取った退職給付金(定年前・定年退職時問わず)
 ※政府の年金計画、CPFまたはその他指定された基金から受け取った利益は課税対象

・Employee Share Option (ESOP)、及び他の形式の Employee Share Ownership (ESOW)の行使による利益

認可の年金制度から受け取った政府年金

・解雇予告手当、義済金(Ex-gratia)、謝礼金

商業、事業、専門職、職業による所得

・個人事業主、パートナーシップ
すべての自営業者(ACRAに登録されたパートナーシップのパートナーを含む)は、事業から得た収入を「給与」ではなく「事業所得」として報告しなければなりません。事業所得は、個人所得税の税率で課税される個人所得合計の一部となります。個人事業収入、雇用収入、ロイヤルティ収入、手数料収入、遺産・信託収入を含む、個人やパートナーシップでの所得は下記の条件いずれかに満たすと、所得税申告書を提出する必要があります:
 ①年度に総所得がS$22,000を超える
 ②年度に純利益S$6,000以上の自営業所得がある
 ③シンガポールから所得を得た非居住者である

・政府補助金収入
Wage Credit Scheme(WCS)制度による賃金クレジットの支給は、従業員の賃上げを補助する政府補助金であるため、雇用者の課税される収入とみなされます。Jobs Support Scheme(JSS)制度からの支給は、雇用者にとって非課税となりますが、雇用主がJSS支給金を金銭の形で他の者に渡す場合、その金銭の受取人にとっては課税対象となります。COVID-19に関連する補助金では項目によって取り扱いが違います。

・仮想通貨
ビットコインなどの仮想通貨での報酬や収益は、シンガポールで受け取る所得として課税対象となります。取引での商品またはサービスの公開市場価格に基づくことが一般的ですが、商品またはサービスが仮想通貨のみで取引されるなど公開市場価値を決定できない場合、取引時点の仮想通貨の為替レートを使用することができます。通常の業務で仮想通貨を売買する事業者や金銭と引き換えに仮想通貨を採掘・取引する事業者は、仮想通貨の取引から得られる利益に対して課税されます。長期投資目的で仮想通貨を購入した企業は、その仮想通貨の処分からキャピタルゲインを得ることができ、このような利益は課税対象とはなりません。注意すべくのは、仮想通貨の処分による利益がトレーディングかキャピタルゲインかは、それぞれのケースの事実と状況によって異なります。判断基準として、目的、取引の頻度、保有期間などの要素が考慮されます。

不動産および投資からの収入

・賃貸料収入
賃貸料収入とは、不動産を賃貸した際に受け取る家賃および関連する支払いの全額を含みます。例えば:物件の家賃、メンテナンス費用、家具や備品の賃料。敷金の場合、一般的に、敷金の没収は総賃料の一部とみなされ、課税対象となります。賃借人による物件の破損が原因で敷金が没収された場合、その破損を修繕するためにかかった費用を請求できます。不動産の転貸の場合、自宅に住みながら空き部屋を貸すなど、不動産の一部を賃貸する(転貸)ことによる家賃収入は課税対象となります。また、賃借している不動産について保険金からの回収があった場合、その回収額は課税対象となります。不動産が共同所有の場合、家賃収入は共同所有者全員の法定相続分に応じて課税されます。一方、賃貸期間中、賃貸収入を得るために発生した費用は、税額控除として請求することができます。

・配当金

課税対象項目非課税対象項目
協同組合からの配当金(例:NTUC Fairprice Co-operative Ltd, NTUC Healthcare Co-operative Ltd, The Singapore Police Co-operative Society Ltd.)シンガポールのone-tier法人税制に基づくシンガポール住所の企業による配当金(協同組合を除く)
シンガポールに住む個人がシンガポールのパートナーシップを通じて受け取った外国からの配当金
※特定の条件が満たされる場合、一部の配当金は税免除の対象となる可能性がある
シンガポールに住む個人がシンガポールで受け取った外国からの配当金(シンガポールのパートナーシップを通じて受け取ったものを除く)
不動産投資信託(REITs)からの配当金(シンガポールのパートナーシップを通じて個人が受け取る所得、またはREITsでの取引、事業もしくは職業の遂行に関連する場合)不動産投資信託(REITs)からの配当金(シンガポールのパートナーシップを通じて個人が受け取る所得でない場合、またはREITsでの取引、事業もしくは職業の遂行に関連する場合を除く)

・利息

課税対象項目非課税対象項目
シンガポールの非承認銀行への預金シンガポールで承認された銀行への預金
シンガポールでライセンスを取得していないファイナンス会社への預金シンガポールでライセンスを取得した金融会社への預金
シンガポールの質屋債券などの有価証券(パートナーシップによって所有されている場合、または商取引の在庫の場合を除く)
企業、個人などへの貸付外国企業または事業が支払う利子など外国源泉のもの(外国からの利子がパートナーシップによって得られる場合を除く)
※外国企業または事業のシンガポール支店が支払う利子は、シンガポール源泉であるとみなされる
従業員のCPFの任意上乗せ積立金の払い戻し
パートナーシップによって所有されている債券、または商取引の在庫として所有されている債券

・不動産、株式および金融商品の売却利益
シンガポールにおける不動産、株式、金融商品の売却利益は、通常、課税対象とはなりませんが、「不動産の売買」による利益は利益追求の動機があるとみなされて課税対象となる場合があります。判断基準として、取引の頻度、不動産売買の理由、不動産を長期間保有するための資金確保手段や保有期間などが考慮されます。一方、シンガポールの不動産の売却による利益、株やその他の金融商品(仮想通貨を含む)の売買から得られた利益や損失と保険からの支払いは、非課税対象となります。

その他の収入

・年間定期支払い
年間定期支払いとして、保険会社から購入した年金保険契約、贈与・相続と資産の売却や権利の放棄に対しての支払いは、基本的に課税対象となります。しかし、下記の状況で受け取った場合では一部または全額が課税対象となるのでご注意ください:
①シンガポールでの事業、ビジネスもしくは職業の遂行、またはシンガポールのパートナーシップを通じて受け取った
②補足退職スキーム(SRS)
③雇用中または退職時に支払われる年金やその他の雇用給付金の代わりに、雇用主によって購入された年金保険

・扶養料と維持費の支払い
シンガポールでの契約または裁判所の命令に基づいて受け取られる所得では、下記の項目が課税対象となります:
①裁判所の命令または別居契約書に基づく扶養手当
②養育費の命令または別居契約書に基づく子供の養育費
③Maintenance of Parents Act(親の扶養に関する法律)に基づく親の扶養費

・遺産/信託の所得
管理中の遺産または信託からシンガポールで受け取られる所得は、課税対象となります。

・National Service Housing, Medical and Education Award(NS HOME)からの賞金
NS HOMEアワードは、国民服務に奉仕するシンガポール市民の貢献を認識するために、国防省と内務省によって授与する賞です。その中で、Post-Secondary Education AccountおよびCPF MediSave/Ordinary Accountに支給される賞金は課税対象です。しかし、LifeSGアプリを通じて受け取ったS$500/1,000のクレジットの利用は課税対象となるのでご注意ください。

・印税
著作権、特許と商標から得た印税は、シンガポール居住者もしくはシンガポールにある常設施設によって直接もしくは間接的に支払われた場合、またはシンガポールで獲得もしくは発生する所得に対して控除可能な場合、シンガポール源泉の収入だとみなされます。文学、演劇、音楽、芸術作品、または承認された知的財産もしくは承認されたイノベーション技術の場合、印税の課税税率は優遇されます。しかしその優遇は、新聞紙、定期刊行物と2017年度より承認された知的財産またはイノベーション技術で出版された著作物の印税には適用されません。

・賞金
シンガポールでの賭博や宝くじ(4D、Toto、サッカー、Singapore Sweep、競馬、フルーツマシン(ジャックポット)、カジノなど)から得られ賞金は、課税対象となります。

・補足退職スキーム(SRS)からの引き出し
SRS口座からは、現金で、または投資(適用の引き出し種類の場合)で、いつでも資金を引き出すことができ、その引き出しは課税対象となります。引き出しの時期と種類によって、税率と課税対象となる引き出し額が決まります。外国人またはシンガポール永住者がSRS口座からの引き出すも、源泉徴収税の対象となります。

比較

両者を比較すると、下記の項目が異なることがわかります。移住・事業展開の際にぜひご参考ください:

・給与
香港:ボーナス、手数料、手当はもちろん、住居家賃価値や雇用主が支払う税金などの利益も含まれており、課税対象の範囲が比較的に広いです。
シンガポール:特定の要素を区別しており、例えば取締役の報酬からは取締役会の出席料を免除され、会社のイベント、海外旅行保険、食事の経費などの利益は非課税対象です。

ボーナス:
香港:契約完了ボーナスや延期ボーナスなど様々なボーナスに課税しています
シンガポール:COVID-19サポートプログラムに関連する一部のボーナスは非課税対象ですが、他の一部のボーナスには税金を課しています。

・退職に伴う利益
香港:勤務最終月の給与、解雇予告手当などを含む解雇手当、MPFの拠出額は課税対象所得に含めています。一方、解雇補償金と長期服務金は非課税対象です。
シンガポール:承認された年金制度への拠出に税金を課しますが、政府の年金制度の給付には免除を認めています

・投資からの利益
香港:一般的に株式やオプションからの利得が課税対象となっています。
シンガポール:特定の金融商品の売却利得や収益を求めない取引に対する利得は非課税対象です。

・海外からの収入
香港:香港の雇用から派生した外国の源泉所得に税金を課しています。
シンガポール:特定の種類の外国所得、例えばシンガポールを拠点とするパートナーシップからの収入やシンガポールに関連する雇用などにも税金を課しています。

・不動産関連
香港:賃貸収入は賃貸収入税の課税対象です。
シンガポール:家賃収入に課税しますが、関連する経費に対する控除を認めています

・株式関連
香港:全ての株式配当と株式オプションに税金を課しています。
シンガポール:従業員の株式オプションからの利得に税金を課しますが、他の従業員株式所有計画には免税措置を提供しています。

・仮想通貨関連
香港:関連する規定が整っていません。
シンガポール:場合によって非課税対象になる場合もあり、関連の規定や判定基準があります

まとめ

香港とシンガポールのどちらに適しているかは、個人の財政状況、雇用形態や習慣など、さまざまな要因に依存しています。税制のわかりやすさと税金節約の観点から見ると、両方にはそれぞれの利点があります。

香港の場合、税制はそのわかりやすさと均一な税率で称賛されることがよくあります。基本的な雇用形態が適用されている個人や固定の給与から収入の大部分を得ている人々にとって、香港は魅力的な場所かもしれません。香港では、キャピタルゲイン課税、付加価値税が課されず、比較的に簡単なポートフォリオを持つ個人にはメリットになる可能性があります。また、香港の地域税制は、香港から得られた収入だけが課税の対象となり、収入の大部分が香港外で生み出される個人にとって有利かもしれません。国際的なクライアントを持つ専門家や国際ビジネスに従事する者は、この税制が特に魅力的だと考える人が少なくないでしょう。

シンガポールの税制はその包括性とさまざまなインセンティブで知られており、その段階的な税制は高所得者でも税率が大幅に増加することがありません。比較的に複雑な財務状況を持つ個人、例えばボーナス、株式オプション、手当などさまざまな種類の所得を得ている人々にとって、シンガポールの税制の方が適しているかもしれません。シンガポールは特定の種類の所得に対するターゲット向けの免除措置を提供し、投資とイノベーションを奨励しています。起業家、多様な所得源を持つ専門家、または研究開発活動に従事する個人は、シンガポールのインセンティブと免税措置が有利でしょう。それに加えて、特定の金融商品の売却利得や特定の配当に対する課税免除は、投資家にとって魅力的かもしれません。

まとめると、所得の組み合わせが簡単で国際ビジネスに焦点を当てる個人は、香港の税制が有利かもしれません。一方、より多様な所得種類を持ち、特定の免除を活用したいと考える人々は、シンガポールの制度がより適しているかもしれません。各税制の影響を検討する際、個々の状況に合わせたアプローチを確保するためには、税務専門家と相談することが重要です。

次の記事では、両方の税制での控除項目や控除額についてご紹介し、控除の面でも徹底比較していきます。

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