経験談あり!香港教育、香港人従業員の特徴と採用事情
前回の記事で、香港の教育システムと学歴資格体制についてご紹介しました。
学歴以外に、教育の特徴も人の習慣や態度に影響し、仕事にも関わっています。今回の記事では、香港教育の特徴に関わる香港人従業員の特徴、及び香港での採用事情について、筆者自身の経験を例に付けてご紹介したいと思います。
香港小中学校教育の特徴に関わる香港人従業員の特徴
・国際的な物事の見方、優れた多国語力
国際都市であるゆえ、香港の学生は比較的国際的なものの見方が育てられています。言語も広東語(世界でよく使われている言語17位)、英語(1位)、中国語(2位)の3つが使えるのが一般的です。それに加えて、日本語、韓国語、フランス語などの外国語の課程を提供している機関もたくさんあり、それらの言語が使える香港人は少なくないです。
英語がメインの公用語であるシンガポールに比べると劣りますが、一部(114校)の香港中学は国語や中国歴史は除く全教科を英語で教育しており、EF Education Firstの調査によると香港人の英語力はアジアで4位となっております。
・能力重視
香港の教育は日本のに似ておりよく「詰め込み教育」だと言われていますが、日本とは大きく異なり、香港は義務教育中であっても進級できるレベルに達していない場合は留年になります。反対に、極めて珍しいのですが、優秀であれば飛び級をすることもあります。学校でのクラスも成績の優秀な順に分けられる場合が多く、香港教育の「能力重視」と「エリート教育」の一面が見えます。
仕事面でも、自分の能力に見合った待遇のために積極的に交渉する従業員が多く、年功序列が伝統である日本企業にとってはアグレッシブに見えるかもしれません。
・行事よりは仕事
日本の学校は、入学式、卒業式や運動会、文化祭など一年を通して多くの行事があり、全員で取り組むことでチーム力や企画力などを育む機会となります。香港の小中学校でも入学式、卒業式、運動会や遠足など一応ありますが、やはり成績重視になっているので、雰囲気的に運動会以外はあまり重視されておらず、行事は事務的に行っている感じが強いです。学生も殆どは行事にあまり関心を持っておらず、筆者の学生時代には行事が学習・休憩に対して邪魔だと思う学生までいました。
実際筆者が務めていた香港系の小型企業でもクリスマスパーティーが行われていましたが、殆どの社員はそこまで熱心ではありませんでした。
・効率重視、タイトなスケジュール
香港の小中学校ではよく「生徒全員楽器を習う」など音楽や体育などへの強制的な課外活動方針が実施されており、学力向上のために学生たちはよく放課後に様々な塾に通い、また、中学には学生たちが主導するクラブ活動があり、学習時間以外も香港の小中学生たちの生活は大忙しです。それが高等教育の段階に入り、人生一大事の統一テストもなく強制的な課外活動方針もなくなり、やっとアルバイトや遊ぶ時間を確保できます。詰めすぎたスケジュールはストレスの要因の一つですが、それに慣れた香港人は効率重視で、卒業後でも勤務時間でもプライベート時間でもついスケジュールを詰めてしまいます。
香港での採用について
香港の従業員の中では、「魚唔過塘唔肥(魚は別の池に移してこそ太くなれる)」ということわざがあり、よりいい仕事環境や待遇を求めるには転職しかないと強く信じている人が多数で、終身雇用が伝統である日本とは違って香港の職場では転職はごく普通なことです。
ここでは香港従業員が仕事における最重視している要素について最新情報をお伝えします。
Randstad社の委託を受けたKantar TNS社が2022年1月に3,027人の香港従業員をインタビューし、従業員や求職者が新しい仕事を探すのに重視している要素について調査しました。
結果、2022年になって香港の従業員が仕事における一番魅力的に感じる要素は「ワーク・ライフ・バランス」(60.4%)で、初めて2位の「給与と福利厚生」(60.2%)を超えました。3位から順に「企業の財務健全性」(49%)、「雇用保障」(48%)と「楽しい仕事環境」(44%)。
また、18~34歳の78%が「雇い主が提供するスキルアップ研修」を重視していると回答し、58%は「個人のキャリアパス」をとても重視していると回答しました。Randstad社香港区総監のBenjamin Elms氏が、「香港の従業員は魅力的な企業や頼れる雇い主にキャリアパスの発展やスキルアップの機会を求めている。優秀な人材を確保するために、企業は従業員が仕事で達成感を得られるように見直しを続けるべき」とコメントしました。
言語力が優れている香港人材にとって、日系を含めた外資系企業は人気なのでしょうか。
香港青年協会青年研究中心(YRC, HKFYG)が創立した「青年創研庫(Youth I.D.E.A.S.)」が2021年6月に18~34歳の青年520人にインタビューした結果、60%以上の回答者が企業の背景について好みがあると回答しました。2019年に発生したデモで若年層に政府や中国系の企業への不信を募らせたためか、政府系(6.3%)と中国系(5%)企業に対し、香港系と外資系(日系を含む)企業の好む確率は比較的高く、26.9%と20.4%となっています。
また、求人プラットフォームについて、シンガポールでは官営の求人サイトが信頼されており若い利用者も多数いますが、香港ではその逆で、年長であるほど労工処で求人広告を探し、または官営の求人サイト「iES」を利用します。若年層はJobsDBなどの民営求人サイトを通じて求人先に直接応募するか、企業に在籍している知り合いに紹介してもらうのが一般的です。
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採用担当必見!香港VS日本での教育システムと学歴資格体制
前回の記事ではシンガポールと日本の教育システムを比較しご紹介しました。
シンガポールと比べて、香港の方が日本の教育システムに似ているかもしれませんが、違う点や習慣もあります。
今回の記事では筆者自身の経験から香港の教育システムについてご紹介します。香港教育の特徴と採用事情については次回ご紹介する予定です。
香港の教育システム
2008年度までの教育制度はイギリス植民地時代からの方式を取り入れたもので、小学校6年(Primary 1-6)と中学前期課程3年(Secondary 1-3またはForm 1-3)を含む義務教育が合計9年、その後の中学後期課程(Secondary 4-5またはForm 4-5、高校に相当)2年、大学予科2年(Secondary 6-7またはForm 6-7)、大学3~4年(学科によります)となっていました。
学制改革により、2009年度のForm 4入学者から「六三三四制」と呼ばれる新教育制度が適用となり、2011年度からForm 6-7の予科課程が廃止され、中学後期課程3年・大学課程4年がと定着しました。
香港での学歴資格体制「Qualifications Framework」
「資歴架構(Qualifications Framework・HKQF)」とは香港の教育局より制定された学歴の資格に関する体制で、香港で取得可能なの学歴を下記の7級に分けています:
第1級:証書(香港でのForm3相当)
第2級:証書(香港旧教育制度Form5で受験する香港中學會考(HKCEE)相当)
第3級:香港中学文憑(HKDSE)、基礎課程文憑(Diploma of Foundation Studies)、毅進文憑(Diploma Yi Jin)(香港新教育制度でのForm6、または旧制度でのForm7相当)
第4級:高級文憑(Higher Diploma)、副学士(Associate Degree)、専業文憑(Professional Diploma)
第5級:学士(Bachelor’s Degree)
第6級:碩士(Master’s degree・修士)、深造文憑(Postgraduate Diploma、PgDip)
第7級:博士(Doctor’s degree、PhD)
香港での中学校以降の教育機関
・ローカル大学と法定学院
主に学士以上の課程を提供している教育機関ですが、その付属学院では副学士など「資歴架構」第4級以下の課程を提供している場合もあります。
現時点で、香港で学士以上の課程を提供しているのは以下の合計11校の大学と1校の法定学院となります:
「8大」と呼ばれている公的資金の補助を受けている大学8校
・香港大学 The University of Hong Kong(HKU)
・香港理工大学 The Hong Kong Polytechnic University(PolyU)
・香港中文大学 The Chinese University of Hong Kong (CUHK)
・香港浸会大学 Hong Kong Baptist University(HKBU)
・香港城市大学 City University of Hong Kong(CityU)
・香港科技大学 The Hong Kong University of Science and Technology(HKUST)
・嶺南大学 Lingnan University
・香港教育大学 The Education University of Hong Kong(EdUHK)
私立大学3校
・香港都会大学Hong Kong Metropolitan University(HKMU、元香港公開大学The Open University of Hong Kong(OUHK))
・香港樹仁大学Hong Kong Shue Yan University(HKSYU)
・香港恒生大学Hang Seng University of Hong Kong(HSUHK)
舞台芸術の人材育成専門の法定学院1校
・香港演芸学院The Hong Kong Academy for Performing Arts(HKAPA)
その中でもにも香港大学、香港理工大学、香港中文大学、香港城市大学、香港科技大学の5校が世界大学ランキングで常に総合トップ100位以内に入っています。
・海外大学と国際連携教育課程
海外大学の学位を取得するには、海外へ留学するのは勿論、実は香港にいても国際連携教育課程を修了することで取得できます。
例えば、筆者自身は香港城市大学付属の専業進修学院(CityU SCOPE)とイギリスのセントラル・ランカシャー大学(University of Central Lancashire・UCLan)が連携した国際ビジネスコミュニケーション課程を香港で修了し、UCLanの学士学位を取得しました。
国際連携教育課程が普及してきた今、海外大学の学位を持っている人でも必ずしも海外留学を経験したわけではありません。
・その他「資歴架構」第4級以上の課程を提供している教育機関
香港学術及職業資歴評審局(HKCAAVQ)の審査を通ればった以上、学歴の授与が可能です。香港では副学士など「資歴架構」第4級以上の課程を提供している教育機関が多数あるためここではリストアップしませんが、多くは「学院」が学校名に付いています。
審査を通った課程はこちらのシステムにて検索・確認できるようになっています:
http://www.hkqr.gov.hk/HKQRPRD/web/hkqr-en/search/op-search/index.html
では香港の教育における特徴が香港人従業員の特徴にどう関わっているのか、及び香港での採用事情について、筆者自身の経験を例として次回の記事でご紹介したいと思います。
解雇補償金・長期服務金へのMPF相殺廃止!企業が知っておくべき情報
強制性公積金(MPF)という積立金制度が2000年に実施されて以来、「MPF相殺」の仕組みは長く利用されています。「相殺」とは、香港法人が従業員に解雇補償金・長期服務金を支払う場合、MPFのAccrued Benefit(退職給付引当金)の会社負担分で充当することが、法律上許容されています。
積金管理局(MPFA)が発表した「強制性公積金計画統計摘要(Issue of the Mandatory Provident Fund Schemes Statistical Digest)」レポートによると、解雇補償金と長期服務金に充当されたMPF資金の総額は、2021年度だけで66億香港ドル(約1141.7億円)になります。
MPF相殺の仕組みが実施されて以来、従業員への搾取ではないかと批判されていますが、従業員側と企業側の間の合意には至っていませんでした。相殺の実施が22年目になり、香港立法会は2022年6月9日にMPF相殺廃止についての法案を通過させました。
MPF相殺の廃止で企業の負担増加が予想され、今後の資金運用調整のために企業が知っておくべき情報を今回のブログでご紹介します。
解雇補償金・長期服務金とは?
香港の雇用条例によると、下記の条件に合致する場合、従業員は解雇補償金または長期服務金のどちらかを受給する権利があります:
解雇補償金:
継続的契約(※)での雇用期間が24ヶ月以上であり、かつ下記の条件のいずれに合致:
・余剰人員整理を理由として解雇されたこと
・定められた雇用契約期間の満了後、余剰人員整理を理由として更新されなかったこと
・業務停止で解雇相当事由があったこと
長期服務金:
継続的契約(※)での雇用期間が5年以上であり、かつ下記の条件のいずれに合致:
・重大な不当行為または余剰人員整理以外の理由で解雇されたこと
・定められた雇用契約が期間満了後、更新されなかったこと
・従業員が在職期間内に死亡したこと
・名簿に登録された医者・漢方医が恒久的に契約上の業務を遂行できないと判断された証明書(LD424(S))を従業員が提示、健康上の理由で自己都合退職したこと
・65歳以上の従業員が高齢を理由に自己都合退職したこと
※継続的契約の定義についてはこちらの記事をご参照ください
注意すべきなのは、解雇日の7日以上前(解雇補償金の場合のみ)、または定められた雇用期間の満了日の7日以上前に、雇い主が書面により「雇用契約の更新」、または「新しい雇用契約での再雇用」を申し込んだにも関わらず、従業員が不合理な理由で拒否した場合、従業員は解雇補償金と長期服務金の受給権利を失ってしまいます。
解雇補償金・長期服務金の計算方法
解雇補償金及び長期服務金の計算方法は以下の通りとなります:
月給制の場合:
(最終の月額賃金(#1)×2/3)(#2)×算定可能な勤続年数
日給制・出来高払いの場合:
直前30日のうち従業員が選択した通常の就労日18日間の合計賃金(#1・#2)×算定可能な勤続年数
*解雇補償金・長期服務金の最大金額は39万香港ドルとなります
*算定可能な勤続年数が1年未満の場合は按分計算されます
#1:従業員はこの金額の計算のために雇用契約終了の直前12ヶ月の月額平均賃金を選択できます。解除予告手当による雇用契約解除の場合は、従業員は解除予告手当の計算に含まれる最終日の直前12ヶ月の月額平均賃金を選択できる。
#2:当該金額の上限は22,500香港ドルの3分の2(=15,000香港ドル)となります
現在の「MPF相殺」の仕組み
MPF相殺廃止案が通過されたとはいえ、実施されるまでの間は現在の仕組みを使い続けなければなりません。現在の仕組みは以下の通りです。
「相殺」の仕組みで、香港法人は従業員に解雇補償金・長期服務金を支払うために、MPF会社にAccrued Benefit(退職給付引当金)での雇い主負担分の受取を申し込むことができます。Accrued Benefitとは、雇い主が毎月従業員の基本給、諸手当などの総支給額の5%(上限1,500香港ドル)をMPFの口座に入金し、MPF会社の投資運用によって左右されている金額です。投資状況によっては運用利益がマイナスになるケースもあるので、事前に計算しておくことが難しいです。
雇い主負担分のAccrued Benefitが解雇補償金・長期服務金より多い場合、解雇補償金・長期服務金が相殺され、雇い主は追加払いする必要がありません。逆に雇い主負担分のAccrued Benefitの方が少ない場合、雇い主はその差額を追い払わなければなりません。
下記の2つの例を見ていきましょう:
1. 雇い主負担分のAccrued Benefitが解雇補償金・長期服務金より多い場合:
解雇補償金・長期服務金の金額 30,000香港ドル
雇い主負担分のAccrued Benefitの金額 50,000香港ドル
MPF相殺可能な金額 30,000香港ドル
雇い主が追加払いする差額 0香港ドル
相殺後MPF口座での残額 20,000香港ドル
2. 雇い主負担分のAccrued Benefitが解雇補償金・長期服務金より少ない場合:
解雇補償金・長期服務金の金額 30,000香港ドル
雇い主負担分のAccrued Benefitの金額 20,000香港ドル
MPF相殺可能な金額 20,000香港ドル
雇い主が追加払いする差額 10,000香港ドル
相殺後MPF口座での残額 0香港ドル
MPF相殺が廃止された後
MPF相殺廃止実施日(現在未定)より、MPF雇い主負担分のAccrued Benefitで解雇補償金・長期服務金を充当することはできなくなりますが、実施の遡りはできないので、実施日前の部分は現在のMPF相殺仕組みで計算することができます。
例えば、最終の月額賃金が15,000香港ドルで勤続年数が5年の従業員Aが、MPF相殺廃止実施日の1年後に余剰人員整理で解雇される場合、その解雇補償金とMPFの計算は2つの部分に分けて計算します:
最初の4年分:
解雇補償金の金額 40,000香港ドル
雇い主負担分のAccrued Benefitの金額 36,000香港ドル(全額相殺)
雇い主が追加払いする差額 4,000香港ドル
相殺後MPF口座での残額 0香港ドル
最後の1年分:
解雇補償金の金額 10,000香港ドル
雇い主負担分のAccrued Benefitの金額 9,000香港ドル
雇い主が払う金額 10,000香港ドル(^)
相殺後MPF口座での残額 9,000香港ドル
^香港政府は329億香港ドルで25年の補助期間で解雇補償金・長期服務金の一部の金額を補助する予定で、企業の負担金額は下記の立法会資料の19ページ目をにご参照ください:
https://www.legco.gov.hk/yr2022/english/panels/mp/papers/mp20220204cb2-39-1-e.pdf
注意すべきなのは、雇い主が自発的追加負担分のMPFや従業員の勤続年数に応じた退職金(Gratuity)がある場合、今回の相殺廃止案に影響されなく、引き続き解雇補償金・長期服務金に充当することができます。
現時点で、MPF相殺廃止の実施は早くて2025年を予定しており、企業に解雇補償金・長期服務金の支払いに備えさせるために専門口座の新設が必要なのですが、詳細はまだ発表されていません。最新情報が発表され次第、続報いたします。
MAYプランニングでは、香港法人を運営していく上で必要な労務管理に関わるサポート、貴社のケースに応じたMPF相殺廃止案に関するコンサルティングなど様々なサービスを提供しております。お困りの方はお気軽にご相談ください。
採用担当者必見!シンガポールVS日本での教育システムと採用事情
人材採用にあたって、学歴が条件とされているのはよく知られています。
特に新卒応募者は社会人経験がないため、入社後に教育されていく中で読解力や理解力などの潜在能力をどれくらい発揮できるかを見極める為、学歴要件が重視されているポイントの一つです。
転職の応募者でも、職務経歴書や面接だけではなかなかその人の能力を全て知ることが難しいため、「この学歴であれば、これくらいの知的好奇心、論理的思考力や直観力はあるだろう」と考える採用担当者が多いです。転職・求人サイトDODAのデータによると、60%の求人は学歴を問い、44%は大卒以上を求めています。
ニュースサイトの「まいどなニュース」が日本全国の人事・採用担当者300人を対象に「採用時のバイアス(偏り・偏見)に関する調査」を実施したところ、「自社の採用時の評価に関する学歴の影響」について、「やや影響している」(36.3%)、「かなり影響している」(5.7%)をあわせて42%の人が「影響している」と回答したそうです。また、「学歴が影響している理由」については、「基礎能力があると判断できるから」(50.8%)、「活躍人材を採用したいから」(46.8%)、「業務能力が高い可能性があるから」(45.2%)という回答が続きました。
今回の記事では、シンガポールと日本の教育システムと採用事情を比較してご紹介します。
シンガポールでの教育システムについて
シンガポールの教育システムはイギリスの植民地時代の影響を大きく受けており、日本の教育制度と比べるとかなり複雑です。

日本の義務教育が小学校の6年間と中学校の3年間、合計9年間の普通教育が含まれているのに対し、シンガポールの義務教育はPrimary School(小学校)までとされています。
Primary Schoolを卒業する際に、Primary School Leaving Examination(PSLE)という今後の進路決定を大きく左右する全国統一テストを受験しなければなりません。
受験結果によって進路が7つのレベル別コースに分けられ、Secondary(中学校)以降は学力別の教育機関に通い、大学進学のコース或いは技術系の学校(ITE・Institute of Technical Education)進学コース、各自希望の教育機関への最短経路が決まります。
シンガポールで大学へ進学するには、PSLE以降もOレベルとAレベル両方のGCE(The Singapore-Cambridge General Certificate of Education)の合格が求められます。
GCEのOレベルとは、Ordinary Level(GCE O-Level)を指し、各教育機関の入学資格として機能しています。Oレベルの合格を経て、次はAレベル(GCE A-Level)へと進みます。
Oレベルに合格すると、基本的にJunior Colleges/Centralised Institute 、Polytechnics、ITEもしくはArts Institutionsに進学する権利が得られます。
Aレベルに合格すると、ローカル大学に進める権利を与えられます。
PSLEでの成績があまり良くなくても個人の頑張り次第で大学進学もできますが、優秀層より長い年月がかかるため実際の進学率は低いようです。
そのため大学進学を希望する際には、小学校卒業時点で受験するPSLEがとても重要になっており、初等・中等教育が全員同じ年月をかかり、進路が一般的に高校時代で決められる日本の教育システムとは全く違います。
シンガポールでの上位教育機関
・シンガポール国内トップ大学
A levelに合格した者、もしくはローカルのPolytechnic出身の優秀層のみが進学する下記の6校になります:
・シンガポール国立大学National University of Singapore(NUS)
・南洋理工大学Nanyang Technological University(NTU)
・シンガポールマネージメント大学Singapore Management University(SMU)
・シンガポール工科デザイン大学Singapore University of Technology and Design(SUTD)
・シンガポール工科大学Singapore Institute of Technology(SIT)
・シンガポール社会科学大学Singapore University of Social Sciences(SUSS)
中でもシンガポール国立大学 、南洋理工大学の2校がQS社による世界大学ランキング(World University Rankings)で常に総合トップ100位以内に入っています。
2022年のデータによると、シンガポール国立大学(NUS)は総合で世界11位で、南洋理工大学(NTU)は総合で世界12位になっております。その他、シンガポールマネージメント大学(SMU)もビジネス管理学科で世界36位、会計ファイナンス学科で世界49位にランクインしており、比較的に高い評価を得ています。
・その他私立大学
シンガポール人の中にはイギリスやオーストラリアなど海外大学出身の人も多くいます。
シンガポール国外の大学の方が国内の大学よりも様々な専攻を学べるなどメリットがあります。シンガポールの国内の大学の場合、オンライン学習がメインとなります。
・シンガポールのPolytechnic
エンジニアなど理工の人材育成が主な役割の教育機関です。IT、健康、科学、メディアやデザインに関する専攻学科も提供しています。
シンガポール国内には、Nanyang Polytechnic、Republic Polytechnic、Temasek Polytechnic、Ngee Ann Polytechnic、Singapore Polytechnicの5校しかありません。
・Diploma Certificate(Kaplanなど)
日本でいうと高校卒業資格に近いイメージがあります。
専門知識や資格を修得し、私立大学に進むケースが多くあります。
・ITE(Institute of Technical Education)
PolytechnicやArts Institutionsに進む一歩手前の段階で、5つのPolytechnic同様シンガポール教育部の教育機関の一つです。
工学、会計、マネージメント、看護、医薬品、建築や法律などの専門的課程と実習トレーニングを提供しています。
シンガポールでの採用について
シンガポールで人材採用する際、日系企業のほとんどが大学卒業(Bachelor’s Degree)を求めています。
そして、現在では専門職の需要が高く、実務経験、異文化コミュニケーション力や問題解決力など学校で教えられていないスキルがよく求められており、大学卒業であっても新卒の就職がより難しくなっています。
一方、今どきの応募者について、Kelly Services社の副社長Mark Hall氏がCNBCのインタビューで「今のシンガポールでは、多くの応募者、特に大卒の方は、給与など金銭的利益よりのみでなく、企業の種類や業種などの要素を重視している。卒業生はよく色々な役職を試し、最終的なキャリアパスを決める前にある程度の実務経験を積み重ねるのが一般的だ」と語りました。シンガポールでは転職が当たり前であるため、日本の伝統的な「終身雇用」の概念とは相当違います。
では、シンガポールでの人材は企業に何を求めているのでしょうか。シンガポールの求人プラットフォームGlints社はシンガポールの新卒応募者が企業に一番求めている点をいくつか挙げました:
1. ワーク・ライフ・バランス
2. 自分自身の能力に基づいた適切な給与
3. 昇進するチャンス
4. メンタリング
5. 仕事場で活かせるトレーニング機会
6. 企業の長期ビジョン
専門職や即戦力が求められている今、人材採用で学歴以外にも重要な考慮点が色々あるはずです。シンガポールの教育システムでは大学以外にもPolytechnic、Arts InstitutionsとITE、3つの高等教育機関が専門的な課程を提供しており、大卒ではなくてもこの3種類の高等教育機関の資格を持つ応募者も考慮に入れてはいかがでしょうか。
また、最終的なキャリアパスが決まる前に転職回数が多い傾向があるシンガポールの候補者にとって働き続けたい企業であるために、企業の仕事環境やサポート内容などを定期的に見直すべきでしょう。
次回の記事では、香港の教育システムと採用事情を日本と比較しながらご紹介する予定です。
MAYプランニングでは、各産業各分野に適した人材探しのサポート、学歴採用条件でのアドバイス、人材リテンションに関わるコンサルティングなど様々なサービスを提供しております。お困りの方はお気軽にご相談ください。