【個人所得税制度】香港vsシンガポールvs日本、課税方式や税率を徹底比較

海外進出においても、海外移住においても、ビジネスや日常生活に関わってくる国際税務の仕組みを理解することは非常に重要です。

今回の記事では、アジアのハブである香港、シンガポールと日本の個人所得税について、課税方式、規定や税率を比較対照します。個人にとっても企業にとっても注意すべき税制の違いを、ぜひ抑えておきましょう。

各地の個人所得税課税方式や税法上居住者の定義

香港、シンガポールと日本の個人所得税課税方式にはそれぞれ違う規定があります。実際どう違うのか、どこまで違うのか、ここではそれぞれの方式と規定を比較していきましょう。

課税年度
香港:毎年4月1日~翌年3月31日
シンガポール:毎年1月1日~12月31日
日本:毎年1月1日~12月31日

課税方式
香港:国内源泉所得課税方式
シンガポール:国内源泉所得課税方式
日本:全世界所得課税法方式(非居住者や外国法人に対しては「国内源泉所得」のみ)

「全世界所得課税法方式」と「国内源泉所得課税方式

全世界所得課税方式とは、その国の居住者が、その国で稼得した所得のみならず、その国以外の国で稼得した所得も含めて、全ての所得に対して課税を行う方式です。つまり、課税の範囲は居住者が全世界で稼得した所得ということになります。日本の他、アジアでは中国、韓国、タイ、ベトナムやインドネシアなども全世界所得課税方式を採用しています。

国内源泉所得課税方式とは、納税者がその国で稼得した所得のみに対して課税を行う方式です。つまり、課税の範囲は納税者がその居住地国で稼得した所得のみということになります。アジアでは、香港、シンガポールやマレーシアなどが国内源泉所得課税方式を採用しています。

所得税法上の居住者における定義
税法上の非居住者は完全に納税義務がないわけではないのですが、課税方式と規定によって税法上居住者より課税される項目、税率や控除額が大きく違ったりするので、その分け方を抑えておいたほうが無難です。

香港:
・香港に自分または家族の居住用の住所を保有する者、または、
・課税年度に180日以上香港に滞在し、その前と次の年度を合わせて300日以上香港に滞在した滞在者が、
所得税法上の居住者となります。(参考:Inland Revenue Department「Double Taxation Relief and Exchange of Information Arrangements」

シンガポール:
下記のいずれかの条件を満たしたものが所得税法上の居住者となります:(参考:IRSA「Individual Income Tax rates」
・シンガポールに居住するシンガポール市民(SC)、または、シンガポール永住権保持者(SPR);
・1つの年度に183日以上シンガポールに居住または就労した外国人;
連続3年間シンガポールに居住している外国人(※シンガポールでの滞在期間が1年目および/または3年目に183日未満であっても対象となります);
・2年度に跨る連続した期間にシンガポールで就労し、合計滞在期間が183日以上の外国人(会社の取締役、芸能人、専門職を除き)。

日本:
日本国内に「住所(個人の生活の本拠)」を有し、または、現在まで引き続き1年以上「居所(その人の生活の本拠ではないが、その人が現実に居住している場所)」を有する個人が所得税法上の居住者となります。(参考:国税庁「No.2875 居住者と非居住者の区分」
日本国内の会社に勤める者が海外転勤や出向する場合、海外における在留期間が1年以上予定であればその期間中は所得税法上の非居住者となります。その期間中海外勤務における会社からの給与は所得税非課税対象です。(参考:国税庁「No.1920 海外勤務と所得税額の精算」

個人所得税税率(2024年1月17日時点)

香港、シンガポール、日本の個人所得税制度には、多様な規制と仕組みがあり、税法上の居住者にとっても非居住者にとっても、チャンスと課題の両方が存在しています。これらの違いを十分に理解することは、単なるコンプライアンスの問題ではなく、財務戦略の一方法にもできます。

香港(参考:GovHK「Tax Rates of Salaries Tax & Personal Assessment」

香港における個人所得税

税務条例に基づき課税される直接税には、給与税、利益税、賃貸収入税の3種類があります。香港における「個人所得税」は課税の一種類ではなく、税額軽減適用対象のための制度です。一般的に、「個人所得税」が適用されるのは、事業主や株主、賃貸物件の所有者などです。事業収入や賃貸収入のない納税者は、給与所得税だけを計算すれば大丈夫です。

税法上居住者か否かに関係なく、給与税の税率は標準税率15%と、段階的な2~17%の累進税率との選択制と統一されてなり、結果として給与の規模に応じて納税額に差が出ます。最終税額は所得控除後の課税所得を元に、次のように計算した金額のいずれか低い方となります。

課税所得税率     
HK$50,000まで2%
HK$50,001からHK$100,000まで6%
HK$100,001からHK$150,000まで10%
HK$150,001からHK$200,000まで14%
HK$200,001以上17%
個人所得税の累進課税税率(香港)

利益税については、2段階税率になっており、各項目の税率はこちらになります:(参考:GovHK「Tax Rates of Profits Tax」

課税対象項目税率
法人業務からの利益HK$0~HK$2,000,000:8.25%
HK$2,000,001~:16.5%
法人以外の業務からの利益HK$0~HK$2,000,000:7.5%
HK$2,000,001~:15%
非居住者の芸能人やスポーツ選手による公演利益の納税
(非居住者の芸能人やスポーツ選手と直接契約した公演の場合)
HK$0~HK$2,000,000:7.5%
HK$2,000,001~:15%
留保額(Amount to be Retained):総支払額の10%
非居住者の芸能人やスポーツ選手による公演利益の納税
(個人またはパートナーシップである非居住者の代理人を通じて契約した公演の場合)
HK$0~HK$2,000,000:7.5%
HK$2,000,001~:15%
留保額(Amount to be Retained):総支払額の10%
非居住者の芸能人やスポーツ選手による公演利益の納税
(法人である非居住者の代理人を通じて契約した公演の場合)
HK$0~HK$2,000,000:8.25%
HK$2,000,001~:16.5%
留保額(Amount to be Retained):総支払額の11%

賃貸収入税の標準税率は15%となります。

下記には香港政府が提供する給与所得税と個人所得税のオンライン計算ツールです。各項目の金額を入力すると、当年度の税額を自動的に計算してくれます:
https://www.gov.hk/en/residents/taxes/etax/services/tax_computation.htm

シンガポール(参考:IRAS「Individual Income Tax rates」

シンガポールの税法上居住者における個人所得税は累進課税で、高所得者ほど高い税金を支払うことなります。注意すべくのは、その最高限界税率が2024年度より引き上げられ、S$50万超S$100万以下の課税所得は23%、S$100万超は24%となり、いずれも従来の22%から引き上げられています。

各段階の最新税率は下記の表にご参考ください:

課税所得税率     
S$20,000まで0%
S$20,001からS$30,000まで2%
S$30,001からS$40,000まで3.5%
S$40,001からS$80,000まで7%
S$80,001からS$120,000まで11.5%
S$120,001からS$160,000まで15%
S$160,001からS$200,000まで18%
S$200,001からS$240,000まで19%
S$240,001からS$280,000まで19.5%
S$280,001からS$320,000まで20%
S$320,001からS$500,000まで22%
S$500,001からS$1,000,000まで23%
S$1,000,001以上24%
個人所得税の累進課税税率(シンガポール)

税法上非居住者の税率について、給与所得は一律15%の税率または居住者の累進税率(上表参照)のいずれか高い方の税率が適用されます。役員報酬、コンサルタント報酬、やその他すべての所得に対しての税率は現在24%で、給与所得や源泉徴収税の軽減税率(下記の「非居住者の所得に対する源泉徴収税」の表を参照)が適用される特定の所得を除き、不動産の賃貸収入、年金、役員報酬を含むすべての所得に適用されます。

所得の種類源泉徴収税率
税法上非居住者の取締役が受け取った取締役報酬を含む報酬24%
税法上非居住者の専門家(コンサルタント、トレーナー、コーチなど)がシンガポールで行ったサービスに対して受け取った所得粗利益の15%または純利益の24%
税法上非居住者の芸能人がシンガポールで行ったサービスに対して受け取った所得15%
SRS(補足退職スキーム)口座保有者が受領したSRS出金*24%
※SRS出金について、以下の条件を満たす場合、優遇した源泉徴収税率が適用されます:
i. 年度内にSRS口座保有者が引き出した累計額がS$200,000を超えないこと;
ii. SRS口座保有者が、引出しが行われた年度にSRS引出し以外の所得がないこと。
適用されるSRS口座保有者は「IR37B(1)」の申告書類で申告しなければなりません。詳しくはSRS運営者にお問い合わせください。
※15%
ローンまたは債務に関連する利息、手数料やその他の費用
(優遇条件:その所得は税法上非居住者によって営まれる商売、事業、専門職、または仕事に由来でないこと)
24%
優遇条件に満たした場合は15%
動産の使用に対する使用料またはその他の総額払い
(優遇条件:その所得は税法上非居住者によって営まれる商売、事業、専門職、または仕事に由来でないこと)
24%
優遇条件に満たした場合は10%
非居住者の所得に対する源泉徴収税(シンガポール)

日本(参考:国税庁「No.2260 所得税の税率」国税庁「No.2884 非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率」

個人所得税の税率は、分離課税に対するものなどを除くと、5%~45%の7段階に区分されています。課税される所得金額に対する所得税の金額は、次の表をご参考ください。

課税される所得金額税率所得税控除額
1,000円 から 1,949,000円まで5%0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで10%97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで20%427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで23%636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで33%1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで40%2,796,000円
40,000,000円 以上45%4,796,000円
個人所得税の累進課税税率とその控除額(日本)

注意すべくのは、平成25年(2013年)から令和19年(2037年)までの各年分の確定申告においては、所得税は復興特別所得税(原則としてその年分の基準所得税額の2.1%)を併せて申告・納付することとなっています。

一方、税法上非居住者に対して徴収するのは、国内源泉所得のみで、各項目の税率は下記の表をご参考ください:

源泉徴収の対象となる国内源泉所得税率
民法に規定する組合契約等に基づいて恒久的施設を通じて行う事業から生じる利益でその契約に基づいて配分を受けるもの20.42%
土地等の譲渡対価
(例外:土地等の譲渡対価が1億円以下で、その土地等を自己またはその親族の居住の用に供するために譲り受けた個人から支払われるもの)
10.21%
人的役務の提供事業の対価20.42%
不動産の賃貸料等
(例外:不動産等の賃貸料で、自己またはその親族の居住の用に供するために借り受けた個人から支払われるもの)
20.42%
利子等15.315%
公募証券投資信託(公社債投資信託および特定株式投資信託を除く)の受益権および特定投資法人の投資口を含んだ、上場株式等の配当等
(例外:発行済株式または出資の総数または総額の3%以上に相当する数または金額の株式または出資を有する非居住者が支払を受けるもの)
15.315%
私募公社債等運用投資信託等の収益の分配15.315%
上記以外の配当等20.42%
貸付金の利子20.42%
工業所有権、著作権等の使用料等20.42%
給与その他人的役務の提供に対する報酬、退職手当等20.42%
公的年金等
(支払われる年金の額から50,000円(年齢65歳以上の場合は95,000円)に年金の額に係る月数を乗じた金額を控除した金額に税率を乗じる)
20.42%
事業の広告宣伝のための賞金
(支払う金額から50万円を控除した金額に税率を乗じる)
20.42%
生命保険契約に基づく年金等
(払い込まれた保険料または掛金のうち、支払われる年金の額に対応する部分の金額を控除した金額に税率を乗じる)
20.42%
定期積金の給付補てん金等15.315%
匿名組合契約等に基づく利益の分配20.42%
源泉徴収の対象となる国内源泉所得とその税率(日本)

まとめ

香港、シンガポール、日本の個人所得税制度はそれぞれ独自のルールがあり、個人の状況によって有利な税制が違ってきます。

税法上居住者の分け方で3つの制度はそれぞれ違う滞在期間が要項となっており、課税方式では香港とシンガポールがよりシンプルな国内源泉所得方式で、日本は全世界の所得が課税対象となっています。

個人所得税の税率について、タックスヘイブンの一つである香港が一番低くなっており、その上事前確認のためのオンライン計算ツールを政府が常に最新版の計算方法で提供しています。

どの税制にしても、詳細の項目や規制をしっかり確認することが重要で、賢いお金の使い方にも繋がります。

次の記事では、この3つの税制における「所得」とされる課税対象項目や所得控除の項目についてご紹介します。