【シンガポールM&Aの基礎⑦】シンガポールにおける会社定款の特徴

「シンガポールM&Aの基礎」第7回目では、シンガポールにおける会社の定款についてご紹介します。

シンガポールにおける会社設立の基本のひとつが、会社の内部業務を規定する規則や規制の概要を示す定款です。
この記事では、日本における会社の定款と比較しながら、シンガポール会社での定款のニュアンスを掘り下げ、その意義とビジネスへの影響を取り上げます。

シンガポールM&Aの基礎シリーズの過去記事はこちら

会社法改正で簡素化、「M&A」から「Constitution(定款)」へ

かつて、シンガポールの会社定款の構造は多くの国々と同様で、MOA(Memorandum of Association)とAOA(Articles of Association)と呼ばれる2つの別々の文書で構成されていました。
この2つを総称して、定款のことを一般的に「M&A」と呼ばれていました。

しかし2014年、シンガポールの会社法改正により、これらの文書が「Constitution(定款)」と呼ばれる単一の文書に統合されました。
この変更は、定款の枠組みを合理化・簡素化し、企業にとってよりアクセスしやすく、理解しやすいものにすることを目的としています。

シンガポールのConstitution VS 日本の定款

シンガポールの定款は日本の定款と比べて、いくつかの決定的な違いがあります:

・性質と拘束力
日本では、定款が会社の絶対的なルールブックとして大きな力を持ちます。
定款に書かれていることに反することが別の契約書に明記されていたとしても、定款の方がより大きな権限を持ちます。
例えば、定款に「株式の売却には取締役会の承認が必須」と書かれて、その反対に、株主間契約書に「株式の売却には取締役の承認が不要」と記載されている場合、定款の方が権限が大きいため、「株式の売却には取締役会の承認が必要」となります。
やり方を変更したい場合は、正式に定款を変更しなければなりません。

逆にシンガポールでの定款は、株主と会社の間で契約書として機能します。
つまり、定款は様々な契約の中の一つに過ぎません。
株主と会社の間に株主間契約のような他の契約がある場合、株主間契約書が定款と矛盾していても、定款を変更する必要なく、これらの他の取り決めがより重要な意味を持つことがあります。
そのため、会社は定款変更の手間から解放されます。

・公開性
株主同意書とは対照的に、定款はシンガポールでも日本でも一般に公開されています。
そのため、たとえ株主間契約に非公開を希望する条項があったとしても、日本では定款を変更した上で公開しなければなりません。
一方、シンガポールでは、このような場合に定款を変更する必要がなく、特定の条項の秘密保持が認められています。

・定款の内容
日本の定款とは違って、シンガポールの定款では会社の目的や事業活動の概要を明示する必要がありません。
企業は定款の内容に制約されることなく、事業の適応や多様化に機敏に対応することができます。

これらの決定的な違いが、シンガポールの定款に対するアプローチの柔軟性を際立たせています。
日本の定款とは異なり、シンガポールの定款は、株主間の契約のように、人々が会社とその所有者の間で結ぶ他の契約と一緒に働くことができます。
このことは、企業が契約内容を変更するたびに憲法を改正する煩雑なプロセスを省くという、明確な利点をもたらします。

まとめ

コーポレート・ガバナンスの領域において、伝統的なM&A構造から統合され柔軟性と法的完全性のバランスをとったConstitutionへの転換は、ビジネス・フレンドリーな環境を育成するシンガポールのコミットメントの証です。
シンガポールへ進出するには、シンガポールの定款の特徴を理解することによって、自社の経営戦略に沿った形で社内規則や定款を構成できます。
特筆すべきは、シンガポールの制度により、企業は頻繁な定款を改正する必要がなく、より高度な契約上の自治を行使できます。
このような適応のしやすさが、ビジネスの成長とイノベーションを促進する環境を育んでいます。

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